喧嘩最強、ゲームはよわよわ
ジョジョ6部が来ると聞いて目ん玉かっぴらいた者がここに一名
「ぐぎぎぎっ……」
0という数字がある。
「ぐぎぎっ、んぐぐっ……!」
隣に12という数字がある。
[さぶくれん@黒き不死鳥からメッセージよ]
ーーーーー
三└(┐卍^o^)卍ドゥルルルルル
12連敗おちゅwwwwww
ヴィターバットたんの可愛さに震えろ
さぶくれん@黒き不死鳥
ーーーーー
「畜生がァ!!!」
ああ、そうだ。俺は負けた。1on1でランダムマッチングこの女か男かわからん"さぶくれん"と言う奴に。
それからフレンドマッチなるもので再戦するもなんと12回連続の敗北を喫した挙句メッセージで煽られ終いには 「ヴィター・バットの画像集」なるものが添付された。
なに?かわいいでしょってか?腹立つドヤ顔だよ。
こっちからは一度も勝ててない。勝ててないどころか一撃すら与えることもできず、バットにボコボコにされた。
「あんな野郎に!あんな野郎に!勝てねえのかぁ……ぐぬぬぬぬっ!!」
ここまでボッロボロだとなんかもう怒り通り越して変な笑いが込み上げてきた。このままじゃあ俺の面子が立たねえ!
[さぶくれん@黒き不死鳥から再戦の申請。承諾する?【はい/いいえ】]
「あぁ!ったりめえだよこのまま終われるか!!」
【はい】
[マッチングしたわ]
[対戦相手:さぶくれん@黒き不死鳥]
「13連勝しちゃうよぉぉ」
「もう何も言うことはねえ」
お前を倒す。
変な顔して踊るように高速でケツ振って煽り散らす。ケツデカアピールというらしい。
ふん、それもうやられすぎて微塵もイラつかねえ。微塵も。
「イラつくなぁ!!」
「逆に尊敬する、まだキレるだけのメンタルあるとか」
それで崩れて喧嘩最強は務まらねえ。負けて負けて鍛えて勝つ喜びを知ってる俺は折れねえ!
「オラかかってこいよ?13連勝するんだろ?」
「ああ、こっちから来いって?誘い受けですか?」
目には目を。歯には歯を。煽りには煽りを。
今までは俺から攻めて攻めてと戦い方をしてた。が、残念ながらこの世界の俺は身体が弱い。攻撃を何回か食らったらすぐ死ぬようにできている。現実の喧嘩でやってるような動きは通用しない。
喧嘩始めたばかりの頃を思い出せ。あの時は……打たれ弱かった。
ん?さぶくれんの様子が。
「お前は何もわかっちゃいないなぁ」
「はぁ」
くるん、くるん、くるん、と3回バットを回すと次にこう言った。
「ミル×ヴィタは、最初はミルキィが攻めでしょうが!!!解釈不一致許すマジ!!!」
ブチギレながらバットを右手に、走ってくる。【ヴィター・バット】の特徴はその目にも止まらぬ高速かつ強力なスイング。何回も相手した。
目で見て避けれるようなチャチなもんじゃねえ。さながら居合いの達人が放つ即抜刀の如し、懐に入った時点でやられる。
「ビュン」
「ひゅう」
そろそろこの身体にも慣れたし、【ヴィター・バット】の間合いの最先端が感覚でわかる。十分な距離を置いて、攻撃を避け続け、接近のチャンスを待った。気が立ってるのか少し荒い。
「どうした?余裕なくなったか?」
俺は手を差し出して指をくいっくいっと2回巻いて挑発してみせた。
「はっ……はっ、何を言ってるんですか?はいへぁぁぁんりゅりゅりゅ」
俺の挑発に乗ってその場でケツデカアピールとスカート覗きを交互に行う。気持ち悪いぞ本当に。
何度もこのキモい煽りの隙に攻撃を入れようとした。しかしながら綺麗にカウンターを決められる。これをやってる間が実は一番攻撃を警戒してるんだろう。まあ当たり前か。
俺は、その一番警戒している今この瞬間に、一歩前へ、間合いの中に入る。
「残念それ勝ちパターン」
相手は回転をぴたりとやめて、ちょうど俺と対面する。遠心力がまだかかっている高速バッティングがくる!勝ちパターン?そりゃどうかな?
「ふっ」
「ん!?」
【ヴィター・バット】のスイングに対抗するには瞬発力すら凌駕する読み。カウンターを看破して、少しのけぞって攻撃をスカす。
ああ、今の一歩は誘いフェイント、思いっきり振り切った後の隙!懐に潜り込む。
「オッルァ!!」
咄嗟の守りは実に歪、下から上に捲り上げるアッパーが綺麗に決まった。一度詰めた距離は離さない。
「フハハハ!やっと俺の殴るターンが回ってきたなァ!!」
「……」
さっきまでの調子はどうした?クールビューティなそのフェイスから"不機嫌"が滲み出てるぜ!
「このラウンドは俺の勝────」
ニタリと笑う少女の顔。
「やっと攻めに回ってくれましたね」
「うっぶっ!?」
突然胸ぐらを掴まれて、俺の身体が一瞬硬直した。何の超能力か手足が動かない。
硬直は時間にしたら1秒にも満たないが、戦ってる最中だとその間は命取りだ!
「ほい」
バットでガツンガツンと2度叩かれ、地表に叩きつけられる。
「GCからコンボ始動余裕」
「は?」
顔を上げたときにはもう遅い、金属バットはもう目の前にあった。
「ミル×ヴィタは最終的に受けと攻めが逆転するCPです、よく覚えておいてくださいね」
[さぶくれん@黒き不死鳥からメッセージよ]
ーーーーー
13連敗おちゅw
ヴィターちゃんの同人誌読んで出直してきなさいw
さぶくれん@黒き不死鳥
ーーーーー
「ダァァァァ!!」
惜しかったとは言うまい。終始意味不明な言葉に翻弄されていた気がする。
まあ、ただ回数重ねてようやく攻撃ができた。着実に、着実に自分が強くなっていることを実感しているぞ。
ええい、もう一回、もう一回やらせろ。俺の成長はまだまだこっからだ!勝つまでやめねえぞ!
「面白え、上等だこの野郎!」
今でこそ街内で喧嘩最強って言われるまで上り詰めた俺だが、昔の、まだそんな強くなかった頃のことを思い出す。
そうだ、こうやって強え奴をいかにして倒すかって考えながら鍛えたり技術を覚えたりしてたんだ。
つか、散々煽らせておいてこのまま終わるわけいかねえんだよ!
[さぶくれん@黒き不死鳥さんに再戦を申請したわ]
「さあ、さぶくれん、頼むぜ?俺ァまだまだやれる!」
[拒否されたわ]
「ナァ!!!!」
あの野郎。俺で散々遊んどいてこっちからの戦いは拒否だと?畜生、してやられちまったな。
「次やるときは絶対ェ勝ってやる……」
闘志を燃やして、いつもより小さな拳を握る。はぁ……。この身体にも慣れたもんだ。最初はすぐやめるつもりだったが、なるほどこれは、さぶくれんにリベンジを果たすまでは終われない。
[さぶくれん@黒き不死鳥からメッセージよ]
「んあ?」
ったく。どうせ煽りメッセージだろ。差し詰め「申請拒否しまーーす、残念でしたぁ」とか「ヴィターちゃんがどうたら」とかそんなんだろ。
なんて思いながら開いたら。
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Sランクで待ってる
久憐ってプレイヤーいたらそれ私の本垢ね
さぶくれん@黒き不死鳥
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「そうか……そうかい」
ニュアンスで伝わった。つまりさぶくれんってのはあくまでお遊び用のサブアカウント。
「お前が強くなった後にもう一度、本気で再戦してやる」というメッセージだ。
「くだらん煽りをする割にいい熱を持ってるじゃねえか」
いいね。こういうの。しばらく忘れてたぜ。俺が求めてたのはまさにこれだ。
どうやら長いこと、このゲーム、【ロリポップ・パンクラッチ】をやることになりそうだ。
────久憐。それは、トップオブロリポップ序列1位。文字通り、この世界の頂点に君臨する幼女。
相手は最強。鬼葉がそれを知るのは少し先の話。
ここから始まる下克上物語
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