天神、騒嵐、暴君 :10「逆走横断」
鬼葉が逃げ出す。彼らに出されたオーダーはこうだ。「なんとしてでもシロサギを勝たせるように」勿論それに対する報酬もしっかりある。
「これで10万稼げるなら優勝狙うよりよっぽど有意義だぜ!」
「とりあえず大会出ろっていうから出てやっただけだ、俺たち悪くないよな?」
先程そのシロサギを攻撃した鬼葉を徹底マーク。予選を勝ち進めないように撃破を試みるが……。
「あいつ、なかなか落とせないぜ」
「すばしっこい!」
「2番先行!」
「おーけー俺がいくぜ!」
2番と割り振られた1人のプレイヤーは黄金から鳴り響くエンジン音と共に空を切る。鬼葉との距離を詰めて撃墜に向かうと。
「ん?」
「フハハハッ」
笑っていた。
「2番下がれ!!」
その指示が通るよりも先に。
「────あっ!」
雲の中から突如現れたポット型の飛空機と衝突。撃墜された。
「まさか」
「あの野郎」
「逆走していたのか!?」
彼らはようやく気がついた。この鬼葉、地獄の空域に自分から突っ込んで、自分たちを誘導していたということに。
「邪魔だ!」
「おい逆走すんなあぶな────」
撃墜。
「く、引き返して……」
「お、先行に追いついたか!しね!」
「あぁ!?」
撃墜。
「1番2番4番がやられた!?クソ、奴も見失って」
「ここだぜ」
「あ」
撃墜。
後方といえば、レースそっちのけで銃撃戦を開始した初心者プレイヤーとそれに巻き込まれる中堅プレイヤーなどが入り乱れている。そう、鬼葉の狙いはそこに突っ込むことだったのだ!
「まんまとついてくるからだ」
結果、ゴールドルチルを4機一斉撃破に成功した。だが鬼葉に落ち着く時間はない。
「燃料を節約した甲斐があったぜ。まだ動ける……問題は順位だ。5位って書かれちゃいるが……横一線で50機以上が固まってるからあってないようなもんだ」
逆走すればそれ相応にリスクはある。当然だ。今の状況は非常に危険である。少しでもミスれば群衆に飲まれ最下層に、もっと言えば流れ弾に当たって撃沈することだってあるのだ。
ここで負けたらチームを組んだ協力者2人に顔向けできないぞと、奮い立たせたら推進装置が唸りを上げる。
「風、だからな。低燃費超加速だぜ!!」
混雑した場所から一気に駆け抜ける。さっきまで4機相手にしていたとは思えない程の加速。
「なんだあいつ前に出たぞ!」
「うおおお撃ち合いしてる場合じゃなかった!」
「追走ッ!!」
他のプレイヤーたちも釣られてアクセルを踏む。鬼葉に向かうヘイトは数知れず。だがしかし、暴風を読み切ったドライブテクニックもさることながら影も踏ませない。
「なんであんな速度がでるんだ!」
「クソ!追いつかねえ!」
「まさか、あのジェット使ってるのか……」
数名が気がつく。鬼葉の機体にある秘密。
「風力式波動ジェット第5版」
「なんだねそれは」
ヒナタが口にしたそれに燕歌は首を傾げる。
「鬼葉の機体についてる推進装置だよ」
「あれは、凄いのか?」
「凄い……ってわけじゃない。ただこのコースとの相性がいいんだよ」
逆走などと言う博打をしてまだ元気に走れるのは理由がある、とヒナタは続けるら、
「本来あのジェットは風を使って飛んでいるんだ。だから他の馬力があるやつに比べて最高速度が凄く低い。多分400後半」
「……ということはその代わりに低燃費なのかな?」
「そう。だからコンセプトとしては磁力の引き寄せとアンカーショットも合わせて速度を誤魔化し超低燃費に抑えてる」
故に後半になっても力強い走りを実現する。他が戦闘で疲弊している間に、あまりある燃料を使うことができるのだ。
「コンセプトとしては……なにか含みのある言い方だな」
「実はね、運も良かったんだよ。このコースは、風がたくさんあるからね」
「風……まさか、速度が」
「そう、普段より出るんだ」
風を使って飛ぶ機体、正式には風を波動に変換して前へ進むエネルギーを放出する。天空横断98においてその効率が飛躍的に上がり、通常では出せない加速力を実現する。
「凄まじい噛み合いだな、予選は通過できそうだ」
「いや、まだ油断はできないよ」
独走する鬼葉。しかしその順位は3位である。さらにその前方、空中戦を繰り広げる黒と黄金。
「途中で撃墜されたらおしまいだ」
「ファーストワン、といったか。ドローンを使って相手を追い詰めるスタイルは非常に興味深いが、そんなことでは堕ちない」
浮遊する犬の形をしたドローンにクイックショットが炸裂する。見極めて放たれる正確な射撃はシロサギの十八番だ。
「恐ろしい。俺自身が撃たれたら1発リタイアなんだろうね」
「よくわかっているじゃないか」
バン、と。ドローンがもう一機撃ち落とされる。
黒い雲の闘技場で猟犬は攻めあぐねる……ように見えるが実際は違った。
「お前、時間稼ぎのつもりか」
「……」
シロサギは気が付いていた。ファーストワンがこちらを堕としに来ているわけではないと。その真意は不明だが明らかな遅延行為をしていると。しかし返事はせず、ただ淡々と、残り2機あるドローンを走らせている。
「鬱陶しい、ショット」
「"ガード"」
シロサギの撃ち込む射撃は相変わらず高い精度を誇る。だがここでファーストワンもタイミングを合わせてきた。直撃したはずの弾は弾かれ、ドローンの破壊に失敗する。
「ガードまで使うのか、このゲームで……お前、何歳だ」
「急に個人情報を聞くね。まあ、学生ってことは言っておくよ」
「ムカつくよ、お前みたいな奴が」
黄金の機体を旋回させ位置を調節すると、シロサギは再びドローンを狙って1発。当然ながらファーストワン、オタシコガードをいとも簡単に発生させるとこれを防いだ。
「まして一度防げたものを許すほど俺は甘くな────ッ!?」
「ビンゴ」
シロサギは本体に向かって既にもう1発放っていた。クイックショット、あまりにも命中範囲が狭く非常に当たるのが困難な代物だ。しかし目にまとまらぬ高火力の一撃は掠れただけでも大破を導く。
「チッ、右側の装甲が剥がれたか」
「どうした、本気でこなきゃ俺は倒せないぞ、犬畜生」
目を大きく瞬き、不敵な笑みを浮かべるシロサギ。それに対してファーストワンはなにを思ったか。
「……なんだその顔は」
「犬の顔だけど?」
ねっとりとした笑顔を見せる。
「もちろん、君を倒すつもりの犬の顔だよ」
「……はっ!?」
気づいたころには、もうそこにいる。
「フッハッハッハー!!悔しかったら追いついてみろヴァーーーカ!!」
突然現れる銀髪のライダー。
「お前さっきの!?何故堕ちていない!?」
「ようシロサギ、手土産持ってきたぜ!」
「は?」
そして無数の機体。
「「まてやぁぁ!!鬼葉ぁぁ!!」」
「なにぃ!?」
1人のプレイヤーによって掻き乱れるレースも、終盤に差し掛かった。




