天神、騒嵐、暴君:04 「TYRANNUS」
2年前、東雲 燕歌はプロを夢みた。
銃を構えスコープを覗き、的の真ん中あたりを射抜く。
「私はね、昔から射的がもっぱら得意でね」
プロゲーマー養成学校で、彼女は絵に描いたように誇らしげな顔をして、みんなに向けてふんぞりかえる。
適性検査、射撃部門:100点。これはもちろん同期の中で首位だった。
が、しかし、いつの時代にも天才はいる。
「白鷺さんすげー!射撃100点だってよ!」
「あーいうのがプロになるんだろうな」
「なにやっても強いとか無敵じゃん!」
神矢 白鷺。同年代最強と名高いその少年は、後に就学中にプロリーグ入りを果たした文字通りの天才。
「それほどでもない。ほら、東雲さんも100点じゃないか」
「ふん……」
学院生たちの目線が一点に集中する。
讌とて覚悟を持ってここへ来た人間だ。白鷺には絶対に負けないと、一時は良い対抗心を燃やしていた。
「面白い。君も100点か。しかし私の方が射撃は上手いよ。あれは簡単すぎた。もっと難しい的が出てくれば実力の差が如実に現れるだろう」
「言ってくれるな……気に入ったぞ、お前」
当初、白鷺と讌は良いライバル関係になるだろうと思われていた。讌本人もそう思っていた。
だが突きつけられる現実とはもっと悲惨であった。
「シロサギさん総合判定B+だってよ!」
「総合判定!?マジかよなんでもできるなあの人」
「万能マンとか無敵じゃん」
「1年目でこれは天才だ」
「東雲は?」
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東雲 讌
ジャンル別適正判定
対戦格闘:E
FPS総合:C-
テーブル系:D
リアルスポーツ系:E-
レース総合:D
RTS総合:D+
MOBA:E-
総合成績:D-
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讌は、残念ながら、ただ単に的当てが上手いだけの、一般人だったのである。
そうして自分の至らなさを痛感した彼女は、恐ろしく卑屈になってしまった。
やがて彼女の周りに人はいなくなり、孤立する。ひとりぼっちだ────。
◆◆◆◆◆◆◆
「予選の相手、チーム:アイテールのシロサギには注意しろ?コイツらのことを知ってるのか?燕歌」
「ああ、知っているとも、よく知っている」
鳩バス予選前日、各種対戦ブロックが発表された。俺たちはDブロック。そんな折、燕歌がすぐに口にしたのは"チーム:アイテールのシロサギ"
「神矢 白鷺、学生ながら既にプロライセンスを持つ若き天才……実は同級生なんだ」
「ほーう、すげー偶然。どんな奴だ?」
「どんな奴……浮世離れしている感じかな」
「あーー、いや、風貌の話じゃねえ」
「すまん、ゲーマーとしてどういうのか、と言う話か」
おうよ?知らん坊主のことなんざ興味ねー。燕歌はそれからシロサギがプロゲーマーとしてどういうスタイルなのかを教えてくれた。
「彼の代名詞といえば異次元じみた銃の命中精度かな。元々FPSチームを志望していただけはある。鳩バスでもその腕は健在であろう。まったく、羨ましい限りだ」
羨ましい限りだ、の部分に少しだけ憎らしさ恨めしさが混じってた気がするのは多分気のせいではないだろうな。同級生に自分よりも才能に溢れるプレイヤーがいたら嫉妬のひとつもするだろ。
「そいつを落とさずに前に出ると、逆にこっちが落とされる可能性があんのか」
「可能性というか、100%と考えていい」
「おいおい、敵さんをすげえ評価するじゃあねえか」
「経験則からの演算だよ」
「百発百中で撃ち殺されたんだな、お前」
「思い出すだけでキレそうなんだがキレていいかね?」
「あっちで頼むぜ」
「ふぁっきゅー!!」
多くの機体の場合、前方に出ると避ける以外に選択肢はない。あくまでレースで前を行くものを撃滅するための砲台であって、後方に迎撃はできない。
仮にスナイパーが最下位からスタートしたら、ゴールするころにただ1人凱旋を走る光景が出来上がるってわけだ。
ところで殺しのプロとゲームのプロが同条件でやったらどっちのが命中精度あるのか?と言われると、そりゃ不明。
「と、なるとシロサギのレーススタイルは序盤は前を走るものを撃滅しつつ、最後に抜き去るやり方か」
「良い推察だと思う。私も同意見だ」
おーけー、わかった。シロサギには気をつけよう。
「で、他に何か」
「それから……いや、なんでもない、奴の前に出るときは気をつけて欲しい、かな」
「ふーーん」
俺はわざとらしく眉をひそめてみた。目を逸らす。隠し事の匂いがするぜぇ?なにか、シロサギの周りで言いづらい事情のようなものを感じるぞ!
「おい燕歌、お前」
「……」
「鬼葉!燕歌!」
「む」「ヒナタ殿?」
遅れて登場。ヒナタがにっこり走ってきた。
「予選観戦できるって!あと同時視聴配信も可能って!」
「ふーむ、いつなんどきも配信を考える動画投稿者の鑑だね」
「えへへ、それほどでもぉ?」
コイツらの距離感、いつのまにが近くなった気がする。まあ毎日一緒に練習してりゃ当然だろうけど。
「でー、鬼葉?」
「んあ?」
おっと。ヒナタの奴なにやら不機嫌と顔に書いてあるぞ?
「チーム名勝手に決めたことについてなんだけど」
「ぁぁあ?時間なかったし仕方ねえだろう」
「だからってタバコの銘柄そのままチーム名にするのはどうなの!?」
「別にいーだろォが!かっけえだろ!!TYRANNUS」
「まあ悪くないけど、けど!一応ボクら美少女3人チームだからね?配信者はーたんとしての自覚をもっとさ」
「はーたん言うな、あとお前も最初っから媚びる気ねえんだから良いだろ別に」
俺が一番大概だけどヒナタもヒナタで女の子営業を全然前に出さないもんな。
それはさておいて決まったチーム名はTYRANNUS。俺みたいなろくでなしなら一度は吸ったことはあるだろうマジで煙が出るタバコ。21世紀初頭より前ならいざ知らず、現代なら恐竜のように絶滅したスモーキンってな。
「ヒナタ殿、『ちょっと強そうだから悪くないかも』と言っていたが、あれは────」
「ああ言わないで!裏のことは言わないで!」
「フハハ、やっぱ満更でもねえんじゃねえか」
「ち、ちがうんだよーー」
なんたって暴君だからな。散々暴れてその座を取る、俺たちにピッタリなチーム名だろう。
「それじゃあ、どうする、これから明日に向けて最終調整だと思うけど枠取る?」
ヒナタが首を傾げていった。
「どっちでもいいぜ。でもお前的にはマグネットのやつをいきなりお出しした方が数字取れるって判断だろ?」
と、返してやった。配信主としてはあくまでヒナタが主導だからな。好きにやりゃ良いと思う。勝手にカメラ回すのも別にいいだろう。
「予選のお楽しみにしておこうかな」
「ほほーうサプライズか。しかし私も罪だなぁ。視聴者諸君よりも先に知ってしまう、チームなので」
「この背徳感!」とニヤケ面になってるのは燕歌。
交流していくうちに普通に紫兎chのチャンネル登録したらしい。最早ただのヒナたんファンガールだ。初対面のネガティブさが薄れていくくらい浄化されているらしい。
え?俺は推されないのって?いや別にいいし。アバターの女の子的な部分を好き好き言われてもそんな嬉しくねえし。
「んじゃま、やりますか」
「鬼葉、明日、頑張って」
「応援しています」
「おう、任せとけ」
予選が、始まる。
◆◆◆◆◆◆
「勝利こそが全て。復唱しろ」
「はい、監督。勝利こそが全て」
「そうだ、シロサギ」
書斎。白いスーツの中年男性の言葉をオウムのように繰り返すことで、その安定を保つ。
「監督」
「なんだ」
震えながら。それは恐怖に対する寒気か。シロサギは恐る恐る口を開いて……やがて閉じてしまう。
「なんでもありません。失礼しました」
書斎を後にする。
装飾のうるさい廊下を重い足取りで歩く。この豪邸は、監督の家。湧いて出たような大量の黒い金を使っているのはシロサギにもわかる。
「「リーダー」」
シロサギを出迎えるチーム:アイテールの面々。その表情は不安に襲われるような強張りを見せている。そこでシロサギは邪念を振り払うように頭を揺らして今日も言う。「勝利こそ全てだ」
それから一つ質問する。
「なにか有益な情報はあった?」
「"大会荒らし"。うちと同ブロックだった。あとは中堅所が集まってる感じだが……それは気にしなくていい」
「ああそう」
シロサギは首にかけたヘッドホン型ゲーム機……"デヲキシヴァ"を撫でる。
「シロサギ、使用機体は」
「FAゴールドルチル、主砲はビームクイック」
「やっぱホーミングにはしないんだな」
「誘導弾に頼るほど脆弱じゃない……一位通過は当然の如くしてみせる」
「さすが神童と呼ばれるだけある」
予選Dブロック。明日の13時、文字通りの死のブロックになるのは誰も知らない。




