ロリパン、それは変態の巣窟
格闘すること10分以上。ようやく立って歩くことに成功する。それでもおぼつかないが。頼むから真の意味での格闘をさせてくれ。
「畜生、このゲーム作ったやつラリってんだろ」
シラフでこんなの作ってるとは考えられねえぜ。え?なに[簡単動けるはずなんだけどおかしいわね]だって?じゃあ俺のせいじゃねえか。
おいやめろ運営お問合せのメールフォーム掲示するんじゃねえ。
「で?次はなにしろって?」
[あ、気をつけて、相手が現れたわ!]
こちらと同じく少女が現れる。頭上にNPCって書かれてるから練習用の的みたいなもんだろ。
「これを倒せばいいんだな?」
俺は千鳥足で近寄って、そのまま拳を引く。そんで、思いっきり、いつも通り捻っ────なんで後ろに倒れるんだ馬鹿!
「ロリなポップつーか殆どヘルニアのジジイだよこれ」
まともに拳も放てないのか、俺は。
さぁらに10分経過。だいぶ身体も慣れてきた。走れるようにもなったし、まだ完成度はないが最低限パンチも打てるようになった。
「死ねオラッオラッ!これは魂の鉄拳だ!俺がぶっ倒れるたびに笑っただろ許さねえからな!」
目の前の動かないNPCを延々と叩き続ける。
[笑ってるわけじゃないわ、ホウィップちゃんは常に笑顔が素敵なビューティーガールよ]
「うるっせえ!知るかボケ!」
わぁってるんだよ!常にそういう顔ってことぐらい!けどいま俺最高にキレてんだよ!
ああ、学んだぜクソッタレ。相手をこうやってぶっ叩けばHPってやつが0になって消えるってわけだ!
「ハァ……ハァ……なんかもう自分が情けなくなってきたぜ」
こんなことでブチギレていつまでもNPCサンドバッグを殴ってストレス解消してるようじゃ三流だ。
「おい猫」
[キャンチーよ]
音声だけになっていた黒猫がきゅるりと姿を表して帰ってきた。
「もう動ける。そろそろ戦場に連れてけ」
[まだチュートリアルは終わってないけどスキップする?]
「ああ、スキップだスキップ」
慣れてないうちだからこそ多少ハードな場所に身を投じる方がいい。その方が早く強くなれるってもんよ。ま、俺は戦いの天才にして最強だから?どの環境だろうがやってけるってもんよ。実際もう走れるし。
[メインストリートに移るわ]
街が崩れて、今度は広場みたいな場所にやってきた。そこには大きなゲートが複数あって、それに準じて電光掲示板が浮いている。
[あそこ]
黒猫がちんまりとした指でさす。
[あのゲートを潜れば1on1マッチができるわ、まずはそれで戦いに慣れるのも手ね]
一対一の真剣勝負。全世界で繋がるオンライン上のランダムな誰かと出会って速攻バトルか。おいおい喧嘩より言ってることずっとヤバいぜ。これでまだ見ぬ強者とも会えるかもしれないと。
「他は、いや、お前の言う通り一対一からだな」
あっちには3on3、真ん中にランクマッチ、そっちにはフレンドルームと書いてある。ランクマッチってのが特に気になるがまあ、まずは肩慣らしだ。歩く、殴るときて次はいよいよ戦う。
「っし、いくぜ!1on1 」
ゲートの中へ、飛び込んだ。
{【1on1】!ルールは簡単、先に倒れた方が負け!}
{マッチングしました}
{対戦相手:150adbotさん}
ーーーーー
150adbot
ランク:E-3
【ミルキィ・クラッシュ】
ーーーーー
鬼葉
ランク:E-3
【ミルキィ・クラッシュ】
ーーーーー
ゲートを出ると、そこは金網に囲まれた空き地。白い曇天。微妙だな。
今の俺とまっっったく同じ姿をしたそいつが立ち尽くしてこちら睨む。あれが対戦相手ってわけだ。
戦いのゴングはすでに鳴り試合は開始されている。
「……」
「来ねえのか?なら遠慮なくぶん殴ってやるぜ!」
速攻!
走り出しがまだ安定しないが、スピードに乗ると身体のバランスが取れる。不思議だけどな。左足を踏み込み腰を回転、顔面直球ストレートパンチだ!
「……」
「んあ!?」
どっしり構えて腕を交差、守りの体制。俺の拳を受け止めると。
「ぬおっ!?」
同じ極の磁石が反発し合うみたいに、交差した腕と拳の間に圧が生まれて外側に押し出された。
「チッ、こりゃあゲームの世界特有のそれか?」
「……」
ダンマリ決め込んでずっとガードしたままそこから動こうとしない。ふーむ、面白くないな。相手も初心者だからか?
「俺も、初心者だけどよぉ、戦いの原則ってのがあるぜ?」
回り込んで、守り切れてない横から後ろに狙いを定める。
「守ってるだけじゃ、勝てねえ!」
迎撃警戒。動かない。肋骨に拳を放つ……狙いがブレたがギリギリ合格点!
「……」
「反応遅すぎるぜ?甲羅に閉じこもってる亀みてえだな!」
面をこちらに向ける、前に俺も連動するように動いて、横腹を執拗に殴り続ける。そして。
[You Win]
「俺の勝ち、なんで負けたか明日までに考えとくんだなぁ?」
ま、ざっとこんなもんよ。初心者同士、同じキャラ対決だったが地力が違えんだよ地力が。リアルファイトの経験はここでも活かせるってのが今の一戦でわかった。
「さて、次、次」
どんどん戦おう。次はもうちょい骨のあるやつで頼むぜ?
[マッチングしました]
[対戦相手:さぶくれん@黒き不死鳥さん]
ーーーーー
さぶくれん@黒き不死鳥
ランク:D-1
【ヴィター・バット】
ーーーーー
鬼葉
ランク:E-3
【ミルキィ・クラッシュ】
ーーーーー
おっと、最初の3種にもいたパッケージを飾ってたキャラだ。【ヴィター・バット】って言うんだな。
ゴングが鳴るまで少し時間がある。対面する。
「対戦、よろしくお願いします」
「んお?お前喋れるのか。よろしく」
やっと対戦相手がしゃべったぜ。さっきのやつが無口だったから、てっきりそういう仕様だと思ってた。しかしアレだな、クールなキャラに沿った喋り方だ。
「初心者ですか?」
「んあ?ああ、そうだ、俺ァ新米だ」
[3]
「ミルキィ好き?」
「いや、別に」
[2]
「……あっそ」
「ん?」
[1]
「ボコられてもやめないで、ね?」
ほほーう?言ったなお前。
[fight!!]
「上等だぜ馬鹿野郎!」
武器はバット。基本的に素手よりモノ持ってた方が有利だ。有利な間合いをとられるとこっちは絶対に勝てない。距離を詰めて張り付く。懐に入ってから駆け引きの始まりだ。
「おいっと」
「んぬ!?」
あぶねえ。入るタイミングを間違えられたら、一発かまされてそのままなし崩しになるだろう。
「ほれ」
近づいて、下がって。バットが当たるギリギリ、間合いの先端に俺を入れようとしてくる。こいつも間合いをちゃんとわかってるな。
「本当に初心者?割と動けますね」
「そりゃあどうも!」
急に間合いを詰められた。咄嗟にガードをしたがバットが腕に当たって弾かれた。クソ相手の様子見が終わったか、攻めが強くなってきたな、こうしちゃいられねえ俺も────。
地面に頬擦りしながら変な顔をしている対戦相手。
意味わかんなさすぎて止まる俺。
「……お前それ何やってんだ?」
「ふひひぃ、このアングルだと見えるんですよね」
「あぁ?なにが?」
「なにがって、ほら、ロリパンが」
ひゅーと風が吹き、俺の、いや【ミルキィ・クラッシュ】のスカートが少しだけ靡く。
「はいスクショ!」
「……」
なんだろう、この感覚。恥ずかしい、のか?俺の身体ではないのになまじ女体であるからか、スカートの中を覗かれた事実に怒りにも似た知らない感情が沸き立つ。
ぶっ倒さねえとダメだ、この変態をなんとかしなくちゃならねえ。
「おい、クールキャラが台無しだぜ下劣なクソ野郎が」
「おっと、パンチラが地雷だったか。しかし、いやしかし、いいですね、その表情」
はいはいはいはい。おーけ、もうこいつぶっ倒そう。確定事項、絶対ボコる、徹頭徹尾ボコる。
「くたばれ!」
「ふっ」
私はブクマ、感想、評価を喰らう生きた屍みたいなものなんでね。くださいお願いします(切実)