音痴な囀り
燕歌、何を思ったかスタート直前から微動だにしない。
「野郎、何考えてやがる」
両目はしっかりこっちを向いている、だが動かない。わからんな。なら俺は先行してゴールを急ぐだけだが。
いや気になるな。あの眼は何かを狙ってる。みたことあるぞ。あれは、そうだ。麻薬密売に割り込んで殴り込みかけた時のマフィアたちが俺に向けた眼。殺意を持った眼差しだ!
「……狙いを定めて、しっかり、外さないように、撃つ」
「ッ!?」
レーザービームが機体右側面を掠めたのはすぐにわかった。まさか、アイツ、スタートから動かず、撃ち落として勝負を決めるってのか?いやいや、いくらなんでも無謀すぎるぜ。なぜって距離があれば当たらないからな!
「フハハッ、それは無駄ってやつだ!俺ァ先にゴールする、手加減なんざ微塵もしてやらねえ!かかってこいやゴルァ!!」
面白いんで発破をかけてみた。こいよ。追走しながらやれば俺を撃ち落とせるかもしれねーだろう。俺は勿論回避するが……って。んあ?えぇ?
「あっ、ああ!しまった、アクセルを入れるのを忘れていた!」
「え」
「走って、えー、撃つ、いや当たるわけないだろう。そんな子器用なことできるわけがないな。うん、やはりここは止まって撃とう」
おいおい冗談だろう。
「なっ!鬼葉殿がカーブに差し掛かった!?ぬぅ!死角に回られたら当たらんではないか!アクセル……あれアクセルはどれだかな?アクセル、アクセル、ああ、これか……あっ!」
[燕歌 脱落]
「………」
これは、なんというか。もしかして、クソ雑魚さんだった?
「……いや。わからんな。このレース、引き分けか!?」
S05という文字に穴が空いている。そこから黒い煙と橙色の炎が溢れ出ていく。
俺の機体はすでに、風穴を開けられていたのだ。気付かぬうちに、抜かれていた。ピンポイントに、動力部分の一番打たれたらいけない場所を。
[鬼葉 脱落]
「……」
「……」
「……アレが私の実力だ」
うーーーーん。癖つえええ。
「私には、どうにも走りながら撃つというのが難しくてね」
「それで走らないってのはどうなんだよ……」
「いや、どちらか一方ならできるのだがね?」
「なら走るの優先じゃねえ!?」
あかん、こいつやっぱバカの波動が流れてやがる。
「でも打ち抜けたよね」
と、ヒナタが燕歌を称賛する。なんか、納得いかねえってのが俺の意見だが。不思議なことに一番納得いってなさそうなのは本人だった。
「そこまで、甘くはないんだよ」
「んあ?」
「えぇ?」
「速く走行できて、スムーズな旋回もできて、高い的中率を誇る。そんなプレイヤーでなければならないんだよ……それができない私は、私は」
燕歌は物悲しげな顔をした。
おーけー、わかった。もう十分だ。俺は自己否定な嫌いだ。もう判決を下そう。燕歌をチームに引き入れるか否か。
「燕歌、お前は────」
「うむ。ダメだな」
「んあ?」
「私はダメだな。うん。取るに足らない雑魚だ。すまん、失礼した、辞退するよ。やはり私は集団に入るべきではない人材だった」
「おいまて」
いくらなんでも自虐的すぎねぇ!?
燕歌は、勝手に自分でそう判断し、出した首を取り下げるように引っ込めて、悔しそうな表情をして、いよいよ限界と言わんばかりに身を翻し、立ち去ろうとする。
なので、「おいまてや」と俺、ヒナタで引き止めた。
「俺はまだお前になにも言ってねえぞ」
「ボクは歓迎だから、まって行かないで!大丈夫だから!ボクだって弱いし、鬼葉が断ってもボクがそうはさせないから!だから……」
「いや、俺断ってねえだろ」
取り乱すそして取り繕う。ヒナタが俺より前に出てグイグイと、食い下がる。うーむ。引き止めたいのは俺も同じだが、ヒナタもヒナタで勘違いしてるっぽいので訂正しよう。
「ヒナタ、燕歌」
俺は両方の肩をポンと叩いてやって落ち着かせる。まあお前らちょっと聞けやと。
「つまりなんだ。燕歌、テメェは『弱いんでやっぱやめときます』って言いたいんだな」
「……あぁ。ああそうさ。私はあぶれ者。弱いから生き残れない弱小生物だ。君らもそうだろう。力が微塵もない奴に興味はないはずだ。だから私はダメなんだ……だから私はロクにチームも出来ずに、怪文書に縋ったのだ……」
「そう、か」
なるほど、なるほどな。
「お前クソめんどくさいやつだな」
「何てこと言うんだ鬼葉!?」
あ、ちょい、まてまてまて、ヒナタ。そう怒るな。怪文書について含めていろいろ物申したいようだが、お前の番はまだだ。
質問の仕方っつーか、趣向を変えようか。
「あのな、俺ァ別に強い弱いで判断してるわけじゃねえよ」
「「え」」
2人とも驚いているようだ。コイツら、そんなに俺が実力主義に見えるのかい?
「大事なのは、ここと、ここだぜ」
胸を二度拳で叩いた後、こめかみを指さす。そう、大事なのは実力とかそういうんじゃねえ。本当に大事なのは意思力ってやつだ。
「燕歌、お前は自分が弱いって思ってるんだな」
「……」
無言で頷く悲壮感よ。まあいい、重要なのはこの次の質問にどう答えるかだ。
「じゃあ聞く。お前は、自分のどこが一番弱くて、なにができなくて、なぜ足りないか理解をしてるか?」
「そんなもの……いやと言うほど知っている」
コイツが過去にどんなことがあったかは知らん。が、少なくとも屈辱の味を知ってるってのはわかる。
「本当に、理解してるか?」
「……」
同じ質問を繰り返す。本当に、本当に自分の欠点を理解をしているのかどうかを。燕歌はすこし言い淀んでから、漏らすように言った。
「あぁ……」
コイツは自分の弱さをしっかり理解していると。次にする質問は「じゃあそれを直そうと思ったことは?」って感じになるがこれは聞く必要がない。俺にはわかる。あるに決まってるのだから。
ただそれを改善する為のやり方がわからず、知らず、アホみたいに空回りしているだけで。
ここまでくりゃ、もう答えは簡単だ。俺は決めたぞ。
「おーけー、お前は今日からチームメイトだ、夜露死苦」
「「えっ、えぇ?」」
下手くそなりに飛行する燕歌。やはりどちらか一方しかできないようだ。
俺の横ではヒナタは眉をハの字にしている。
「なんだ?そんなに不思議か」
「うん。正直鬼葉は強い人じゃないとダメなのかと思ってた」
俺は鼻で笑ってやる。
「それで言ったらお前も、そんでもって俺も、雑魚だろう」
「……言われてみればたしかに」
燕歌が着陸した。「ほら言わんこっちゃない、私はできないんだ」と言わんばかりの不満顔。寄ってくるなり開口一番。
「わからない、なぜ私をチームに入れる?」
「ボクも気になる」
理由なんてそんな難しいことじゃない。
「ようは勝利への執着心だ、それかあるかどうか。それだけ」
するとヒナタと燕歌は首を傾げて同時に言う。
「ボクにそんなものある?」「私にそんなものあるか?」
「ある」
「そんなことない気がするんだけど」
「ないだろう」
「いいやある……お前らはアレだ、普段『勝負なんて興味ないよー』って面してるが、いざ負けるとクソ程悔しがるタイプだ。俺にはわかる」
間違いねえ。力こそ無いが、本当は誰よりも負けず嫌いなタチだ。だからこそ、俺はヒナタも燕歌もメンバーとしては申し分ないと思っている。
「それに、弱い弱いっつてもあの射撃能力は本物だろ」
「たしかに、アレは凄い武器だよね」
「……まあ射的は得意だ」
あのレース。ひどい内容だったが、実際俺は勝ったわけじゃない。どんなに俺が先行したからってゴールしてないなら勝利ではない。引き分けたのだ。この事実は揺るがない。ああ、揺るがない事実はもう一つあるけどな?
「けど気持ちとそれだけで勝てねえのもまた事実だぜ」
「そう、だね」
「耳が痛いよ……まったく」
俺は、AtoZアバターのせいで小さくなっちまった細腕をめいいっぱい伸ばして、2人の肩に手を回す。そしてにっこり笑顔を見せて言う。
「これからみっちり修行するからな!楽しみにしとけ!」
「「うげ……」」
努力を怠っちゃあ勝てんさ。
◆◆◆◆◆◆
燕歌────東雲 讌はログアウトした。
ここはプロゲーマー養成学校の女子寮の一室。普段寝泊まりをしている場所。月も照らさぬ真っ暗闇で喜びの声を漏らす。
「よっっっっし……!」
すると次に「うるさい」と同室の生徒からヤジが飛んでくる。燕歌は改まって口を抑えて、喜びを噛み締める。
(なんとも不思議な話もあるものだ、物の試しに怪文書にレスポンスしたら凄そうな人たちとあったぞ)
とくにあのピンク頭の少女はずば抜けている。燕歌がみてきた誰よりもポジティブで前向きで逞しくそして強さに満ち溢れているのだ。彼女は、なにか、持っているなと、燕歌はそう思う。




