亜高速暴風域:04
オタク思考的空間挙動が一種、ゼロランは、俺がロリパンのときに習得したテクニックの一つであり、あの死闘を経てからは同じくオタシコのガード以上に馴染みのあるものになってしまった。
そんなオタシコゼロランだが、俺はこのゲームでは使えないものだと思っていた。
何故なら身体に連動するキャラクターではなく、完全に分離した機械を動かしているものだから、俺が脳味噌でどうこうやってもなにもならないと思っていたのだ。
しかしそれは勘違いだった。
「「ゼロラン!!」」
今、まさに、虎紀の攻撃をゼロランで避けた。ハンドル操作なんかしていない。機体が勝手に動いたのだ。いや、違うな、動かされたのだ。
「なるほど、なるほどなァ……そういうことかよ」
俺はわかった。この機体に乗ってるんじゃあない、文字通り一つになってるってことだ。
考えてみれば納得いくことがいくつもあるな。ハンドル操作でアクセルが自動的に左右均等になるわ、椅子とケツが固定されて離れないわ、見た目こそ乗車しているようにみえるが、その実この機体も身体の一部になっているらしい。
「これは……俺の身体!」
そう考えると、なんか、こう、動かしやすくなった気がするぜ。ハンドル操作に多少は思考が反映されるってことだからな。それがわかれば、もっと、小回りに動ける!!
「うんわぁ、嫌なことに気づかれたきがすんな」
「俺からすればいいことだ……さァ楽しくやろうや」
さあ、ここからが本番だ。そういうつもりで俺は突撃した。しかし虎紀は、勝負を放棄するかのように高度を上昇させ逃げていく。
「んあ!待てやゴルァ!!」
「……」
上へ上へ、突き抜けていくと竜巻の中から抜け出した。依然周りは荒れる天気模様。虎紀は風避け突き進む。俺もそれを追っかける。機体が身体という認識をするとさっきよりもスムーズに進む。
そうして四度雷鳴が鳴ったあたりで虎紀がその場で停止した。
「悪いな、鬼葉。オレお前に負ける気一切ねえから」
「あ?」
雲が割れる。向こうに浮かぶ滑走路が見える。あれは────ゴールだ。
「覚えておきなー」
虎紀と俺、目を合わせた……ように思えたが奴は、なんかどっか、遠くを見てるみてえだ。
虎紀が全速前進する。そうして同時に俺は自分が致命的なミスをしていたことに初めて気がつく。ここで敗北が確定していた。
「総燃料に見合った立ち回りをしねーとダメだぜ」
[燃料切れ]
「ああ」
思えばドローン相手に回避行動のために動き過ぎた。その間虎紀は、直接突進するとき以外極力動かないないようにしていた。そうだ、レースそっちのけで戦ってたのは俺の方だったってわけだ……ああクソ。
[鬼葉 脱落]
[虎紀 1着ゴール]
「はぁい!オレの勝ち!オレの勝ち!おっれっのっかっちぃ!!」
「ぐぬぬぬぬぬッ」
宇宙船内に戻ってきた。そしたら虎紀は甲高い声でアホみたいに騒ぎ散らし、いっそ清々しいくらいに勝利アピールをしてくる。ああ、そうだよ、負けたよ!完敗だよァ!
「お疲れ鬼葉……」
ヒナタが駆け寄る。
「悪い、ヒナタ、ふっつーに負けた」
「いいよいいよ、ボクはそんなに気にしてない。それより鬼葉自身がどうかなって」
「俺は……ただただ悔しい」
「うぇーいうぇーいオレの勝ち!!」
「お前ちょっと黙れぇ!」
ムカつく、腹立つ、が、負けたのは俺だ。この事実は揺るがないし、敗者が何を言おうがそれは負け犬の遠吠えってやつだ。
「コメントのみんなも心配してる」
「本当か?」
コメント読みの自動音声も聞こえて来る。
{はーたん……}
{はーたん……}
{残念だったな}
{ドンマイドンマイ}
本当だ。なんつーか、申し訳ない気分がすごい……ん?待て、コメントの流れがだんだん……
{はーたんw}
{草}
{草}
{ダサくてダメだったw}
{ボロカスに負けた方}
{あれだけイキって負けんの草}
{これが鬼葉クオリティ}
{これからかっこよくなるからへーきへーきw}
訂正、やっぱ微塵も申し訳なさ無いわ。
俺は改めて虎紀に向き直った。キャラが虎の骨頭に戻っていた。ちょっと笑いそうになったわ。
さて、色々考えてることがあるがまずはコレを言いたい。
「虎紀、お前ひょっとしてだが。自分のチーム持ってるんじゃねえのか?」
頷いた。
「よくわかったな」
だそうだ。
虎紀がチームを組んでいる、何故そう思ったかと言うと勘でしかない。
「俺に負けてたらどうしてたんだよ」
「今のアンタがオレに勝てるわけないから安心しろバーカ」
「キレそう」
戦いの最後、目があった。その時の虎紀の目は、なにか、ゴールの先の遠くを見据えているようだった。とにかく、今の勝負は絶対に俺に勝つつもりだったのだ。
「【天空横断98】を選んだのは手加減じゃあねえのな」
「ああ、オレの得意コースだからだ」
要所要所で手加減はあったかもしれないが、それは本当に遊ばれていただけだ。完敗。マジのガチの完膚なきまでの敗北だった。
虎紀は背を向け、出入り口に向かってゆっくり歩き出す。
「なあ、初めて会った時のこと覚えてっか?」
「……」
「あんときのお前って、今と違って見境なかったからさ。オレの仲間を何の前触れもなくめちゃくちゃに殴ったよな。そんで本気でムカついてお前とオレで三日三晩殴り合ったりもしたよな。そんで……最後にオレはお前に負けたよな。
クソ悔しかったんだ。ずっと。で、その後も、何度もやり合ったけど、オレはお前に負け続けた。だからよ」
虎紀は言った。
「オレはお前に勝つぞ!日本最速を決める、大舞台でな!」
「……ああ」
どこまでも、どこまでも。虎紀は俺の敵だった。それは今も昔も変わりはしない。
俺たちは戦う運命にある。
「上等だ」
◆◆◆◆◆◆
虎紀が退出して姿を消した。
鬼葉はだんまりと天井を見上げる。その様子にヒナタは心配してか、声をかける。
「鬼葉……」
すると鬼葉は、白い歯をぎらつかせて、目だけをヒナタの方に向ける。まるで悪霊に取り憑かれたかのように様子が激変する桃髪の少女に慄く。
「フハハハッ……ハハッ……フッハハハハハハハハァ!!!」
魔王のように、豪快に、笑い飛ばしたら、身体をヒナタの方に向けて言うのだ。
「面白ェ、面白ェぞ、もうこの際240万なんざァどうでもイい!アァそうだ、ヒナタお前にくれてやらァァァァ!!」
「ど、どうしたの鬼葉!?だっだいじょうぶ!?」
「平気ダ、シラフだ、俺ァすこぶる冷静だぜドグサレが」
「ど、どぐさ……」
アバターながら、青筋を浮かび上がらせて、目ん玉が飛び出そうなぐらいかっぱらいて、拳を握っていた。
「俺の目的はただ一つだァ……勝つコトだけ!虎紀だろォが、なんだろォが!どんな奴が現れよォが!!俺が全部、全部、全部、薙ぎ倒して最強最速だァァァァ!!フハハハハハッ!!アーッハッハッハァ!!!」
金欲などは放り捨てた。ライバル、敵、対戦相手、そして虎紀、立ちはだかる強者を相手に正々堂々完全勝利の為だけにやる。
桃葉 瑰の本来の目的意識が顕現したその時、内なる鬼神は覚醒する。
────ここからが激走の始まりだった。
◆◆◆◆◆◆◆
戦いの後、虎紀はログアウトし、一服していた。ぼーーっと、冬の曇り空を見上げながら、さっきのレースと、昔の喧嘩を思い出す。
「お前が、オレを敵だと言うなら、オレはいつまでも敵だ」
ぐっと、歯を食いしばり、イラついたように、まだ吸えたタバコをすぐに潰してしまう。
「虎紀さん、浮かない顔っすね。なんかあったんすか?」
部下の1人が気にかける。
「なんでもねー」
虎紀はそっぽを向いて、新しいタバコに火をつけた。
書き溜め!書き溜め!チャージショット!
しばらくお休みします




