亜高速暴風域:02
毎晩執筆し、深夜はトレーナーと化す、そんな毎日
「【天空横断98】オレが選ぶコースはこれだ」
コース【天空横断98】ここの特徴といえばずばり。
「『決まったルートが存在しない』コースか」
攻略サイトより引用。
曰く、【アンドロメダサーキット】とは真逆の性質を持つコース。あっちがガラスパイプの中でいかにスマートにコースを走り切るかが主題であるならば、こっちはいかに良いルートを選んで走れるか、といったところか。
98kmに渡る直線の空。ゴールは先の方にある。どんな手段どんなルートでも進行可能。縦横にそれぞれ限界点はあるものの、まあとにかく広過ぎる。
そしてもちろん、ただ広い空を渡るだけじゃあ面白くないだろう。と、いうわけで空は空でも暴風雷鳴が吹き荒れる台風のど真ん中ってわけだ。
「……お前、わざと俺に有利になるように選んだのか」
俺は虎紀に問う。なぜそう思ったかというと。
「【天空横断98】『広くそして荒れる天空を自由に飛び回るということからあまりにも不確定なことが多く最も初心者が上級者に勝つ可能性が高いコースである』だ、そうだ……わざとだな?」
ようは運が悪けりゃどれだけ上手い奴も落雷に撃たれて脱落し、運のいい初心者がゴールしちゃうことだってあるってこと。
で、仮にもし本当に勝ちにいくなら虎紀は【アンドロメダサーキット】みたいな運転技術が求められるコースを選べば良いだろう。アンドロメダでは純粋に練度の差が勝敗の差なんで今の俺じゃどうやったって覆せない。
だが奴は【天空横断98】を選んだ。まあ、その理由なんて一つしかないだろうが。
「"舐めプ"ってやつか」
そしたら虎紀はにへらと笑った。
「ま、マトモにやったら勝負ならねーだろ?明確に、実力差でオレは負けねー。自分でもわかるっしょ?鬼葉」
「わかってる、んで言ってることもあってる。だから尚更ムカつくぜお前」
「ムカついてるぐらいがちょーどいい。オレは、いい勝負がしてーの」
普段の俺なら「やってみなきゃわかんねえだろ!アンドロメダにしろよ!」って言ってるかもしれないが……いや言わねーかもな。とにかくヒナタとやり合って事故った手前、普通にやると勝てないってのは俺自身もそう思う。まだ無理だ。で、それをあっちに見抜かれてんのが腹立つけどな!
「おーけーやってやろう。俺の豪運舐めんなよ?虎紀」
「運に自信あるのはお前だけじゃねーぜ?鬼葉」
「両者位置についたみたい。鬼葉の選択パイロットはいつも通り【傭兵のウルフ】、虎紀の方は……【パンサー艦長】虎なのにパンサーなんだ……」
{なんか草}
{タイガーがいなかったんやろな}
{はーたんがんばえー}
{はーたんがんばえー}
虎紀の姿。今の【パンサー艦長】の雰囲気がリアルに近い。黒髪軍服の青年で共通点まるで無いがどこか似ている。
どういうわけかな、やっぱ自分の本当の姿と親和性ある奴に惹かれるかね……まて、ならなんで俺は【キャット船長】を選びかけたんだ?尚更わけわからんぞ?
んん、余計なこと考えるのはよそう。
ーーーーー
操縦士:鬼葉【傭兵のウルフ】
【2Aブルーベーク 練習用量産型】
形状:二輪装甲型
装甲:ブルーベーク
主力砲:レーザーシューター 2基
推進装置:卵型真空ジェット
搭載機器
衝撃緩和装置 2基
2連ホーミング砲 2基
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操縦士:虎紀【パンサー艦長】
【炎破威悪捨遺途】
形状:二輪装甲型
装甲:アンチヒート
主力砲:火炎放射器 2基
推進装置:卵型爆炎ジェット
搭載機器
衝撃緩和装置 2基
追尾ドローン (アンカー装備) 2基
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コース:天空横断98
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「覚えてっか…… 炎破威悪捨遺途のことを」
「お前の2台前の単車にそんな名前つけてたな」
「ぬあ」
「てか、このゲーム自分のマシンに名前つけられんのな」
「知らなかったのかー?そうだぜ!」
俺は、今のところ練習用のテンプレートを使ってるだけだが、今後カスタマイズしたら名前を変えようかね。
「さ、ゴングが鳴るぜ」
「ブザーだけどな」
[●●●●]
[○●●●]
[○○●●]
{○○○●]
[○○○○]
「スタートからアクセル全開ィィ!!」
限界速度650まで加速。雷だの、暴風だの、んなもん関係ねえ、迷いは負け筋だ!元々運が絡んでなきゃ勝てねえ勝負なら、ゴリ押しで突っ切るのみ!
「うおおおおお────んぁっ!?」
機体の操作が効かない。まさかエンスト!?いや、そんなわけねえ。後方確認。
「くっかっはっは」
「野郎ォ……」
俺の機体の側面に返し針が付いていて、そこからワイヤーが追尾ドローンの方までぴーーん、と伸びていた。
「街内引き摺り回しだぜベイビー」
◆◆◆◆◆◆◆
「鬼葉が捕まった!?」
{やば!}
{あれじゃ走れんぞ!}
{負けたか}
宇宙船のエントランスホールでレースの様子を見守るヒナタとコメント諸君たちだったが、開始1秒足らずで逆境に立たされた鬼葉を見て驚愕する。
「街内引き摺り回しだぜベイビー」
「ぐぬっっ!クソがァ!」
「ドローンのアンカーが抜けない限り進めないんだ!あのままじゃ燃料を消費するばかりだよ!?」
{やばいじゃん}
{燃料なくなったら墜落だろ?}
{またゴールできなくなっちゃう!}
{どうすんだこれ}
{てかそれだけじゃない}
この状況、いかにまずいか。一番最初に気がついたのは達観してた視聴者の方々、次に気がついたのは配信主であるヒナタだ。
{このままだとやばい}
「そうだ……このままじゃ」
荒れ狂う雲の海の中、轟音が走る。
「雷の的になる!」
が、もちろんそんなことは鬼葉もわかっているだろう。次の判断はドローンをなんとかすること。
「逆噴射ァ!!」
「ぬおっ、やるなぁ鬼葉!」
鬼葉はブレーキをかけて推進装置を反転。ワイヤーに急激なたるみが出来上がり、引っ張ってばかりだったドローンは空中制動を失いかける。
「逆逆噴射!!」
そして今度一気にアクセルをかけて前方加速。力に振り回されたドローンを引いて走り出す。これには虎紀も思わずドローンのアンカーを外すことを選択。
流石に武器を減らすのはまずいと判断したのである。
「やった!鬼葉が撒いたぞ!」
{いっけーはーたん!}
{そのまま突っ走ってゴールしちまえ!}
鬼葉はそのまま加速する……がものの数秒でハンドルをひねって減速する。ゆらゆらと、遊覧船のようにその場で停止してしまった。
{なにやってんだよ!はーたん!!}
{はよ前進め}
{どうしちゃったの}
{コースないから迷子になったの?}
明らかに様子がおかしかった。そしてそれを後方で見る虎紀は高度を上昇しはじめていた。
このことから、ヒナタが察する。
「まさか……風に阻まれて、前に進めないのか!?」
その暴風域は、JAPAN CUP優勝という最終目標までの道のりの"最初の壁"。風圧で押し返されて上手く前に飛べず立ち往生する鬼葉。天空横断は、戦いは、まだ始まったばかりだ。




