喧嘩最強、空の世界で激走する
まどマギで発狂するオタク
つまるところ俺が墜落した理由は一つ、戦闘機の動かしたなんてたとえゲームでもわかるわけがなかったからだ。
ロリパンみたく身体に連動するならいざ知らず、今までゲームなんざやってこなかった人間がすぐにできるものでも無い。
さあどうする、基本操作に練習時間を割かれては大会どころではないぞ。
「俺の今回の相手は……一筋縄ではいかねえ」
なにせ240万かかってる大会だ。出場者は強者揃いで、そいつらは全員精鋭だ。プロやそれを志す熱意ある者たちが時間をかけて必死になってるはずだ。そこを勝ち抜く為には、新しいことを覚えてる余裕はない。
俺は両手を前に出して、握って、回す。
戦闘機型はダメだった。ならいかに最初から運転できるものを使うかだ。型というからには、種類がある。
たとえば装甲車両型。タイヤ部分がジェットになった空飛ぶ車これはお馴染みレーシングカーのハンドルレーバーに近い。
たとえば戦艦型。舵とスイッチが沢山ある飛空挺。
たとえば百足型。これは……なんだこれは。
操作方法を新しく覚える必要はない。俺が元からもってる能力を一番発揮できるやつを選んだ方がいい。その条件で一つ選ぶとしたら。
「二輪装甲型」
空を飛ぶバイク。イメージそのまんま。違うところは前後輪の代わりに腹に一つ、ケツに二つ噴射口がついてるのと、左右じゃなく上下に動くハンドルと
跨る。この慣れ親しんだフィット感、間違いない。
「ああ、これなら、俺でもいける」
俺はエンジンを蒸すそして左手でクラッチペダルを握って────。
「ぬおっ!?」
下部のジェットが点火し機体が上昇。ここまではいいとして、すぐに左側後方の噴射口がぐるっと回って稼働する。機体が反時計回りに勝手に旋回を始めた。俺は慌てて手を離すも既に慣性が働いて止まらない。
「なんだこれ!?クラッチじゃなくてバックなのかよ!」
それどころかチェンジペダルもない、ギアの概念がねえのか。てかそんなことより止めねえと!
「やべえやべえ!とりあえず……アクセル!前に進め!」
バイクと同じ容量で右手を捻る。
今度は右側後方の噴射口がごうと音を立てる。反時計回りの回転加速、状況が悪化、止まらねえ!
「ぬぁぁぁん!?」
形はバイクだがタイヤ部分は無い。代わりにあるのはジェット噴射口。それはケツに2つついてる。今は右だけアクセルがかかってる、となるともしかしたら左側のハンドルも────ひねることができる!
「左アクセル点火!!」
左回転が止まり徐々に徐々に機体が右にそれ、真ん中に戻る。触ってる感覚で左右のハンドルのひねりが自動で均等になり、そしてついに、直進する。
「ひゅ、ひゅーー」
水平を一定に保ち走行する。畜生、バイクっぽいやつもなんだかんだで操作難しくないか?
いやスタート直後に垂直落下した戦闘機よりマシだけど。
ああ、いいな。風の表現も現実と変わらなくて、涼しくて、心地が良い。
すーーーっと地表すれすれを滞空する。凹凸のない真っ直ぐな地面が延々続く。一応練習場とされているが、空を見れば高い土星みたいなのが見えたり朝なのに星が光っていたり絶対に地球以外のどこかであるとわかる。
「上がってみるか」
高度を上昇させるにはハンドルを手前側に引く。すると腹の噴射口が勢いよく蒸気のようなものが吹き出し盛り上がる。地面から離れ、飛び立ち、雲に近づく。
3度瞬きするころにはだいぶ上まで来ていた。ハンドルを倒し再び水平に飛ぶ。
赤茶色の地面が無限に続く。高所恐怖症なら失禁しちまいそうな上空だ。けど、空気が澄んでいる。
「ああ、こりゃあいい」
レースという主題を忘れちまいそうな、快適な空の旅。俺は今、風になっている。
「捻ると、速度上がるんだよな」
俺は両手のハンドルをゆっくり押し込むように回す。すると機体が唸り声を上げ、スピードが上がる。最高速度がどれくらいで、制御の感覚を覚える!
「うおおおおおお!!これ何キロでるんだ!?」
際限なく加速し続ける。メーターを見てみる。時速100キロ、120……140、160、180、まだまだ伸びる。250、300、400、500、おいおいおいおい、まだ止まらねえ!600、700、800、900────
「1000!!」
はぁぁぁん!?
やばいやばいやばい。早すぎる。普通生身なら耐え切れないよな!?これがゲームの世界だからか。Gが軽減されてるみてえだ。
「時速1000キロのレースとか成立すんのか?って、あれ?」
突然噴射口から出るエネルギーがなくなる。まさか。
{燃料切れ}{推進装置が故障しました}
「あっ」
俺はあの後そのまま空中の制御を失い時速1000キロの慣性を残したまま滑るように墜落した。ブレーキが逆噴射だから燃料切れるともう何もできなくなるんだ。
「つまり最高速度は1000だが、それをしたら終わるってことな」
燃料と速度のペース配分は重要かもしれん。
「直進、ターン、上昇、下降、空中停車、おーけー、そろそろ慣れた。バカみてえなスピードださなきゃいけるな」
慣れの早い鬼葉様にはちょちょいのちょいさー。一通り試して直してから着陸。
気圧だのなんだのみたいのが無いから耳が痛くなることもなかった。都合がいいな。まあゲームだからそうか。
さて、これだけ気持ちよく羽を伸ばしてかっ飛ばしたところで俺の結論を一つ。
「優勝できるビジョンが見えねえ……!!」
口角が勝手に上がる。これで今からレースだと?それも妨害ありで。敷居が、敷居が高え……!!
例えば乗用車を運転する一般人がレーシングカーに乗ってプロを打ち負かせるかと聞かれればほぼ不可能だろう。ゲームの手軽さというフィルターがあってわかりづらいが、俺のしようとしてることはつまりそういうこと。
「フハハハッ、いいねいいね最高だァ、やってやろうじゃあねえか」
まあ、だからこそ燃えるんだが。
練習を続行する。まずは、さっきの動きを高速下ではじき出せるようにしねえとな!
{ログアウトします}
「うっぷ……」
気づいたら8時間ぶっ続けで飛んでた。さすがに酔った。
調べたところスピードの基準みたいなのは420キロが最低ラインらしい。それでも早くね?
推進装置の種類にもよるが、速度を上げれば上がるほど掛け算的に消費エネルギーと故障率が跳ね上がると。だから実際は650キロが限界速度だと。それ以上は即故障しちまうからな。
で、俺は420キロなら問題なく飛べるぐらいにはなった。
「あぁ、こういう休憩の時にサイダーとか飲みてえんだけど金ねえからなァ」
本当に悔やまれるぜ、まったく。はてさて、ほんのちょっぴり【Hurtling Burst -online-】略して鳩バスをやったんで、そろそろ参加応募しようか。
「あーー、特設サイトは……そうこれこれ」
{参加応募はこちらから!}
俺は電子端末に移った画面のそれをタップする。
すると、次に表示されるのは────。
{Hurtling Burst -online-内でのチーム名と、チームのコードナンバーをそれぞれご記入し、選手登録を行ってください}
「チーム、名、だと?」
俺は、ゆっくりと、ポケットに手を入れて、チラシを広げる。
ーーーーー
【Hurtling Burst -online-】JAPAN CUP X86
優勝賞金:240万
参加賞:各種限定スキン
※本大会は3人1組の団体戦になります。参加の際はご注意ください。
ーーーーー
「……オー、マイ、ゴット」




