Sランク昇格戦:08「ヴィター・バットの業」
後退りするヒナタ。その目線の先には久憐がいた。俺は前に出る。
対峙する【ミルキィ・クラッシュ】と【ヴィター・バット】という絵。公式設定によるとこの2人は幼馴染らしい。
ちょっと違うのはその衣装か。通常仕様のヴィターはキャップを被ったヤンキー女子高生なのだがコイツの場合は和服だ。
っと、おかしいな、ガチャを引いたあの日からミルキィについての知識が膨れ上がってきたんだがこれは呪いか。
ボロ雑巾でも使い古せば愛着が湧くこと同じで知らず知らずに入れ込んじまう不思議なものを感じる。【ミルキィ・クラッシュ】悪くないビジュアルだ。
「エクレアを倒したんですか」
久憐はそう聞いてきた。だからこう答えてやった。
「おう、んで次はてめーを倒す」
「へぇ……それじゃあ……」
久憐はそう言って、しゃがみ込んだ。俺はすかさず、体勢を前のめりにしてガードした。
「フッハッ、もうお前がミルキィのパンツを拝める日は来ねえぜ」
「そうですかそうですか……」
ホームラン宣言を思わせるようにバットをこちらにかざしてくる。俺は両手拳をグッと構えて、ステップを刻む。間合いをミスれば即死だ。
「フハハハ」
これは、ジャンケンだ。噛み合った方が勝つ。始動から複数の選択肢が俺と久憐にはある。
まず俺が素直に殴りかかった場合。間合いに入る前に久憐のバットが炸裂し俺は死ぬだろう。
次に突撃に見せかけて回避や防御をした場合、バット一発を透かせる可能性が高く、後隙にカウンターパンチを打ち込める。そのかわり行動を読まれた場合は振り出しに戻ってしまうと。
(結局のところ、どこかのタイミングで攻撃を仕掛けなきゃなんねぇ)
俺は、心の中で3つ数えた。集中、集中、集中。全神経をこの一発に込めるべく。要らぬ情報はシャットアウトし、この【ミルキィ・クラッシュ】というキャラになった俺自身を信じるのだ。
いや、俺じゃないな。
────────ウチは、絶対勝つ。
◆◆◆◆◆◆
「2人とも、すごい集中力だ」
鬼葉と、そして久憐の覇気は傍観するシト・ヒナタとその視聴者を震撼させた。
両名は半歩の進退を繰り返し、その間を一定に保つ。
{静かだ}
{達人の間合い}
{ヒナたん超アウェイ}
{おめーもたたかえ!}
「戦うって……無理じゃない?」
極限状態に入った鬼葉にはこれら会話は聞こえない。やがて、頬がつり上がってステップによる移動が徐々に速度を増す。
前へ出て牽制。攻撃を誘っている。もちろんそれに引っかかる程、久憐は甘くないが俄然警戒は解かず不動。{達人の間合い}とはまさにこの事。どちらかがボロを出せばそこから一気に瓦解する。
「……」
{ざわ……}
{ざわ……}
{くるぞ}
{あ}
{ざわ……}
「ッ!」「ッァ!!」
ほぼ同時、鬼葉が間合いの中に突っ込んでいく。それにぴったり合わせて久憐の出した選択肢は。
「ガード!?いや、けど!」
鬼葉の行動はジャストガードを外すように、腰を深く捻って遅らせて溜めていた!
「オルァァァァァァァ!!!」
「なにっ!?」
[ミルキィ・クラッシュ-百花繚乱-【覚醒技:────────
「ギンガハメツッッッ!!!」
巨拳。喧嘩最強の権能。超新星爆発の如く煌めく剛撃が女王をその座から落とす。
「はいったぁぁ!!?」
{キタ!}
{キタ!}
{攻撃通った!?}
{なんかよくわからんがすごいぞ!}
{マジでそれ通すのかよ}
{ミルキィが通った!?}
{ハーチャンカワイイ!!}
{キタ!}
打ち勝つ鬼葉、驚くヒナタ、流れ始めるコメント欄。
普段よりも視聴人数が多いことなんて主はいざ知らず、目の前の状況に盛り上がる。
そしてコメントの中には、よくわからないが凄いと手を叩くものもいるだろうが、少しでも格闘ゲームを嗜んでいる者や、ロリパンプレイヤーは今の鬼葉のヤンキープレイに開いた方が塞がらない。
{体力無いのにガード一点読みでずらしてくんの勇気ありすぎ}
あまりにも危険な賭けだった。もし素直にスイングされていたら死んでいたかもしれないのに。防御ではなく回避行動を取られていたら余裕で後隙を取られていたかもしれないのに。
「フハハハ、ジャンケンはウチの勝ちィ」
予測だ。強い鬼葉が考慮したのはそれが久憐の癖だから。受けからの逆転攻め、言い換えよう、ガードキャンセルからの始動だ。久憐の行動確率的に高いのはまさにその行動だったのだ。
正真正銘の一点読み。何故通せた、その博打を。有識者ほど画面越しで神妙になってコメントを打ち加速する。
だが妙なのはそのあとだった。
「あ、れ?倒れてない」
確かに鬼葉の一撃が通ったのに耐えている。吹き飛ばされた先で久憐は生きている。
「おかしい、ボクのソニックショット分を合わせて、確実に体力は消し飛ぶはずなのに」
アナウンスは、キルデス報告ではなく。
[ヴィター・バット-不倶戴天-【覚醒技:ソウルオブカルマ】発動]
そして次に流れるアナウンスは。
[久憐がシト・ヒナタをキルした]
「え?」
[観戦モード]
{あっ}
{あっ}
{あっ}
{死んだw}
{あっ……}
{え}
{あっ}
ゴーストガールになったヒナタ。戦況を見る視点が突然俯瞰になり困惑する。
「……えと、なんか死にました、なんで!?」
コメント欄は草原となった。
久憐はバットを投げ捨てた。
それすなわち最大の攻撃手段を捨てた。諦めたか、否、投げた先に当たる者がいたのである。
[久憐がシト・ヒナタをキルした]
あまりにも呆気なさすぎるライバルの死に鬼葉は困惑した。
「なるホどな……覚醒技か」
目の前にいる、ギンガハメツを喰らってまだ生き残る【ヴィター・バット】は、女子高生の夏服を着ていてキャップを被っている。
そして、投げ出されたバットを和服の【ヴィター・バット】が持ち上げる。
「スカしたのかァ……クソが」
一回限定の変わり身の術ともいうべきか。
それが【ソウルオブカルマ】である。
しかしこの覚醒技はこれだけで終わらない。
ニセヴィターの左手にはグローブが、そこから右手に移されたのは漆黒の球体。
「それじゃあ、プレイボールです」
投げて打ち出す豪速球、打って返すは豪速球、鬼葉を挟んで、地獄の試合が始まった。




