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ゲーミングヤンキー〜喧嘩最強の男、少女となりて激走する〜  作者: アスク
第一章 ロリポップ・パンクラッチ〜可愛く、そして喧騒〜
25/82

Sランク昇格戦:06「エクレア・サーベルの情熱」



「これでキャンディ5つ」


 久憐は菓子より煎餅の奴を倒しやがった。これは状況的には良くなったのか。いや、そうでもない。覚醒技を保有してしまったので脅威度はむしろ上がったかもしれん。

 そして何より!


「お前は、そうだよなァ!」

「やはり避けるか」


 エクレアは敵だ。

 彼女には武士道精神じみたものがある。もしも己がライバルであろう久憐が協定を結びかけた相手を撲殺したなら、エクレアもまた、俺を攻撃するというわけだ。

 と、いうか、他の誰でもなく俺もそうするつもりだった。


「お返しだぜゴルァ!」


 サーベルに差し替えす俺の拳。避けるスピードに勝って当たる。


「ぐっ」

「ほう、お前飴そんな持ってないな?」


【エクレア・サーベル】はライト級だからな。基本的に牽制よりな攻撃ぐらいは避けられる筈だ。


「私を忘れないでさ」

「ふん!覚えるわボケ!」


 振り下ろされるバットを避ける。甘い甘い。こちとら命の次に間合い管理気にしてんだからな!以前のテキトーな奴じゃ俺は捉えられんぞコラ。


「1対」「1対」「1ィ」


 正真正銘、見える奴全部敵のバトルロワイヤル。面白い。面白いぞ。それも俺より強え奴が2人だ。

 お互いがお互いに被弾を避ける為に後退りすると"なんとかトライアングル"よりも物騒な三角形が完成する。


「「「倒す!!」」」


 そして同時に中心点に駆け出す。一番速いのは、俺。狙いは久憐────にするとバットの餌食だ、拍をずらしてエクレアお前だ!はい後ろ蹴り!で、空振りのお前もはいキック……手応えなし。


「GCから」


 本当にうまいなお前は。


「コンボ始動」

「その余裕は……ねえよ!」

「おっとっ!?」


 反撃の一手を差し込んだ。たしかにスイングは1回限定なら全キャラクター中最速の始動だけどな。2回目3回目と連続すると、ミルキィが僅かに勝るんだよォ!!


「フハハハ、ん、ぐっ!?」

「喜んでいる余裕もないぞ」

「エクレアァァ」










 鬼葉、久憐、エクレアによる攻防戦は続く。動けば動くほど、お互いの癖や、わかっていても対処の難しい強い動きを理解していき、洗礼され、やがて思考の読み合いが始まり、フェイントを絡め合う。彼女らの体感では1時間経過しているであろうが、実際の時間は1分程度。


「そろそろ」

「なに?」


 そしてある時、久憐がその場を離れた。理由は。


「電車?」


 一周してきた電車が戻ってくる。それをチラと一度見る久憐。なんだ。なにが狙いなんだ?と思考する鬼葉。


「エクレア」


 久憐はエクレアの名を呼んだ。


「……ヴィター」


 小さくこもった声で返事した。


「飴ちゃん、私が全部食べますよん!」

「────貴様ッ!」


 ピンポーンと電車のドアが開いて、【ヴィター・バット】は勢いよく乗車していく。

 狙いは、そう、エリアにある全てのキャンディを無駄食いすること。


「逃がすか!」


 実はこのゲーム、キャンディを5つ以上集めた状態でも回収はできる。意味は無い。無いからこそ無駄食い。5つ集めてないエクレアの分を無くし、覚醒技を実質的に封じてしまうという魂胆。

 勝ち筋を潰されることを危惧すれば追いかけるのは、否、戦場から背を向けるのは当然。


「おい」

「ミルキィ!?」

「逃げんなよなァ」

「く、ヴィターは乗ったぞ!」

「関係ねえ」

「なに……そうか」


 鬼葉は、久憐は追わず。いままさに、ここで、エクレアを倒しにかかることを選んだのだ。

 プシューーーと音を立てて、電車は再び走り出す。窓越しに久憐は手を振った。


「私は、かなり強いぞ?」

「はん、今更なにを。なんだ、そんな追いかけたかったか?」


 エクレアの顔をじっくりと見て、鬼葉は言い放つ。


「お?ビビってんなァ」

「ビビってはいないさ、ただ少し不愉快なだけだ」

「ふん、テメェ倒せばこっちも飴5個だからな……」



◆◆◆◆◆◆



「どうやらエクレアと鬼葉がやりあうらしい……」


 電車の窓からその光景を眺めて、駅を出て、それから向き直る。

 カタリカタリと揺れる空間、連結部分の向こう側は左右に揺さぶる。


「さてと」


 実はエクレアがこの列車になった理由はキャンディの無駄食いの他に二つある。

 一つは空間的有利。ヴィター・バットは開けた場所より狭いほうが断然強い。スイングを避ける方法が限られてくる為だ。

 そしてもう一つは、この奥に潜む少女。


「私は、競技的なことが好き。特に貴方みたいなのは先に潰すべきだと思うんですよね」


 返事はない。揺らぐ電車の音ばかり。久憐の狙いはシト・ヒナタだ。









 今、久憐が乗車し、1両目に向かったのが見えた。現在地とは逆方向だ。


「どうしよう……っ!!」


 一難さってまた一難。息を殺して叫ぶ。コメントに泣き縋る。


{やばいやばいって}

{ロックオン!}

{ガン狙いされてますねぇ}


「すぐに折り返して、ここに、5両目に来るのも時間の問題……!」


 ヒナタは8両目までダッシュする。取り敢えず見つかるまでの時間を伸ばすという考えだ。


「しかしどうしてボクの位置がわかったんだ」


 相手は世界1位。まともにやり合って勝てるわけがないのは重々承知。だから戦闘を避けたいのにあっちからくるんじゃ仕方がない。


「……そうか。菓子より煎餅の、置き土産ってことか」


 頭に、殺人ぐりずりー君の笑い声が響き渡る。

 菓子より煎餅がデスするまでの間、あの人形が目印になっていたのだろう。

 いくら自分が潜伏しても人形が目立つから意味がないということ。その場所がバレるとしたら理由はソレしかないと、ヒナタは思う。




 がこん。と音がした。金属が打ち砕かれる音。手すりかなにかを破壊しながら突き刺すんで近づいてくる存在。


「久憐……すぐそこまできてる!」


 走行中の電車は止まらない、駅にはつかない、死なない安全圏はずが死と隣り合わせの密室空間へと豹変し、ヒナタに牙を向く。


「戦う、しか、ないか……」


 ヒナタは座席の側面の、死角に身を潜めた。やってくる対象を狩る、獣のように。








「みーつけた」

「────ッは!?」


 窓をぶち破って、バットを持った幼女は背後より現れる。


 


◆◆◆◆◆◆◆




「エクレアァァァァ!!」

「ミルキィィィィィ!!」


 サーベルを避け、拳を当て、拳を避けて、切り刻む。傷の代わりに赤色のポリゴンが散って、跡になる。


(くっ……キャンディの差が露骨に響いているな)


 鬼葉の猛攻を避けられずに、そう思うエクレア。それと同時にこうも考える。キャンディを抜きに考えてもこのミルキィのスピードは異常であると。


(熟練されたミルキィはここまで速くなれるというのか)


「貴様は、いつから、この世界に来た」

「いつからァ?んなもん、今、関係ねえだ、ろっ!」


 ガードの行動を取ると、拍をずらして攻撃を通しにかかってくる。相当な手練れでなければできないはずで、鬼葉が初めて1ヶ月も経ってない新人とは俄かに信じがたいだろう。


「くっ!!」

「フッハハァ!」


 舞い上がるエクレア。


「空中制、動ッ!!」

「なぁ!?」


 吹き飛ばされた圧力を無視するような逆降下。

 鬼葉との距離は離さず一刀、蹴りでコンボに繋ごうとする。


「なんつー手品だクソが!」

「ベク変だ、知らんのか?」

「新手のオタシコか……あっぶね、やったなオラァ!」


 一進一退の攻防戦。技巧と知識はエクレアの方が上、キャンディと、こと近接におけるミルキィを使う鬼葉が有利。

 互角に見える。

 しかし、互角に見えるだけ。


「よかろう」


 一つ拳を回避して、バク転を3度行って距離を取るエクレア。


「私は貴様に敬意を表す!」

「は?」


 右手のサーベルを構え直し、左手を腰の裏に回した。素早くそれを引き抜くと2本目のサーベル。


「二刀流……」

「覚悟してかかれ、ここからが私の本気だ!」

「おいおいおい、マジかよ、まだ────」


 1秒後、鬼葉とエクレアは同時に走り出し、互いの攻撃を差し合う。


「実力を隠してたのかよ!」

「脳ある鷹は爪を隠すというだろう!」


 殴る前に斬られる。鬼葉にとって、武器を持たないミルキィにとって、厄介この上ない。やはり間合いを管理されると拳を通せないのだ。


「ガード」

「二刀は防御を貫通する!」

「ぐっ!」


 徐々に防御のタイミングと精度が上がりつつある鬼葉だが、ガード発生が終わった後に二刀目で斬り伏せられてダメージは通る。一刀とは比べ物にならないほどき脅威となり鬼葉が後手に回った。


「なる、ほど、なァ」


 大雨のように降り注ぐ攻撃の数々を捌ききれるか、否、少しずつ少しずつダメージを受ける。


「ふん!ふん!はぁぁっ!」


 袈裟斬り、袈裟斬り、同時に逆袈裟、押し引き蹴り上げ斬り倒す。一心不乱の猛攻は鬼葉によもや行動をさせない。防御のタイミングも、全て読み切って、裂いて、開くのは傷と血の華。

 鬼葉は勝てない。

 トップオブロリポップ序列2位のエクレアに、なす術なし。

 今の鬼葉では。




 そう、今の鬼葉では(・・・・・・)





 1秒ごとに更新される、桃葉 瑰はくたばらない。


「オルァアルァ!!」

「ガードからのゼロランだと!?」

「カウンタァア!!」


 鬼葉は土壇場で反発するようにエクレアの二刀をガードとゼロランを絡めて凌ぐ。

 エクレアたまらず退避。

 しかし。


「待てやァ」

「なに!?」


(こいつ、さっきと動きが……まだ速くなるのか……おかしい……まさか連ゼロ!?できるのか!?)


「ァァァ……」


 オタク思考的空間挙動、連ゼロ。ゼロランの応用編。

 通常ゼロランは点を打つような一瞬だけの速度上昇だが、それを連続的に行うことで擬似的に走行速度の限界を超える技。

 ただ走ってる最中に連続でゼロランをしている、だけなのだが、その連続(・・)というのがどれだけ難しいかは、ゲームに慣れている者ほどよく知っている。


(ゼロランは、練習すればいずれできる……けど連ゼロは……連ゼロは!イメージと無心の高速反芻だぞ!?そんなことできるのは、世界的に見たってそういない!!)


「何者だ、こいつ!?」


 エクレア側の読みが、一段、二段と外れる。歯車の一つが欠けて、機構が狂い始めるように、あるいは土台がひっくり返るように。


(先程と、人が変わったみたいだ。なんだこれは)


 圧倒される。

 この状況で鬼葉は────笑っていた。


「フハハハハッ!ハァッハハハハハハ!!!」

「貴様!?ミルキィはもう少しお淑やかだぞ」

「俺ァ、俺だ!!」


 駅中に響き渡る騒音。エクレアの目の前にいたのは、目ん玉をおっ広げて口が裂けそうなくらいに釣り上がった【ミルキィ・クラッシュ】

 エクレアは走り出し旋回、ミルキィならざる者先程とは打って変わって微動だにせず、されど瞳はきっちりと動きを捉える。棒立ちからふらふらと動き始めた。

 異様な雰囲気に困惑しながらもエクレアが向かう。


「最後の最後でミルキィらしさがなくなったな」

「ヒヒッ」


 しかし鬼葉はエクレアの攻撃を完全に読み切ってゼロラン回避。カウンターパンチを叩き込む。フラフラと不規則に見えるそれ。キックボクシングの選手がするようなステップであり、そこに一瞬の隙も無く、近寄る者全てを打ち砕かん。


「くらえやァァァ!!!」

「……」


 ガキン、と拳を刃で弾くエクレア。


「やット、ガードしたなァ……」

「ガードせざるを得なかったよ、この私が」


 エクレアは身を引く。


「貴様は【ヴィター・バット】、いや久憐によく似ている」

「久憐ダァ?」

「決して本物ではないが、限りなく本物に近い強さを持つ」

「……悪りィな、生憎キャラになりきルつモりはねェよ」

「そうか、貴様はそうなんだろうな」


 一瞬で距離を詰める。最高速。


「フハハッ」

「……!?」


 一つ、差し合いで絶対に負けない瞬発力。詰めたエクレアよりも先に置かれた拳がこめかみに突き刺さる。

 それから反応する間もなく片側の拳で顎を下から掬い上げる。

 二撃先攻は【エクレア・サーベル】だけの特権ではない。拳で戦う【ミルキィ・クラッシュ】もまた。

 そして、三撃、両手を振り下ろす鉄槌が後頭部に直撃。

 四撃、膝を顔面に打ち付ける。五撃、六撃、殴って、殴って、コンボを回す!


「ぬけだせない!」

「ハハハッ……」

「貴様ッ!」

「終わりだァァァァ!!!」


 終撃。


{鬼葉がエクレアをキルした}


 あるいはキャンディが同等数であればどうなっていたかわからない。しかし。




 鬼葉。

 純粋な殴り合いの末、戦いの間に急成長を遂げ、序列2位を下す。

 これは才能が開花した瞬間である。




ここからが鬼葉の本領発揮ですね

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