Sランク昇格戦:02「一撃必殺」
開始から数秒が経過した。
今回の戦場は立体駐車場でも商店街でもなく、巨大な駅。最近ではあまり使われなくなった電車が停めてあり、全エリア中最も広く複雑だ。
そんな場所で一撃必殺の弾丸が飛び交う。
「チッ、野郎……」
流石に一発当たれば死ぬって相手に特攻は難しい。ガードだって効かねえしな。
俺も、久憐も、他のランカーも身を潜めるという選択を取った。
電車内の窓から外の様子を覗く。
「鬼葉、あれはなんなの……!?」
そう聞いてきたのは同じ場所に隠れ込んで遭遇したヒナタ。そういやこいつもマッチングしてたが神の悪戯か。
なんにせよ野郎どもいなけりゃ最高だったな。
「あいつらは"弱い奴"だ」
「弱い?」
群れて、武器を持って、つけ上がる雑魚。俺は、んな奴に絶対負けん。
「アイツらはロリパンのデータを違法に弄った、まあ、犯罪者だな」
「それって、チーターってこと!?」
このご時世、サイバー関係の規約違反は重罪だ。昔の5兆倍は重い……実際にやったのはジジイだが、首謀者はコイツら。俺はサツじゃないんで取り締まるわけじゃないが、シマに入ってくるってんなら話は別だ。
「ランクマッチの対戦機能、最初からキャンディ5個、無限に連発できる覚醒技、手に入れた力はその辺か」
「……そしたら、多分運営がアカウントBANするし、それまで待てば」
「待てば解決、けどな、一度してやられた相手をタダで返すわけにゃいかねぇよ」
「立ち向かうの?」
「ったりめーだ」
しっかりと、落とし前つけてもらわなくちゃあな。
「つーか、仮にも俺のライバルならもっとガツガツしろよ」
「ひ、人聞きが悪いな!ボクは大局を見てるんだ」
{そう、ヒナたんには考えがあるんだ}
「ほーーう、考えね……っておいお前」
見知らぬ声がヒナタの意見に賛同している。誰だ?敵か?いいや違う。ヒナタの視聴者だ。
「お前配信中かよ」
「あっ、うん」
{おつおつおー}
{鬼葉さんこんちわ}
{こんちわー}
なんかやっぱこの姿見られてるって考えると恥ずかしいな。リアルの知り合いが視聴してるわけはなさそうだが、女の子になってる俺を観られるのは、いただけない。しかも前回はダサい俺しか見てねーよコイツら。
どうせなら、カッケー俺を見てくれな。
「ゴホン。ま、お前ら期待していいぜ。俺の勇姿をその目に焼き付けな」
「やばい、ナチュラルに配信の主役奪いにきたこの人」
{ヒナたん……}
{ヒナたん……}
{どうして}
{鬼葉チャンネルはこちらです}
人生の主役は俺様だ、目立ちまくるのは気分がいいぜ。
ああ、そうだ、鬼葉チャンネルねぇ。いいかもしれん。そういや動画配信で金稼ぐとか言う話もあるんだか?ゲーム限定ならストリーマーって言い方するよな。
ちょっと考えておこう。鬼葉チャンネル。
「まあいい、それより」
顎で窓の外を指してやる。
「あの野郎共自分たちも隠れ始めたな」
{ズルだ}
{チーターやば}
「流石に堅実な手を打ってきたね。これ、車両で鉢合わせになったらまずいよね……」
「いや、その場合は寧ろ好都合だ。一番まずいのは敵の位置を把握できてない状態で一発食らうこと」
{一撃必殺}
{これだからチーターは}
{チート使ってる奴何が楽しんだろう}
「……まあ、楽しんじゃねーの?相手を虫けら同然に蹂躙するのは」
そこに俺はただしと付け加える。
「ただし。その虫けらに噛まれて死んだとき、そいつらはどんな顔しているんだろうな?」
俺はカメラに向かってニタリと笑って見せた。
{トゥンク……}
{やるのか!?}
{チーター狩りきちゃ!}
{やだかっこいい♡}
{トゥンク}
{この子カッコ良すぎる}
{流石変態紳士}
{濡れたわ}
{ヒナたんも見習え}
「……お前らこの前と態度ちがくね?」
「ま、まあ空中ラリアットの人だし、オタシコ下手なだけで上手い人判定だし。てか配信乗っ取らないでくれる!!」
下手言うな。
{はーたんがんばえー}
{はーたんがんばえー}
鬼のはーたんってか?おいやめろ!キュートな女の子キャラみたいな扱いすんな!側がミルキィなだけで俺ァ喧嘩最強のヤンキー、恐れられなければならんのだ!
恐怖の象徴である俺を愛でるな!
「チ、チーター狩りつってもこっちからはまだ動かねえぞ。下手に動かず、こっちも様子見だ」
俺とヒナタはその場でじっとする。アローズってな。あんなんただのクソチンピラ集団だ。痺れからして出てくるのは目に見えてらぁ。
{ところでその熊さんなに?}
{それな}
「「え?」」
[キシャァ]
────なんかいるぅぅぅ!?
「お、おいなんだこの熊!」
配信コメントに気を取られて全く気が付かなかった。指をさすその先。隣の車両に繋がるドアの側にズタボロのクマさん人形が包丁を持ってこちらを見ていた。
「これって、【ショコラ・ドール】の殺人ぐりずりー君じゃない?」
「あ、ああ、それか。この熊そんな名前なのな」
「そうだよ」
状況がこみいって一瞬何かと思ったが俺はコイツを知ってる。【ショコラ】の動かす兵隊さんってやつだ。
{このゲーム名前怪しいの多くない?}って?ごもっともだと思う。ポンキャンディとかな。
「【ショコラ・ドール】って言やあ、Sランク7位の菓子より煎餅の使用キャラだよな」
「これボクらの位置が把握されたかも」
「なるほどなるほど」
【ショコラ・ドール】というキャラクターはクマの人形を遠隔操作しながら戦う、所謂地雷系っていうのかね?ゴスロリ服を着たそんなキャラ。で、このクマの視線はあっちから見えるようになっている。襲ってこないでずっとこっち見てる限り監視が目的。
なにか動きがあれば、本体はなにか仕掛けてくんだろうな。
さてどうする、さらに待つことになりそうだ。つーか、アローズ出てきても下手に動けないんじゃねえか?これじゃあ。
うーん。
うーん。
「……なんかァ、ムカつくな」
「というと」
「弾丸にびびって行動縛るのは俺らしくねェ。誰かの監視下に置かれてコントロールされてる感じがすんのも気に食わねえ」
{!?}
「え、まって、この人さっきと真逆のこと言い始めたんだけど」
俺は一歩前に出し、決断する。
「特攻だァ!!!」
「えぇぇえ!?ちょっとまっ!」
{えーーーっ}
{え}
{え}
{えぇ!?}
電車から降りて駅のホームの端まで叫びながら走る。走る。ざわつくコメント、お前はバカだって?心外だな。一応考えてるに決まってらぁ!
さて注目の的になった。もっと知的な軍団ならいざ知らずarrowsだ。この千載一遇のチャンスを見逃すことなく、馬鹿正直に撃ってくるのさ。
{シーフォン・スナイパー【覚醒技:ワンショットワンキル】発動}
俺はそのまま反対ホームの電車に乗り移って身を屈める。射線を逆算すれば敵の位置はわかるってわけだ。したら、次はそこに突撃すればいいって寸法よ。俺は天才か?
「はっハァ……そこかァ」
ホームの支柱の影に隠れてら。目と目があっちまったぜェ?やべっ!て面して逃げ出すつもりだろうが、もう捉えた。俺は電車から一歩出て────上!?
「っしゃあ!」
「クッ……!?外したッ!?」
寸前で一歩下がって電車内にもう一度退避。あぶねえあぶねえ電車の上に1人隠れてやがった。こればっかりは、そこでじーーっとarrowsに目を向けていたクマさん人形に感謝だ。あれのおかげで気づけたし。
混乱に乗じた漁夫の利でも狙ってんのかと思ったが、どうやら菓子より煎餅って奴も御立腹らしい。間違いなく意図して俺に協力している。
「場所がわかりゃあよ、こっちのもんだな」
俺はもう一度同じ場所から出て、身体を捻るように上に跳び、そして足首を掴んだ。
「こいっつ!?」
「死に晒せフハハハ!!」
体重をかけ重力に従い、バランスを崩した奴は天井から足を滑らせ落下する。
「そいつを離せ!」
支柱の影から仲間が出てきた。おいおいそれは下策だぜ?
側で倒れるシーフォンの首根っこを掴んで盾がわりにしてやる。
{シーフォン・スナイパー【覚醒技:ワンショットワンキル】発動}
銃弾は貫かれ、お仲間さん死滅。
「あーあ、やっちった。一撃必殺は怖いなァ?」
支柱の影でやらかしたと言わんばかりの表情。結局、強い武器を持とうが使い手がダメならダメなんだ。
「しかもキャンディ落ちたじゃあねえか、ラッキー」
拾って、走って、向かって、粗末な迎撃を避けて0距離。
「あっ!」
「ハハッ」
クラッチを決める。なす術なし。俺の勝ち。
「取るに足らねえ雑魚共。これがあと5人もいるたァめんどくせえ」
ま、キャンディが増えるからちょいとリスキーな補給って考えればいいか?
なんて思っていたら。
{久憐がarrowsをキルした}
{久憐がarrowsをキルした}
{エクレアがarrowsをキルした}
おっと。まずいな。飴3つ取られたってことじゃねえか。




