暴走族に誘われ、ゲーム世界へ殴り込む
そもそも、だ。俺と言う男がなぜゲームを始めたかについて遡ろう。
◆◆◆◆◆◆◆
「おいおいマジかよ」
現在夜、俺の家の目の前。
なんでかな、目の前にあり得ない台数のバイクが並んでやがる。ヴォォンヴォォンと馬鹿うるせえ音を鳴らして。
「オウオウオウオウ、鬼葉っ!!テメェちょっと面ぁ貸せやゴルァァァ!!」
バイクの先頭、金髪ドレッドヘアーに額当てをした男。耳が痛くなるような声を上げる。
ったく、近所迷惑って言葉辞書で調べろ。いま何時だと思ってんだ?
「おい、うるせえぞ、虎紀。やんのか?」
俺は睨み返してやった。売られた喧嘩なら買うからな。そしたらそいつは頷いた。
「ああ!ゲームやろうぜ!!!」
「……」
は???
◆◆◆◆◆◆◆
一つ、虎紀という男は暴走族である。
一つ、俺は自他共に認める喧嘩馬鹿のヤンキーである。
一つ、俺とコイツは因縁のライバルみたいなもんだ。
その上でこの話だ。
「鬼葉、ゲームやろうぜ」
いやいやいやいや。
何がどうしてそうなるんだよ。ヤンキー、暴走族、怒鳴り合い、睨み合いときて、ゲーム!?あれ完全に喧嘩の流れだっただろ!?
「聞き間違いだと言ってくれ」
「聞き間違いじゃないぜぇ!ゲームゲームゲームゲーム!」
「るっせえな、小坊かよ」
仕方ねえ。現実を受け止めよう。こうなったら、なぜ虎紀みたいなゴッリゴリのワルがゲームの話を持ちかけたか、その経緯を知る方が先決だ。
「で?なんで急にそんな話をした?」
「いやさ、最近外も静かだし退屈じゃね?って思ってさ」
「……それはそうだな」
これには同意見だ。住みたくない街ランキング殿堂入りの治安の悪さはどこはやら。俺とか虎紀みたいなヤツ殆ど居なくなって、すげえ平和になっちまった。喧嘩相手も居なくて持て余している。
「ってなわけでゲームしようぜって話!」
「そうはならんだろ」
いや、サッカーしようぜって言われたならわかるよ?登山行こうぜでもギリいける。ゲームはないだろうゲームは。
「お前さぁ、もしかしてゲームパイセンのこと舐めてんだろ?」
「ぁあ?」
「ゲームパイセンすげえんだぞ!超オモロいんだぞ!マジ舐めんなよ?お前なんざ2秒で殺せるぞパイセンなら」
「意味わかんねえよ」
こいつもしかしてラリってんのかな?俺、いい闇医者知ってるから教えてやろうか。
「鬼葉!」
「んだよ」
「お前喧嘩好きだろ」
「ああ」
「ゲームの世界なら喧嘩もたくさんできるぜ」
はん、くっだらねえ。
「喧嘩は喧嘩だ、ゲームのそれじゃタシになんねえよ」
首を横に振って見せた。そしたら虎紀の奴血相変えて身を乗り出す。
「いやマジでヤヴァイから!お前やったことねえからそんなこと言えんだ!」
「近え近え、唾飛んでんだよ」
悪い悪い、と。虎紀は額当てを取って、それで、俺の顔拭こうとするな!汚ねえよ!
「鬼葉、マジな話なんだよ」
「……」
虎紀の眼は本気だった。
「オレも、退屈してたんだ最近さ」
奴は語った。ここ一年の静けさの間に連れからゲームに誘われたと。最初は俺と同じように半信半疑だった。一回だけやったらもうやらないって心構えでやったと。
「したら……っべーんだ。どっぷりハマっちまった」
四六時中やるようになったと。
「そんなに面白いか?」
「ああ、だって人殺しても合法なんだぜ!?」
「……その言い方誤解生むだろ。サツにパクられても知らねえぞ」
言わんとしてることはわかる。ゲームだからそういうのもありってことなんだろう?
「……」
俺は少し黙って、考えてから虎紀に聞いた。
「そこに熱い戦いはあるか?」
畳みかけるように聞いた。
「心を燃やすような闘争はあるか」
そしたら虎紀は頷き、小さくも力のこもった声で言った。
「ああ、あるぜ……!」
「そうか」
じゃあこっちの答えは決まった。
「お前がそこまで言うならやってみないこともねぇな」
俺は手を差し出して、虎紀と握手を交わす。
「つまんなかったら即やめるからな」
「ああ、面白さはオレがホショーする」
ゲームとか付き合いでちょっとしかやったことない。まるで興味ない。普段ならまあ断っていただろう。
けどタイミングが今なら。強敵を失い闘争を失い退屈していた今なら悪くはないかもしれん。
それに他の誰でもない虎紀の誘いだ。俺が戦友と認めた相手が心の底から『良い』と言ったものに色眼鏡はかけない。
「煙草、吸うか?」
「いや、金なくて禁煙中だ」
差し出されたくしゃくしゃの箱を手で遮る……おい、人の家で吸うな虎紀よ。
「……」
「……」
ふーー。吐けば白く。今年は喧嘩もなく、この暖房の一つだって無い狭い家で退屈な一年の終わりを過ごすと思っていたんだけどわからないもんだ。
「で、これがマシンなんだけどよ、本体は25万かそこら、おまけコンテンツをフルオプションでプラス1万、んでオンライン料金月300円、うん余裕だな!」
「いや待て待て待て」
ひょいと出てきたヘッドホンみたいなやつ、価格高すぎんだろ!お前俺の部屋の広さ見てみ?六畳一間だぜ?
おいおい、折角ワクワクしてきたのに。早速問題が起きたぞ。
「家賃と食費と電気代と、こちとらカツカツなんだわ。買えねぇよ」
「んじゃ、葉っぱの運び屋でもやれば?」
「それは犯罪だ馬鹿野郎、てか誰がこの街の販売ルート潰したと思ってんだ?」
あーだめだ、せっかく買おうと思ったのに気が失せたわ。なんて愚痴ってたら、虎紀の野郎はヘッドホン型のマシンを俺の耳にガシッと装着しやがった。
「ぬんあ!?」
耳から外して手に持った。ひんやり冷たい黒色、耳当てには緑色のウネウネしたマークが彫られている。
「おいこりゃあ……」
「んなこったろうと思ってたぜ、クリスマスプレゼントってやつだ」
「は?なに?クリスマスプレゼント?おい正気か?」
「おん、新しいのあるし」
「あ、あぁ、そういう」
そうか。新しいのあるならお古を譲るのもわかるな。納得だ……納得?いや、いやいやいや。なんでコイツ2台も持ってんだよ。こいつ強いけど所詮は一介の暴走族だよな?収入源バイトじゃねえのか?
「これだとお前50万使ってるよな?やったか?やったのか?」
バッリバリ仕事してちゃんと稼いだ、偉い。ギャンブルで稼いだ、運が良かったね。ブラックマーケットに手を染めた、詐欺やら恐喝で金ぶんどった、間違いなく悪者だが俺はサツでもまして正義の味方でもないから目を瞑ろう。しかしだな。
「おい、それ今すぐ電気屋さんに返してこい。そのリーダー的格でやること万引きとかありえねーぞ、恥を知れ恥を」
「ちゃんと金出して買っとるわボケぃ!領収書みるかあぁん?」
マジだった。間違いなく一台分の値段を買っている証拠がそこにしっかりと書いてあった。
だが一台分だ。二台目は買ってないようで。そこんとこどうなんだと突っ込んでみれば、確かに二台目は買ってはないと言った。
「一台目は苦労して買ったぜ?それを使ってゲームの大会出て勝って、二台目は優勝景品で貰った」
「最近お前んとこの族がやけに静かだと思ったらゲームしてたのかよ……」
楽しくてしょうがないそうだ。戦場を変えても結果を出せるとは流石我がライバルと言ったところ。しかもそれで金稼げるんだったら世話ねーな。
「おーけー。んじゃあお言葉に甘えてこれは貰っとくぜ」
俺は手に持ったヘッドホンを首にかけた。
「をい、あげるなんて言ってねえぞ?」
「あ?」
それは。その手のひらは「払ってください」の合図では?
「月々4000円で返して貰うぜぇ!まいどありぃ!!」
「ほんっとケチくせえなお前!」
「これでも優しい方だろーが。ちゃぁんと分割払いなんだぜ?しかも超細かく。一万に引き上げるか?お?」
「ったく、わぁったよ」
相変わらずの守銭奴で参っちまうよ。俺は財布から今月分を引っ張り出して叩きつけてやった。
ヘッドギアじゃなくて、ヘッドホンで合ってます。