超撃爆破のナンバーナイン:02
「早速本題に入る。ボクと、鬼葉はちょっとロリパンでわからないことがあるんだ……コメント欄にいる有識者諸君、知識をください」
{え}
{そうは言われましても}
{わいロリパンやってないっすねぇ……}
……。
「ダメじゃねえか」
「そういえば、そもそも鬼葉にコツを教えてもらおうとしてたのコメ欄に有識者いないからだった」
「ダメダメじゃねえか」
「あひん」
{すまぬ、この前の動画見て始めた}
{ここにいる視聴者だいたい身体動かすゲーム苦手でしょ}
{まあ、大半が博士だし}
{別の格ゲーならやってるけど}
{栗パート8動画はやくあげて♡}
だとさ。とにかく有識者なんてもんいなかったらしい。残念だけどなぁーーーってん?{別の格ゲーならやってるけど}だって?
「別の格ゲーやってる奴、詳しく聞かせてくれ」
俺はすかさず質問を投げた。
「え?別ゲームでいいの?」
アイドル姿のホウィップヒナタは不思議そうな顔をした。
「ああ、同じジャンルならな」
別のゲームでもいい。近ければいいんだ。経験上、枠組みとして近しい競技の技術は流用できるからな。そう、総合格闘技のように。
「……」
「どしたヒナタ」
「いや、キミ、少なくとも絶対ゲーム初心者ではないよね」
「初心者だ」
「嫉妬」
強くなる方法を知ってるってことだァな。いや、まだ流用できるかもという段階で実際に出来ると限らないが。
ヒナタは先程のコメントの横にある丸アイコンをタップして名前を表示した。
「えーと"いざなみ"さんだね。質問いいですか?」
いざなみ{どうぞー}
「鬼葉何か質問は?」
問いただす。俺はまず、そうだな、アレについて聞こうか。
「ガードってなんだ」
「あ、それボクも知りたかった」
攻撃を受け流す磁力的な何か、ガードと呼ばれる技。あれがどういう原理でできてるかわからずじまいで、俺は終始翻弄されることがある。
いざなみ{ガードは、オタシコの基本テクニックだね}
「「おたしこ」」
なんだこいつ。シコとかテクとか突然の下ネタか?垢BAN案件か?
いざなみ{そうか主も彼女も初心者か}
いざなみ{『オタク思考的空間挙動』の略称}
{オタシコはワイも知ってる}
{いつ聞いてもキモい略称}
{もはや聞き慣れすぎてキモくない}
{てかヒナたんも知らんのか}
曰く、オタシコとは、リアルとは違う電脳世界ならではの法則性を駆使した人間離れした動きのことであり、古く「オタクであればあるほど簡単に理解できる動き」ということからその名前がネットスラング的に広まったものだと。いまやプロ界隈ですら公用語みたいなもんらしい。
誰だよ広めた奴、もっとマシなネーミングにしろよ。
「って、ことはガードはオタシコの一種ってことかな?」
いざなみ{そういうこと}
いざなみ{ガードは衝撃に対して強く抵抗しようとすると作用する、文字通り守りの力だよ}
いざなみ{お二方、リアルでの運動神経に自信は?}
「ある」「ない」
俺とヒナタは真逆の回答をした。あとコメント欄の9割が{ない}と答えていた。
オタクくんさぁ、少しぐらい運動したほうがいいと思うよ?なんつってな。
いざなみ{鬼葉さんは習得するの難しいかもしれない}
「え」
俺の方がダメなのかい。
いざなみ{現実で身体を動かせる人間はそれほどに現実が定着している人間だからね}
いざなみ{リアル思考を一旦外すのが難しいと思う}
いざなみ{大事なのはイメージ}
{妄想力やんな}
{人間をやめるんだ}
{ゆーてコメにいる奴らオタクなのにオタシコ下手だから安心しろ}
まああくまで個人差の話なんだそうだ。傾向ってだけ。なら俺にも出来るかもしれない、オタク思考的空間挙動。
「俺に妄想力があれば問題ないってことだな」
いざなみ{まあそういうこと}
いざなみ{もちろんリアル運動能力も人間のできる動きの最適解としては正しいから無駄ではないよ}
いざなみ{つまり運動できて妄想もできるやつが最強}
「最強」
運動能力が高ければ高いほど人間としてスーパースペックである、これは当然。
ただこのゲームの世界で、運動能力のその先の、人智を超えた能力を発揮するにはそれとは別の能力が必要であり、それは基本運動能力に反比例する。
必要なのは妄想力?なんか言い方アレだしさっぱり意味わかんねーけど俺にはあるんじゃねえの?
「ふん、イメージは得意だぜ」
{ずっっる}
{これは妄想力ないに一票}
{不公平だよなぁ}
{いきなりオタシコ習得したらチャンネル外すね}
「えっ、ちょっ、まって!配信主ボクだから関係ないでしょう!ね!登録はそのままでお願い!」
あたふたするヒナタをよそに、フレンドマッチを申請しておく。
百聞は一見にしかず。実践形式でガードってやつをしてみようか。
「チェストぉぉぉ!!」
「おぐぅっ!?」
今、俺は、【ホウィップ・スカイハイ】の蹴りを腹にモロに喰らってぶっ倒れた。
「……おい、ヒナタてめえ」
「ひぃっ!ごめんごめんごめん!ガードできないのをいいことにマジ蹴りしました!悪気はないんだ!」
「悪気しか感じねえよ!」
「楽しくてつい」
「は、おま、おいコルァ!!」
「ふぃ!?」
はい、ヒナタ、俺の攻撃に対しガードを成功させやがる……。
{これはガードできないやつが悪い}
{ヒナたんは今日もナチュラルドS}
{っぱこの配信主は}
{このヒナたん本当に悪気ないから困る}
{ナチュラルドSモードのヒナたんには勝てないんだ、鬼葉も、コメ欄も}
いざなみ{百合の花咲いてますね}
{ボコられる鬼葉そそる}
{いいぞもっとやれ}
え?マジで何一つとして悪意ないのいまの。煽りとかじゃなくて?シラフでこれ?
あと後半コメント自粛しろコラァ!
「お前ら全員ハッパやってる?」
「いややってないよ!?」
やってないかぁ。
でもコイツがなにしてようが、俺がガードできてない事実には変わりはなく。コメント欄でボロクソ言われる始末。こりゃ流石に鍛えねえとな。
「クソ、妄想力ってやつが俺には足りてないのか……イメージはしてるのにな」
わからねえ。なんかこう、耐えろ!って感じに踏ん張って構えてんだけど全然ダメ。
「イメージの仕方が悪いのかな。おい、ヒナタ、それどうやってんだ?」
ヒナタは難しい顔をした。
「ええと……うーん、漫画とか、アニメのキャラみたいにさ、こう、シールド展開!とか衝撃吸収!って感じ。実際にそうなるわけじゃないけど」
「ほへぇ」
「……わかった?」
「なんとなく」
もう一度やるか、と、並び立つ。
「言ってもボクも不完全で、軽減はできても完全に防げてはないんだ。イメージ合ってるかわかんないけど」
「構わねえ、撃ち込んでみろ」
シト・ヒナタは助走をつけて、一二、三で跳び上がった。アイツこれ絶対リアルでできないよな。これもオタシコってことか。
まえ蹴りが来る。
イメージは……シールド展開、衝撃吸収、いや、違うな。俺がガードに対して抱いたそれとは違う。多分、"磁力"だ。
S極とS極、N極とN極が反発し合うように。磁力を発生させるんだ。そういう特殊能力的に。できるか俺に……いいや、できるというイメージだ。
ヒナタの前蹴りに対する反発の力!
「ガードッ!!」
「うおっ!?」
ぎゅぃっと、独特な音がした気がした。ヒナタの足が、俺の溝落ちを逸れるのが一瞬見えた。そして。
「あっ」
「おぐえっっ!!」
マジでちょっと逸れただけだった。
「うげー、なんかできた気がしたんだけどなァ……」
{全然できてません}
{全然できてません}
{全然できてません}
「るっせー!マジでもうちょっとだったから!ぶん殴るぞコラ!」
まあまあ、うちの視聴者を多めに見てくれと、宥めるヒナタ。だがそういうヒナタはどうだ。全然できてないって言うのか?いや、たしかに感じたはずだ。
「ちょっと、ズレたよな」
「……うん。ズレたね」
間違いない。あのとき【ミルキィ・クラッシュ】の胸と【ホウィップ・スカイハイ】の足裏の間に謎パワーが生まれていた。
「これ、伸ばせばいけるぞ」
「ほんと?」
「ああ」
多分、今のは磁力が弱かった。学校にあるような磁石じゃ指と指で無理やりくっつけられるからダメなんだ。工業用の、ガチゴチのイメージがねえと。
「……フハハハハ」
「うわ、なんか気持ち悪い笑い方」
「おい」
「ひぃ!ごめん……でも、嬉しそう」
「ああ、まあな」
そりゃあ、だって。強くなる可能性が格段に広がったんだからな。伸び代って奴が見えた瞬間、俺はまだまだ強くなれると思えるこの瞬間は、嬉しいに決まってる。
さあさあ、忙しくなるぜ。ガード。絶対ものにしてやるよ。
オタシコとは概念。さあ、オタシコを習得するのです。
ちなみにオタシコの本当の正式名称は「電脳空間のプログラミングの仕様からなる、思考連動法則性現実乖離現象とその応用」




