ラティスから始まる冒険は唐突に終わり
「おや、また会ったね」
……何でこいつがここにいるんだ!?
俺がそう思っても当然だろ?
「……何でお前がここにいて、これは何なんだ?」
マリグラ教団のフォート支部。
支部ではあるがそれなりに立派な建物だ。商売に失敗した商人の屋敷を買い取ったらしいが……その内部は今、むせ返るような血の臭いであふれかえっていた。
ジョンと俺達はあの後、改めてマリグラ教団の支部の傍へとやって来た。もちろん、潜入を図るつもりだったんだ。真正面からの会話を断られたなら、後は密かに情報を集めるしかない。ジョンの仲間がそっちは動いてくれる事になったんで、俺達(ラティス達とも合流して)はジョンと一緒にやって来た。
異変を感じたのはしばらくしてからだった。
『見張りがいない?』
ジョンのそんな呟きから事は始まった。
急ぎ、ツァルトの頭部を飛ばして探ってもらった。
最初はもしかして、仕事をサボった?とか、何かトラブルが発生したか?ぐらいの軽い気持ちだったんだが、すぐに事態が深刻だって分かった。
『人が倒れています』
ツァルトの頭部が早々に発見したのは中に向かって倒れている門番だった。
しかも、周囲に真っ赤な血の海が出来ているとなると話は重大だ。全員で慌てて中へ駆け込んだ。
そうすると、すぐに一人目、二人目と遺体が見つかった。
こらヤバいと、大急ぎでラティスとツァルトを冒険者ギルドに向かって走らせた。いやまあ、こんな光景をラティスに見せるのは拙いと思ったのもある。しかし、結果から言えば大正解だったな。
俺達が奥へと足を踏み入れると、悲鳴が聞こえたので急ぎ駆け付けた。そこで出会ったのがこの……ラティスを保護した時に出会った妙な気配を漂わせたローブの男だった。
今回はそれに加えて……。
「おい、なんだそいつは。知り合いか?」
「以前、話した事があっただろう?彼の御方の件で出会った首狩り兎だ」
横にこないだ出会ったばかりの三頭族がいた。
いや、こないだのは獅子で、こっちは犬だけどさ。
でも、何故だろう?こっちのが怖いんだよな……いや、分かった。こいつ……ケルベロスだ。尻尾が蛇のようで、けれどボッ、ボッと火を小さく噴いてやがる。漆黒の三つの犬頭もそう考えると急に危険度が増した気がする。
何で、三つの頭を持つ最高の知名度を誇るビッグネームがここにいるんだ?
いや、何をしてるのかは分かるけどさ……。
「……ああ、思い出した。そういやあったな」
今、三つの頭の内、一つは周囲を警戒して二つの頭が考え込み、内一つの頭が気づいた様子で呟いたな。
三つの頭が独立して考え、動けるのか?だとしたら便利だな。何かしら弊害もありそうだけど。
「まあ、そいつは問題ねえだろ。……それとも念の為消しとくか?」
ゾクリ、と背中に悪寒が走った。
ジョンも足がじりっ、と一歩下がった。
拙い。せめて、こっちの味方がもっと強い、せめて片方引き受けて時間稼げる奴ならともかく、こいつらを同時は……!
「やめときなさい。当面は必要ありませんよ」
「……ふん、まあ、確かに仕事には関係ねえな」
つまらなそうにケルベロスは殺気をひっこめた。
仕事……マリグラ教団の連中を殺す事が?って事は何かしら敵対する要素があったって事か?
「それにここに捕まってる相手まで殺す予定はないんですからね?ちょうどいいから任せてしまいましょう」
「ああ、それがあったな……ならちょうどいいか、任せるぜ。じゃあな」
そう言って、次の瞬間、彼らは忽然と姿を消した。
……転移魔法、か?にしては何か違うような。
「そんな……」
「?ジョン?」
どうかしたか?
「何故、街中で転移出来るんですか……!?」
へ?
行ってみたら、ミナゴロシにされてた話