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ラティスから始まる冒険の話5

 「……ま、いい。スラムの住人の中に違法スレスレの事や、犯罪をやってる奴がいるのは事実だしな」


 けど、とギロリとこっちを睨んできたなー。


 「だが、街の連中の態度にもちったあ問題があると思うんだがなあ?そこんところ、冒険者ギルドとしてはどう思ってんだ?」


 あーまあ、なあ。

 スラムの住人、ってだけで偏見が混じって見られるのも事実だし、スラムの住人がなかなか定職につけないのも事実だからな。

 ……もっとも、既に城塞都市内部である程度完結しちゃってる部分あるからなあ。商売やろうとしたって、特に差がなけりゃ常連の商人の所に行くし、そいつは余所者を嫌う外の村の連中だって同じだ。商人だって同じ雇うなら顔見知りの住人から紹介受けた奴雇うわな。

 こっちの世界じゃ紹介、ってのは実に重い。もし、紹介した奴が店の金盗んで逃げたりしたら、紹介した奴が責任を負う。だから、滅多な事じゃ紹介なんかしてくれない。

 まあ、間違いなくスラムの、ろくに話した事もない住人なんか紹介してくれないし、逆説的に紹介状が得られないスラムの住人は商会で雇ってもらうのも難しい訳だ。

 結果、日雇いの仕事なんかで食い繋ぐ事になって、スラムから脱出出来ない、と。ただ。


 「冒険者ギルドは登録にも、その結果による功績の判断にも区別は致しません。スラムの方でも正規の登録をし、仕事をこなす限りは適切に評価致します」


 お、ギルドの説明となったら顔つきとか変わったなー。

 でもまあ、その通りだしね。

 

 「……登録料金も俺らスラムの住人には馬鹿にならねえんだが?あと、うちの連中の死ぬ確率高くねえか?」

 「我々も慈善事業ではありません。登録証の発行もそうですし、万が一の補償があった時の賠償金もあるのです。死亡率が高いのは危険な仕事に、まともな武器防具も持たずに赴けばそうなる率は上がるでしょう」

 「万が一ってなあどういう意味だあ?それに、武器防具ってのもたけえんだが、そういうのはどう思ってるんだ?」

 「真面目に仕事をされてる場合でも、壊れ物を運んでいる時に手が滑ったなど事故で物品の損傷や、怪我人を出してしまうケースは御座います。それに武器防具がなくても出来る仕事はありますし、先輩冒険者らの寄付による中古武器の貸し出しなども行っています」

 「……ふん」


 あんだけ怯えてたのになあ……。

 なんて、思いながら黙って聞いてる。

 俺はいらんけど、武器防具って高いんだよな。マジで。

 まあ、考えてみりゃ当然じゃあるんだけど。こっちの世界じゃ鉄の塊一つだって結構なお値段になる。元の世界みたいに巨大な製鉄所で大量生産なんて出来ないから全部手作業だし、更にそうして出来た鉄から武器を作るのも鍛冶師の鍛造による手作業で一本一本手作りだ。そりゃあお値段も高くなる。

 鎧だって同じ事。

 この世界では機械による大量生産なんか出来ないから服一つでもそれなりのお値段がするのに、鎧となると更に桁が上がる。

 ……もっとも、手作業な以上、職人が生産可能なとなると服一つ取ってもそれなりの時間がかかる。それで食っていくとなると、自然とそれなりの値段をつけざるをえないとも言う。

 これがフルプレートとかになると複数の職人を抱える大手工房でも何人もの鍛冶師が分担して、それでも月一つ二つが限界だ。複数の職人が一つ二つで一月分の生活費その他諸々を稼がないといけないとなると安くなる訳がないのは当然だろう。

 結果、駆け出しの冒険者なんてのは雑用やって貯めたお金で買ったナイフとか小型の弓とかで小動物を狩りだす事から始まるとも言われる。身を守る武器がないと採取もおちおち出来ないしな。

 だから、一般的な冒険者の場合、雑用→採取/狩猟→討伐や護衛てな感じで進む事が多いらしい。

 そんなお高い値段がするから、引退するとか、武器を変えるって場合でも売る事が多い。武器は金属の塊でもあるから売ってもそれなりのお値段になるんだ。寄付してくれるのはそれを理解してでも、自分が駆け出しの頃を思い出して協力してくれる冒険者とか、懐具合が温かいから武器の一本やそこら気にしない冒険者のどっちかだ。

 それが分かってるから、バンデルもそれ以上は言わないんだろうなー。


 「んで?何があって、さっきみてえな事聞いてきた?」

 

 うわ、すぱっと切り替えて、しかも冷静になって聞いてきたな。さすが交渉役。というか、さっきのあれも演技かなあ?


 「あーまあ、最初言っとく。さっきの発言はすまない」

 「おう、で?」

 「さらわれたんじゃないか、って子供がいてな。それで」


 事情を説明したら、バンデルは鋭い舌打ちした。


 「なるほど、あいつらそういう事か……」

 「なにが?」

 「スラムにも来たのさ。見た目のいい魔物の子供相手にもっと稼げる方法があるがどうか、ってな」


 話自体は悪い話じゃなかった。

 魔物の子供に人の国で働かないか、って話だ。必要な教育もきちんと施す、って事だそうだ。

 ただし、スラムの住人というのは予想以上に用心深い。下手に手を出したら犯罪に巻き込まれた、奴隷売買で売り飛ばされたなんて犯罪の犠牲者になりやすいのもスラムの住人だ、そうな。だから子供達が話しかけられたら知り合いの大人は警戒するし、子供も迂闊に頷いたりしない。

 結果として、極一部にしか声を掛けない事や、教育に何でわざわざ金をかけるのかとかそうした疑わしい点が幾つも出てきて断ったそうだが……。

 うーん、こっちにも出没はしてたのか。

  

スラムにも出没はしてました

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― 新着の感想 ―
[一言] 現代の工場みたいに何トンもの鉄を一気に溶かす溶鉱炉なんかないでしょうしねぇ。 個人経営の鍛冶屋じゃ大量生産も難しく、必然的に武器や鎧は高価になりますよね。 スラムの人だとギルドの人も持ち逃げ…
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