ラティスから始まる冒険の話4
遅れました
「俺がバンデルだ。そっちが冒険者ギルドの職員とかいう奴か?」
バンデル、そう名乗った奴は……筋肉ダルマだった。
分厚い筋肉の鎧に覆われた巨漢で、目の前で座っていてなお立ってる職員さんより目線が上にある。おまけに……。
(確か……三頭族、だっけ?)
キマイラって種族がいる訳だけどさ。
あいつは獅子と山羊の頭を持ち、蛇の尻尾を持っている。蛇も頭を持つから実質あいつも三つの頭を持ってると言ってもいいと思う。
もっと有名なのは三頭の地獄の番犬ケルベロスか。三つの頭を持つが故に常にいずれかの頭が起きていて、見張りを続けるという……。
で、だ。
そんな三つの頭を持つ種、って奴がこの世界には存在していて、一つの族を形成してる。目の前のバンデルってのもそうなんだけど、獅子の頭が三つ並んでる様は壮観というか、物凄い迫力……お陰で、冒険者ギルドの職員さん、真っ青だ。こりゃ、ジョン君、「仕事終わったら奢る」って約束してたが、高くなるぞお……。
「どうした」
「あっ……失礼しました。私、冒険者ギルドの職員でドゥリンと申します」
「ビットだ、よろしくな、バンデル!」
「おう」
うーん、強いな、こいつ。
見た目も強そうだが、間違いなく見た目だけじゃない。
……ま、スラムの顔役なんて狙われるの分かり切ってるしな。おまけにこんな目立つ風貌じゃ余計に。
となりゃあ、弱くはいられないか……。問題はこいつの動き、明らかに単なる喧嘩殺法とかじゃねえよな?明らかに武術、って奴をやってる奴の体の動きだわ。
「で、俺に何の用だ」
「えっと、ですね……」
あかん、完全に委縮しちまってる。
「おっと、こっからは俺が話すぜ」
じろっと頭の一つが俺を睨みつけて来た。
「いいだろう、話せ」
「おう、俺達が聞きたいのはさ、おたくら魔物を売買してっか?」
おわっ、一瞬体が反応して、動きかけたぞ!?
やべえ、危うく首を狙っちまう所だった。明らかに今の殺気だよね?
しかも、そいつを物凄い絞り込んで、俺にだけぶつけてきてる……職員さんは心配そうに俺を見ているだけ……あんだけの殺気をぶつけられたら、この人だと気絶してておかしくない。そうでなくても、何等かの反応はあるはずだ。
こりゃ間違いなくそんじょそこらの連中じゃ相手にもならんな……。
「……犯罪に手を染めてないとは言わん。だが、俺達にも矜持ってもんがある。お前らのとは違う形でな」
これ案外ほんとなんだよな。
意外かもしれないけど、犯罪者には犯罪者なりの、スラムにはスラムなりの掟、ってもんが存在する。
まあ、そりゃそうだよな。何かしらルールみたいなもんがなけりゃ、まともに暮らす事も出来ねえだろ。
「いいか、俺達はスラムで暮らしちゃいるが、犯罪組織じゃねえ。スラムの住人の大半は組織とは別モンだ」
うん、それは知ってる。
スラム、って事で犯罪の温床ってイメージ持ってる奴多いけど、元々スラムの成立は農村や開拓村でやってけなくなったり、受け継ぐ畑なんかもない次男坊や三男坊なんかが都市でなら働き口があるかも、ってんで流れてきて、けど、街中で暮らすだけの金がなくて仕方なくそういう連中で寄り添って、街の外側に住む場所を作ってったって代物だ。
当然だけど、元々は普通に暮らしてた人達だから最初から荒事に訴えるような乱暴者とは違う。彼らの大半はあくまで「金がないから、こんな場所に住んでるだけ」の一般人な訳だよ。金の為に安易に犯罪に手を染めるぐらいならとっとと山賊でも何でもなってるだろう。
だからまあ……。
「そんな俺達に魔物売買、人身売買って奴に手を染めてるか、だと?てめえ、馬鹿にしてんのか?」
「そんなつもりはねえよ。ただ聞きたいだけだ」
うーん、これ、もしかしなくてもハズレか?
いや、まだ断定はしちゃいけないな!
スラム=犯罪組織ではないというお話