ラティスの小さな冒険の話6
【一人目】
「まずは商人の一人、名はドラウズ」
扱う物は動物全般。
正確には食肉系の取り扱い。
丹念に育てた最高級の肉を、最高のまま生かして運び、使用予定の日程を考慮しながら旅路の途中で処理する。それによって熟成を進め、貴族の宴席に最高級の肉を、最高の状態で卸す事を可能にしている。
もちろん、それだけでやっている訳ではないので、普通の食肉も取り扱うが総じて高価で希少な食材の取り扱いになれている。
「ここは可能性があるから、ってのが最大の理由だな」
そんな商売をしているから貴族など上層部とのつながりが強い。
おまけに、その仕事の関係上、宴席に彼が商品と共に訪れても、誰も不審に思わない。
また、動物や魔獣を多数管理しているから、そこに員数外のさらってきた魔物の子を混ぜても、気づかれる事はないだろう。
「そして、その商売の性質上、複数の動物を連れて動く事になる上、ドラウズ自身が大の動物好きという事もある」
「……好きなのに食べちゃうの?」
「元々親御さんから受け継いだ家業らしいからね。働いてる従業員の生活もあるし、自分がやらなくても誰かがやるだけだ、って事らしい」
ただ、出来れば生きている内は美味しいものを食べさせ、快適な場所で過ごさせてやりたい。
しかし、それをやる為には金がかかる。
ならば、と徹底した高級路線に走ったのが現在の姿、らしい。
「で、話を戻すんだが……ドラウズは自分が動く時も何匹ものペットを連れて動くらしいんだ」
「えーっと」
『なるほど、ドラウズ氏の愛玩動物に混じっていたら、それが救助対象の魔物かどうか分かりづらいという事ですね?』
「そう、ドラウズ氏ぐらいの資産があれば魔物としての魔力を隠す道具ぐらい手に入りそうだし」
多数の動物を生かしたまま出入りを繰り返す商人。
『確かに出来る能力は持っていますね』
「そう、けど、危ない橋を渡る必要がない奴でもあるんだよ」
金持ちで、貴族にも多数のコネを持つ大商人。
しかも、扱う品は特殊な扱いを要求される事も多く、手間もかかる為、新規参入が難しいので独占状態。
「そんな奴がわざわざ魔物を誘拐して、売り飛ばす、みたいな事をする必要があると思うかい?」
「なさそう」
『なさそうですね』
とはいえ、金は魔物。
動物好きではあっても、金に目がくらんで最初の頃の大切な気持ちを忘れてしまった、という可能性だってある。
「だから、可能性は低いが一応候補としては入ってるんだ」
『納得しました。それであれがそうですか』
「おっきいねえ……」
少し離れた所から見ているが、確かに大きい。
とはいえ、中には大型の魔獣もいるので、これでも案外こじんまりとした建物になるらしい。こうしたものを取り扱う商人の店舗兼用の屋敷としては。
「で、どんなもんだい?」
ジョンからそう声をかけられたツァルトには……頭部がなかった。
とはいえ、どこかに落とした訳ではもちろんなく、現在、頭部は屋敷上空を飛翔中だった。もっとも、ジョンの声の様子から余り期待はしていない事が伺えた。そして……。
『駄目ですね。これだけ上空からでは猫サイズの動物はろくに見えません』
「それに本当にやばい商売してたりしたら、見える所には置いてねえよなあ……」
楽は出来ねえわ。
そう言ってジョンは頭をかいた。
『夜なら、ちゃんとビットの許可を得ないといけませんよ?ラティス』
「う……が、頑張る……」
そう呟くお隣で、何気にラティス達だけの小さな冒険は終わりを告げていた。
という訳で、ラティス達だけの小さな冒険はここで終わり
次からはビットも加わっての冒険となります