ラティスの小さな冒険の話5
「実を言えば、ある程度目星はついてるんだ」
猫夫人を保護、という形で冒険者ギルドに預けた後、彼らは雑用冒険者の案内で動いていた。
ちなみに彼は「ジョンと呼んでくれ」と言った。
「あんまり名前と顔が売れると、ギルドからこういう仕事もらえなくなるんで頼むよ」
「分かりました!」
という事らしいので、ラティスも承諾した。
これ自体は本当の事で、まあ、隠密捜査官が顔が知られたら、裏の捜査なんかできなくなるのは当然だろう。
『それで目星とは?』
何やらラティスとジョンが一向に先へ進んでいない事でツァルトが先を促した。
「おっと、そうだった」
ジョンは頭をかいて話を再開した。
冒険者ギルドが絞り込んだ怪しい相手は全部で三名三か所。
ただし、ここで注意しないといけないのは、怪しいと言っても別に不審な行動を取っている訳ではない、という事。
「怪しい、って言ったのはお前さん達に分かりやすいように、ってだけでなあ……正確には可能性がある、って感じかな?ギルド本部で絞り込んだのはあくまでこういう事が出来る可能性があるとしたら、って絞り込みしただけだからな」
例えば貴族とのコネ。
当り前の話だが、商品をさばくルートがないと話にならない。
そして、ここで重要なのは裏ルートばかりとは限らない、という事だったりする。不審な輩が出入りしていれば当然、疑われやすくなる。どんなに隠しても、街中で全ての人の目を何度も何度も掻い潜れるとはさすがに思えない。
かといって、違法な取引市場に当人が乗り込んでいくというのも実際は難しい。
街中で幾人もの貴族や裕福な商人が出入りし、夜に集まるとなるとこれまた疑がわれる。
そして、違法な取引場所にいた所を抑えられたら、即逮捕だ。
「一番連中にとって有難いのは、ちゃんとした商品を堂々と表立って持って来れる商人なのさ」
それなら屋敷を出入りしても誰も疑わない。
そして、次に求められるのは場所。
一定期間、さらった魔物の子を保管、隠し、しつける場所と人員が必須だ。
これまた、それだけの魔物や人員が集まって、不審に思われない場所があれば最適だ。
「街の外にもある事はあるんだろうけどな?タイミングを見計らって、そこまで運ぶ間、保管しとく場所はどうしたって必要だ」
最後にそうした魔物の子を連れて、街を出入り出来る手段。
既に結託している相手ばかりとは限らない。
このフォートの街でさらったとしたなら、その子を連れだす何等かの方法が必要になる。
そう、幾ら可能性がある、と判断してもそれはあくまで「そういう事が出来る」というだけ。犯罪を犯していると確信を持っている訳じゃない。
「こう言えば分かるかな?例えば、首無しの死体が見つかったとして、お前さんとこのウサギならそういう事が出来るだろ?」
「!ウサギさんはそんな事しないよ!」
「ああ、もちろん。出来るって事と、するって事は別の話なんだよ」
普通は相手に直に「お前は犯罪をやってるか?」と言われたら、「やってない」と答えるだろう。
そして、「やってない」事を相手に証明させる事は出来ない。本当にやっていなければ、証明しようがない。
密輸品を持ってないか?と言われて、調べたがなかった、と答えたとする。
隠してないかと言われて、仕方なく倉庫を彼らに調べさせたが、どこかに隠しているんじゃないかと言われたとする。
そうしたらどうなるか?「だから本当にないんだよ!」としか言いようがあるまい。
やっている事を証明するのには証拠を示せばいい。
しかし、やっていない事を証明するのは、相手に信じてもらうしか最終的には方法がない。だからこそ、相手がやっていないと言った時、「本当はやっているんだろう!」などという類の事を主張するのは愚か者の所業。疑うなら、こちらが確たる証拠、という奴を示さねばならない。
「だから、その三人の誰かがそういう事をやってる、って証拠を見つけ出さないといけない訳だ」
そこで見つからなかったら、また最初から探し直しだから、出来ればそこで見つかって欲しいけどなあ。
そう言って、ジョンは困ったように笑った。
最後のは「悪魔の証明」って奴ですね
UFOなんかが分かりやすいです
政府が「調べたけどなかった」と言っても、疑う人は「本当は政府が隠してるだけだろう!」と何度でも繰り返してます。でも、本当にないなら、政府としては「だから、本当になかったんだよ」と言うしかありません
犯罪でもUMAでも何でもそうですが、疑う側が確たる証拠を出さねばいけません
ってな訳で、ジョンとラティスが次回から証拠を探しに行きます