ラティスの小さな冒険の話4
「実はさ、最近魔物の子、それも見た目が普通の動物に近い種族の子が行方不明になるって事件が他の街でも頻発してたんだよね」
場所を変えて、話を続ける事になった。
さすがに周囲に聞かせるには拙い話もある、かもしれないからだ。
……そして、実際にそうだった。少なくとも、声をかけてきた理由を聞いて、ツァルト辺りは一瞬で納得した。確かに今はまだ表に出すべきではないだろう。
そう、一つの街だけを見るならそこまで頻発しているようには見えない事件。
しかし、それらを複数の街で見た時、それらを繋げて見た時、初めてその数字が浮かび上がった。
そして、その上で調査を開始すると……そうと疑われる案件が見つかったという訳だ。
「冒険者ギルドには捜索の案件も結構来るからねえ、それらをまとめる事が出来たのさ」
国境をまたいだ隣国であろうとも、仲の悪い領主同士が隣り合っていても関係ない。
そんな性質を持つ冒険者ギルドだからこそ、気づけた話だった。
「どういう理由でそんな事になってるの?」
ラティスはそう首を傾げた。
子供をさらう、その目的は何だろうか?
一般的な考えで言えば、もちろん身代金の要求だろう。……けど、猫夫人はそんなお金持ちには見えない。
ちょっと犯罪組織っぽい考えをするなら、子供をさらって、教育して、優秀な手駒に、という所だろうか?
しかし、そんな事を企むならちょっとスラムに行けば、騒がれる事なく子供をスカウト出来るだろう。わざわざ危険を冒す意味がない。
そんな言葉に困ったような顔で自称雑用冒険者は言った。
「……推測も混じってんだけどさ」
「うん」
「腹立つような話でもあるんだけどさ」
「うん」「はい」
「人の一部の貴族とか金持ちが、そうした子供を愛玩動物扱いして飼うのが流行ってるらしいんだ……無論、裏で、なんだが」
「「!!!!」」
何故、魔物の子供を?
その理由は簡単だ。
魔物の子、と言えど、ツインテールキャットのような愛らしい外見の魔物もいる。他にもあるコボルト系の種族は大人になっても小柄で、ふんわりとした愛らしい外見を持つという。
「で、重要な点だが、魔物は人に知能で負けてる訳じゃない。……つまり、だ」
魔物の中でも選び抜けば、人の言葉を理解し、人と会話を交わせる愛玩動物が出来上がる……。
大きくなって可愛くなくなった魔物は?
既に家族のように一員となっていればともかく、調教中の間にそうなってしまったら……殺処分。
「そんな……っ!」
「えっ、じゃあ猫さんの子供も」
「そうなった可能性があるんだよねえ……だからまあ、俺みたいな雑用専門の奴まで駆り出されてる訳ね」
などと言ってはいるが、実際はそう簡単になれはしない。
冒険者ギルドはこうした捜査官に相当する雑用冒険者を何年もかけて見極めた上でスカウトしたり、怪我で引退する際に話を持って行ったりする訳だが、もちろん、そんな事は口にしない。
「あ、念の為に言っとくけどさ」
当り前だが、人の国でも違法である。魔物の国と交易してる国なんかにとっては血の気が引きそうな話だ。
しかし、世の中には違法だからこそやってみたい、興味がある、なんて奴がいるのもまた事実。
そこに意思が通じて、会話も可能なペット、という要素が加わって、そんな事が起きているという訳だ。
「もちろん、単に迷子になっちゃっただけ、って可能性もあるけどさ。万が一の事もあるから協力してくんない?」
「するよ!!」
『ラティスが望むなら私はそれに従うまでです』
幸い、今回はギルド依頼なので、金の問題はない。
かくて、ラティス達の迷子捜索は、重大な案件へと舵を切ったのだった。
ただし、子猫ちゃんが本当にさらわれたとは一言も言ってない