獲物確定のお話
今年最後の投稿になります
よいお年を
超大型の雄鶏。
「……雌鶏タイプもいるのかな?」
『そういえば、番がいるはずですよね?』
しばらく探すとそれらしき姿が見つかった。
事前情報通り、ペアと思しき雄鶏と常に一緒に動いている。
「おし、あれは外すからな」
ラティスとツァルトも黙って頷いた。
番を攻撃すると二体同時に相手どる事になって危険、というのもあるが、ここが牧場である以上、ある程度の数を維持しないといけない。
そして、番、というのは卵を産んで、その維持を助けてくれる存在だ。だから、ここで仕事をする際は番を狙うのは厳禁だ。ここで狩りをする場合は、ギルドに決して安くない許可料(ちなみに基本依頼人が出す)を払っているんだが、番を狙った事がばれたら更に多額の罰金を払わないといけない。そして、その罰金に関しては冒険者が支払わないといけないから、間違えないようにしないといけない。
ちなみに、牧場ではない野良のコカトリスを狙う場合は、その限りじゃない。
「あんまり大きすぎるのも拙いよね?」
「そだな」
肉の美味さを狙うなら大きい方がいいんだけどな。
当然、大きい奴は強い。
今回の場合は肉の美味さを狙うんじゃなく、単純に肝、それも一人分があればいい。つまり、サイズは問わない。それなら、討伐が簡単な奴を狙った方がいい。
「ウサギさん、あれなんかどうかな?」
そう言ってラティスが指差した先を見て……。
「いいんじゃないかな?」
『よろしいかと思われます』
サイズ的には四メートル程度。
一番の小型という訳ではないが、それより小柄なのはほぼ番の雌鶏だ。つまり、雄鶏より雌鶏の方が小さい。
それに対してラティスが指差したのは明らかに雄鶏だった。
つまり、雄鶏としては小柄な部類だという事だ。
さて、そこからは根競べでもあった。
コカトリス達はここに塒を構えている訳ではない。さすがに水場と餌場の真っ只中で寝る趣味はないようだ。
したがって、彼らは寝る時は塒に帰る。
そこを狙えば、一匹だけ狩れる訳だ。
さっさと狙えばいいじゃないか、と思うかもしれないが、そんな事をしたら、最悪餌場にいる全部のコカトリスが「自分に攻撃された」と錯覚して攻撃を仕掛けてくる可能性がある。
逃げだしたら逃げ出したで、こちらの最悪は牧場の崩壊だ。そんな事になったら冒険者の側としても最悪だ。罰金というか弁償金が幾らになるか考えたくもない。
したがって、彼らが帰るまで、最低でも一匹になるまで待たないといけないんだが……。
「……暇だな」
「暇だね」
現在、俺はラティスの膝に乗って、ブラッシングされている。
監視はこうした時、暇だとか気が散るとかいった事で見失ったりしないツァルトが引き受けてくれている。ツァルトならば場合によっては空に目を飛ばす事で上空からの監視も可能だという強みがある。
しかし、そんな監視を行ったとしてもコカトリスを強制的に動かす事は出来ない。
結果、コカトリスが帰ろうとするまで延々待ち続ける事になる。そして、それは一時間や二時間では効かない。しかも、幾ら相手が大人しいとはいえ魔獣は魔獣で、魔精の森は魔精の森。「動きがあったら教えて」と寝たりする訳にはいかない。同様に、本を読んだりしてる訳にもいかない。
何かあった時に備えて、常にすぐ動けるようにしておかないといけないからだ。
結局、ここに到着したのは昼過ぎだったが、狙いのコカトリスが塒に向かって動き出したのは夕方になってからだった。
もっとも、他のコカトリスも似たり寄ったりなので、別に狙った奴が特に遅かったという訳ではない。
「待つのって疲れるね……」
「まあなあ」
ラティスはこの中では一番幼く、またツァルトのような人造生物でもない為、「休んでてもいいぞ?」とは言ったんだが、「仕事だから!」と頑張って、耐えてた。
いやあ、本当に「何もせず、何かする事も出来ずにただ待ち続ける」時ってめっちゃ長く感じるし、辛いんだよな……。
とはいえ、こればかりは討伐や狩猟の冒険者として生きていくなら慣れるしかない。
「さて、見失わないよう、けど気をつけてな」
さて、奴の塒はどこかなーと。
明日も投稿予定です