処理破綻のお話
「奴の限界を超えさせるのね!」
それを聞いた探索パーティ側の魔術師の動きは早かった。
素早く魔法を構築し――。
「【鏡映しの虚像】」
そう唱えた瞬間、全員の横にもう一人の自分が……。
「おお!?なんじゃこりゃ!?」
「幻ですよ。鏡に映したみたいに、本体と反対の動きをします。右手を上げたら左手を上げる、といった具合にね」
……なるほど。
「まあ、こいつが視覚以外の感知能力を持っていれば効果はありませんが……そちらを起動させるのにも負担がかかるでしょうね」
ああ、効果なけりゃないでいいんか。
何というか……このパーティが使う魔法や戦法って生き残る事、狙った効果はなくても副次効果を狙うとかそういうもんが多いな。
いや、だからこそ生き残ってきたんか?
(ま、今はいいか)
ただ、こういうのが必要だとしたら、遺跡に俺らが潜る必要が出た時は腕の良い探索パーティが必要になるかもなあ……。
ラティスに、ツァルトが忠誠を誓ったように、ラティスが狙われた理由って古代文明に何か関わりありそうだしな。
そう思いつつも体は動く。
おお、本当に幻、俺とは鏡映しに動いてる。
そして、キメラは……完全に硬直してるな、本体は。
触手もてんでデタラメに動いてる。幻と本体に分かれた事で処理能力が遂に限界を迎えたか。まあ、確かにこの場所ってそんな十人以上が動き回るのを想定してるような場所じゃないし、盗人がそんな多数で押し寄せる事も想定してなかったのかも……。
本体の動きが停止して、触手はデタラメに動いている。
……ただし、危険性は決して下がってる訳じゃない。
(油断はしちゃいかん)
そう思いつつ、空へと跳ねる。
触手はバラバラに動いているが、それは逆に言えば動きが読めないという事。
おまけに、魔法まで時折ばら撒いているせいで余計に危険だ。
……地上にいれば。
こいつは元々、警備用で逃げる奴を追いかけて殺すまで殺意は高い代物じゃない。或いはそこまで殺意が高い奴を置く事が禁止されていたって可能性もある。事故で発動した際に、殺すべきではない相手を殺してしまう危険性とか色々あるんだろう。
元の世界だって暴徒鎮圧用に、と色々非殺傷性とか言いつつ、結構な危険物があったしな。
いずれにせよ、元より空に舞う相手に対しては色々と制限がかかっていたんだろう。
こうした部分を洗い出し、倒せそうか、そうでないかを見極める。それが彼らの戦いであり、生き延びる方法か!
(見えた!!!)
処理速度が限界を超えたせいで、元から手を出す事に大きな制限がかかっていた空中に関しては完全にノーマーク!
あるいは暴走状態に陥った時はとにかく空中に逃げればいいようになっていたのかも……。
【首狩り】
斬!
一気に空中から襲撃し、その首を叩き落とす。
無論、油断なんかせず、そのまま跳ね上がるように空中へと戻る。触手同様再生する可能性だってある。
……が、どうやら杞憂だった様子。
だらり、と触手が力なく垂れさがると、そのまま浮遊していた胴体部分も地面へと崩れ落ちた。
(複数回の戦闘と、あのバカの戦いを実際に見て、敵の情報を洗い出す事でここまで戦いやすくなるか)
こいつは俺達の戦いにも何かしら取り入れられないか考えた方がいいかもなあ。
という訳で、処理能力が限界を迎えた結果、首を落とされました
もちろん、もっと高性能なものも存在していますし、そっちだと処理能力が同時に百を超えて捕捉、攻撃する事も可能です