性能のお話
「いきます!【火炎槍】!」
続けてラティスから攻撃魔法が放たれた。
今回、ラティスと探索パーティ側の魔術師さんは役割を分けてる。というか、分けて問題ないとも言う。
ラティスは基本、攻撃特化型の魔術師だ。攻撃魔法は多彩だが、支援系の魔法はまだまだで、現在勉強中といった所だ。
逆に、探索パーティ側の魔術師さんは支援特化型と言ってもいい魔術師だ。
もちろん、攻撃魔法も使えるが拘束や移動、幻惑、支援といった魔法の方が圧倒的に得意だ。
これも探索の特徴だそうだ。
勝てないと判断して逃げるには状況や相手に応じて、相手を拘束したり、幻で惑わせたり、空を飛んだり壁を走ったりして逃げる。戦闘時は下手に効かない可能性のある魔法を使うよりも確実に効果を発揮する味方にかける魔法を選択する。
もちろん、多少は攻撃魔法も覚えてるらしいんだが……場所によっては使えない事も多いらしい。
俺だったら小さいからラティスは射線確保しやすいけど、体でかかったら、そうもいかないもんな。特に通路みたいな場所だと絶対仲間が前にいるし。
それはそうとして……。
「あんまし焼けてないな?」
魚なんだから焼き魚になるんじゃ?と思ったんだけど、さすがにそう甘くはなかったか。
「これで終わってくれりゃ楽だったんだがな!」
盾役がしっかり味方の魔術師らを守る。
触手が伸び切った瞬間を狙って!
【腕堕とし】
ぼとっと。
触手落ちた。
そして、生えた。
「意味ねえ……」
「それはまだ分かりません、続けてどうぞ!!」
ガックリしかけるが、リーダーからは続行を指示。
今回は俺はあくまで雇われ冒険者で、今回の臨時チームのリーダーはあっちだから素直に従っとく。こういう場所の敵に関する知識は圧倒的にあっちが豊富だしな。何かしら考えがあるんだろう。
結果から言えば、触手は割かし落としやすかった。
……すぐ再生すんだけどさ。
そう思ってたんだが、しばらくしてリーダーが呟いた。
「ふむ……やはり予想通りですね」
「何がだ?」
「触手を切り落としてもらいましたが、本体と思われる魚部分が先程から全く移動していません」
……そういえば、中央に居座ったまんまだな。
触手の届かない位置に移動して、こうして会話してるんだが、何かを警戒してるかのように動かない。
「おそらく、いえ間違いなく対応の余裕がなくなって、本体を動かす余裕すらなくなってきてるんです」
……話聞いてて分かった。要は中に積んだコンピュータが全部同時に処理出来るほど性能が良くないんだな。正確にはあれもこれもと欲張りすぎて、同時に処理可能なレベルを超えたというか……。
多分、触手をもっと減らすとか、見た目だけじゃないの?と思うような魚部分の細かな演出っぽい動きとか、余計な部分を削ればもっと強かったんじゃないか?
ツァルトは分離合体機能を有し、分離時はそれぞれが個別に動くけど、それで動きに支障を来したりはしない。上空から頭部が牽制しながら、左右の腕が異なる動きをしつつも同時にターゲットを捕捉し、脚部が足を払いに来る、といった攻撃を同時に処理可能なだけの高性能な処理装置を搭載してるからだ。
しかし、奴は十本の触手を制御し、魔法を発射し、胴体部分の空中移動に、複数のターゲットの捕捉に更に胴体部分にはギミックというのかな?どう見ても、あれは単なる演出だろう、ってのが行われてる。何で空中に浮かぶ包丁が魚の身を切って、調理して、それを出てきた人形が食べてまた収納されて再生なんてのが必要なんだよ。
そんな余計な機能まで組み込んでるせいで、こうして七名と五体という大所帯で対応した時、対応しきれなくなってきてる。そう、途中からツァルトへも分離の指示が出されて、今は分離して攻撃を行ってる。
さっきのバカは一人だったから問題なかった。
探索パーティは五人だったが、そこまでならまだ対応出来た上、そもそも彼らが手強いと見たら即撤退したからボロが出なかった。しかし、今は……。
……ケチったかな?
ま、いいか。だとしても俺らにはありがたい話だ。
「だとしたら、いよいよ、かな?」
「ええ、終わりにしましょう」
どんなにお高い機能搭載しても、肝心の中央演算装置がヘボだったら活かせないよね