指導するお話2
「どうにも癖になっちまってるな」
「下手にまとめて討伐依頼受けたりしなくて良かった……」
「同感」
やっと目標とする相手を討伐出来て、探索パーティは口々にどこか疲れた様子でそう言った。
「いや、助かりました。さっきも危なかったですからね……」
リーダーの言葉に全員が頷いた。
起きた事自体は簡単だ。
またしても、ちょっと手こずった事でつい逃げかけて、いや、今は違うだろ!と戻りかけて……体と頭が別々に動いてしまった為に大きな隙が出来た。それもパーティ全員が!
なんで、俺が介入した。
さすがにそこまでやると、連中も何とか仕留められたんだが。
「討伐はやめといた方が良くないか?」
「ですねえ~……」
「うん、俺らの得意分野崩しかねないよな、これだと」
俺の提案すんなり了承。ちゃんと理解してくれてるようで何より。
探索もだけど、それぞれにはそれぞれの確立してきたスタイル、って奴がある。俺達の場合だと最近は俺が近接で攪乱、ツァルトがそれを支援しつつラティスを守り、ラティスが大技を入れる。無論、場合によっては俺がすぱっと決めたりもする。
で、今回の探索パーティの場合は「いのちだいじに」って奴だ。
ところが討伐って奴は基本的に「ガンガンいこうぜ!」になっちまう。
何故かって?慎重にいくと、大体逃げられちまうからさ。今回の探索パーティが正に魔獣のパターンって奴で、魔獣はあくまで生存か、或いはシャドウウルフの特性みたいに、あいつらの本能の為に襲撃を行う。当然だけど、「思ったより手強い」となるとさっさと逃走を図る訳だよ。
……で、逃げられたらどうなるか?
大体は「いつも行ってる所でたっぷり食おう」といった事になって……依頼人が被害を受けたりすんだよね。だから、発見したら極力一気に仕留める!って形になる。
反面、持久戦みたいな形になると苦手とする連中も多い。短期決戦で一気に大火力を叩き込むのがスタイルなんだし。
逆に、そうした持久戦みたいな形を得意とするのが護衛の連中や、一部の探索の連中だ。
護衛の連中は自分達より数が多い敵と戦う事がよくある。そりゃまあ、盗賊だってよほど腕が良くなけりゃ、一対一なんかやらんよね。突出した戦力がないから数で勝負になる。その数を後方の商人とかに向けて通さないようにするには、圧倒的な実力差がない限り、どうしても無理のない時間のかかる戦いになる。
で、探索の方はもっと簡単。
出くわす奴が基本、古代文明の遺産であり、相手がどんな奴とか情報がない事も多いんだよね。
だから、最初からガンガン行く奴は長生きしない。なにせ、もしかしたら古代の戦闘兵器!なんて事もある上、場所によっては後から後から詰め所相当の場所から戦闘機械が出てきて……なんて事もあるそうな。だからまずはお試しで戦闘して、無理そうなら逃走。
何せ、大抵は強力な奴は追ってこない。大抵はどこかを守る為に作られてるから。金庫を守る為に設置されてるのに、侵入者を倒す為に金庫を放り出してどこかに行っちゃったら本末転倒って訳だ。
「だから、私達のやり方はむしろ探索者としては一般的なんですけどね」
「討伐とは相性悪すぎたなあ~」
とはいえ……。
「お前さん達……さすがにびびりすぎじゃねえのか?っていうか、討伐しないといけないって事は戦闘力上げたいんじゃねえの?」
そう聞くと困ったように顔を見合わせた。
「そうなんですよね……実は」
と、リーダーが話してくれたんだが……何の事はない。門番に手こずっているんだという。
門番、というのはそいつを倒さないと特定の場所に入れない、って奴だ。
という訳で、そいつを倒す為に「戦闘の実力を高めよう!」って事らしいんだが……。
「いや、無理じゃね?」
「無理だと思う」
『無理ですね』
俺ら全員がそう言ってしまった訳だけど、彼らも反論はしなかった。理由はさっき言った通り、彼らのスタイルを根本から変えないといけないからだ。
だって、戦闘力自体は十分持ってるんだよ、遺跡で何度も戦闘繰り広げながら生き延びて、探索を成功させてきてるんだから。
今回の相手だって、苦戦はしても十分倒せるレベル、だったのに、ちょっと苦戦しだしたら即撤退を開始しちゃったからな……。これを矯正した結果、今度は肝心の探索で死んじゃった、とかになったら目覚めが悪いとしか言いようがない。
「そうなんですよねえ……ですので」
「?」
「逆に考えましょう!私達が慣れるのではなく、皆さん私達の探索に同行していただけませんか?」
え?ええっ!?
指導するはずだったのに、何故かされる方へのご招待?