討伐のお話、その三
ラビットドラゴンの片脚が落とされた。
いや、落とした。
普通なら、それで動きが止まるはずだ。突然、片脚が奪われたら、慣れるまではどうにもならない。バランスの大きな崩れは戦闘に大きな支障を生む、はずだった。
「これは予想外だったんだが」
「それ自体は賛成だ」
いやまさか、足落とした途端、転がりだすなんて想像できる訳ないじゃんか!
ただし……。
「とにかく、このままにしとく訳には!」
「当り前だろ!つか、手負いで逃がすとかありえんからな!?」
そう、奴は足を落とされるなり転がって、全力で逃げ出しやがったのだ。
ただし、これ間違ってるとは言えない。
この状態で戦うよりは体力的に余裕がある内にさっさと逃走を図るのは、むしろ理に適ってる。
そして、こっちがそれを許す訳にはいかないのもまた事実だ。
「奴の進行方向にさっきみたいなの作れないのかよ!」
「無理に決まってんだろ!?奴の転がり方不規則すぎんだよ!!」
それも厄介なんだよな!
真っ直ぐ転がっていくなら、転がる先を予測してさっきみたいに氷の板を出現させる事で足止めが出来る可能性はある。
けど、奴も慣れてないんだろうな、転がったまま、あっちへこっちへと進路は安定しない。更に森の中って事もあって、度々、木にぶち当たって進路が変わる。
こうなると予想なんか立てれる訳がない。
となれば、進路上に何かしら妨害する物を置くって手も使えない訳だ。
いや、待てよ……。
「……あいつ、前が見えてると思うか?」
「はあ?んな訳ねえだろ……あっ」
そう、あの状態で前が見えてる訳がない。それは同じウサギの俺が確信を持って保証する。
そして、あの状態で長時間転がる事が出来るとなると……余り触感もないんだろうな、きっと。
俺があんな転がり方をしてたら、体中が痛くなってすぐに音を上げる自信がある。
「誘導するしかねえだろ」
「それしかないな。おい、良さそうな場所探してこい」
「おう」
空間魔法で空に跳ね上がる事が出来る俺の仕事だな、それは。
そう判断して、そのまま上空へと駆け上がっていく。
……早くしないと奥へと進めば、出てくる魔獣の危険性も増していく。そうなったら、取り逃がす可能性が高まっちまう。
もっとも、上空に駆け上がれば、良さそうな場所が二ヶ所見えた。
(谷間と崖……)
落ちながら、考える。どちらがいい?
(谷間……駄目だな。下、河だし。落ちてラビットドラゴンが死ぬとは限らない)
生き残っていたなら、河に流される。
そうなったら、こっちが追跡するなんて無理だろう。河で匂いが途切れるから、フェンリルも追えそうにない。
かといって、落ちた時か流されてる時に奴がくたばる事を期待するなんて出来る訳がない。死体を確実に確保しないと拙い。
(じゃあ、選択は一つしかないな)
崖だ。
崖に追い込んで、一時停止した所を仕留める。
左右には広がっているが、左右どちらかに転がっていくだけなら進路の選択肢は大幅に狭まる。
「ただいま!」
「いいとこあったか?」
「谷間と崖があったけど、確実性なら崖がいいだろな。谷間だと下が河だし」
「分かった」
方向を示すなり、フェンリルが氷の壁を作って進路の修正を開始した。
こちらも空間魔法で進路をずらす手伝いをする。
僅かずつ、けど確実に奴の進路が変わりだした。
まあ、魔獣は野獣でもあるので、怪我したらさっさと逃げる