ウサギ(?)討伐のお話
ウサギである。
間違いなく『見た目だけは』ウサギである。
だが、象をも上回る巨体がウサギの跳躍力で跳びはねて襲ってくるというのは如何なものか?
「なんちゅう面倒な敵だよ!!」
「それにはまったくもって同感だ!!」
ラビットドラゴン。
その強さからドラゴンの名を与えられたこいつは実際、ワイバーンなどと同様一応竜種の端くれらしい。……アド爺さん辺りが聞いたら絶対否定するとは思うが、だからといってこいつが俺と同じウサギだなんて断じて認めたくない。
巨体が跳ねると二重の意味で衝撃が走る。
あれだけの巨体を跳ね上げる時点で地面が揺れ、着地でまた地面が揺れる。
おまけに厄介極まりない事に奴は土系統の魔法を使う。
要は、「あんだけの巨体、地盤が緩い所に誘い込めば!」なんて事が通用しない。誘い込んで、地面に埋まったとしても無視してそのまんま跳ねる。跳ねる事が出来てしまう。だとすれば、手間をかけるだけ無駄な努力というもんだ。
そして、ドラゴンという以上……。
きゅおおおおおおおおん!!!
「ブレス、強烈すぎねえ!?」
「はっはっは、笑うしかないな、これは」
ブレスを吐くのは想定内だった。
けど、威力は想定外だった。
ごっそり森の一部が消えたぞ……!
「こんなんが本当に逃げて来たとしたら、奥地に一体何がいるってんだ?」
「まったくもって同感だな」
本当はもう一つの可能性も疑ってんだけど、言いづらいんだよなあ……。何かに招き寄せられた可能性って。
そうなると、どうしたってラティスやツァルトに目が向きかねない。そして、可能性がゼロとは到底言えない事にこの問題の厄介な点があるんだよな。相手が言葉をしゃべれない魔獣だから、関係ないと証明する事も難しいし……。
でもって、俺が考え付くような事、絶対他にも考え付いてる奴いるよな。
もしかしたら、今回の昇格試験も、それらを前提にしたギルドマスターの好意って可能性もある。
きゅー!!
っていかん!今はそんな事考えてる余裕はねえな!
ズドン!と。
そんな轟音すら立てて、奴が突っ込んでくる!
あれだけの巨体を上空にまで跳ね上げる脚力を前進に使えば、正に砲弾の如し。
しかも、頑強な鱗とその上を覆い隠す体毛、二つは剛と柔、双方を併せ持つ形での装甲はこちらの攻撃を予想以上に柔らかく、そして頑強に防ぐ。打撃が柔らかく受け止められ、装甲を砕くだけの威力が出ない。斬撃は毛によって絡めとられ、やはり鱗を切り裂くだけの威力が出ない。
唯一例外とも言えるのが突きだ。ただし、これにも問題があった。
「氷の槍以外に何かねえのかよ!?」
「うるせえ!そっちにゃ突き自体ねえだろうが!!」
という事だ。
(スキルに頼るにしても……)
フェンリルがどんなスキルを持っているか分からない。
当然、相手もこっちがどんなスキルを持っているか分からないだろう。
では、こちらの【首狩り】を行えば勝てるのか?
勝てるだろう。こちらは腕はウサギらしく短い。首に届きさえすれば落とせる自信はある。
問題はそれが可能かどうかだ。巨大なウサギが縦横無尽に跳びはねている。それに肉薄して、一撃を当てるというのは……難しい。
こちらの世界に来て、最初出くわしたのが群れや特殊能力としてはともかく、個々の能力では突出した所の少ないシャドウウルフだった事は幸いだったんだろう。もし、このラビットドラゴンに最初に出くわしていたら、アド爺さんに出会う前に殺されてたという確信がある。
狙うには足止めしてもらわないと無理だ。
こいつは戦闘力以前、機動力の問題だと言ってもいい。
同じ機動力を持っていても、こっちとあちらの体格が最終的な機動力に圧倒的な差を生む。人の一歩と、蟻の一歩では同じ一歩でも大きな差が出るように!
「おい!手貸せ!」
「何をだ!!」
それでもやるしかない。
フェンリルと協力して。
(次が有ったら、もっと互いのスキル理解しないといかんなあ……)
もしかしたら、俺だけじゃなく、フェンリルにも同じ事を学ばせるつもりで組ませたのかも、なんて思ってしまったよ。
見た目はウサギ
中身はドラゴン
そんな化け物です
空こそ飛びませんが、思い切り跳びはねます