戦闘のお話その1
バーサークコング、その強さの根源はシンプルだ。
すなわち、その恵まれた肉体。
一方、首狩り兎の強さの根源はトリッキー。
すなわち、その豊富なスキル。
バーサークコングは魔法を使えると言っても初歩の魔法に留まる。先程見せた【樹呪槍】も地系魔法の下位に属する。周囲の樹木を槍とし、その槍に植物由来の毒をまとわせる。それによって槍の貫通攻撃と、毒による二段攻撃を行うというのがあの魔法だが、下位だけあって弱点も多々ある。
まず、周囲に樹木、それもある程度以上大きく育った木が不可欠である事、更に槍の強度は樹木のそれと変わらない事。
この為、鎖帷子を服の下に着こんでいたので助かった、という話もあるし、そもそも魔物の体は見た目以上に頑丈だ。
(多分、俺の体にも通じなかった、とは思うんだが、さすがに試す気にゃなれねえしなあ)
さっきの魔法が消えた事で、奴も警戒したみたいだ。
そして、警戒すれば魔法なんていう奴にとっての玩具じゃなく、本来の武器を用いてくるはず。
そんな予想はやっぱし当たった。
ぐるるる……
低く唸りながら、奴が腰に手を回し取り出したのは棍棒。
ただし、相手のサイズがサイズだからなあ……やっぱしデカいわ、武器も。人サイズなら冗談抜きで「あれは棍棒じゃねえ、丸太だ!」と言うだろうな。元々、奴らの手のサイズ自体が人より大型な事もあって、奴の棍棒は太さも長さも人が到底扱えるレベルじゃない。
あんなもんをバーサークコングの怪力で振り回されたら……まあ、そんじょそこらの連中じゃ剣とか武器で受け止めてもそのままぶっ飛ばされるのがオチだよなあ。
下手すりゃそのまま武器や盾ごと叩き潰されて、ミンチになっちまう。
で、俺だけど……死なずには済むかもしれねえけど、間違いなく「持ちこたえる」事は出来ねえな。
というか、全高五メートルを超え、六メートルに迫る巨体の奴が丸太振り回して殴ってきた時、普通のウサギさんがそれをガッチリ受け止める!なんて出来る訳ないでしょうよ、物理的に。
「よっ!!」
があああああああっ!!
けど、それは奴にとっても同じ事。
苛立った声を上げてるが、奴のサイズで俺を狙うのは難しい。
普通の人でもウサギを捕まえようとすれば屈まないといけないし、大変だろう。そして、サイズがでかくなればなるほど、小さなすばしっこい相手を捕まえるのは難しくなる。
そう、ぶんぶん棍棒振り回したって俺はその下を行ける。
そうなると棍棒で俺をどうこうしようとするなら、上から振り下ろすぐらいしか方法はない。
かといって、拳で殴りつけるには体を屈めないとならず、腕を防御に使えなくなる。
(後は足での踏みつけか?)
素早く動き、攪乱。
足が下りた瞬間を見計らって、その足へと攻撃を仕掛ける。足を下したって事はその足に体重がかかっている。当然だが体重がかかった足はすぐには動かせない。
それを続けていけば、自然と、バーサークコングの動きは荒くなっていった。
当然だな。
こんな小さな奴にちょろちょろされて、小さくても傷を負わされ続けてるんだ。イライラして当然だ。
そうして、その瞬間は来た。
があああああああああああっ!!!
一際大きな咆哮をバーサークコングが上げた次の瞬間だった。
両手で棍棒を握り、地面を削るようにして振り回してきた!なるほど、地面ごと吹っ飛ばしにかかったか!けど、そいつを待ってた!!
全力で振られる棍棒を空に蹴りあがって回避する。
全力での大振りで半ば背中が見えているバーサークコングは両手で棍棒を握っている為に腕は防御に使えない。
足も全力での大振りの為にこちらに向けた足に全体重がかかっていて動かない。
……首、見えたぞ。
そうして、空中を蹴って、動こうとした瞬間。
パン!
と、俺は鋭い音と共に強い衝撃を受けて、空中に跳ね飛ばされた。
え?
いたい。
なにが。
混乱する中、くるくると回転する俺の目にバーサークコングがニヤリと嗤ったのが見えた。そして。
(……あ)
そうだよ、奴は猿じゃねえか。
なら当然あるよな。
そんな事に気づかなかった俺自身のバカさ加減に呆れる。
俺を弾いたのは奴の尻尾だった。
イライラしつつも、奴は冷静だった。焦ったのは俺の方。
奴はわざと隙を見せて、尻尾で俺を殴りつけた。これまで奴が尻尾で攻撃してこなかったせいで俺は、奴に尻尾があるって事自体頭から飛んでた。
そうして、勢いのまま一回転したバーサークコングはその勢いのまま空中にある俺を狙って、棍棒を――。
猿には第三の腕って言われるぐらい器用に動く尻尾あるよね!ってお話
さて、ビットの運命やいかに!