歴史の一つ
『よせよせ、人でもあるまいに』
こういう場合、口調とか改めるべきかな?と思って言ったんだが、即効否定された。
『ふむ、そこら辺も知らんみたいじゃな。少し長くなるが説明してやろう。知らんと後々ややこしい事態になるしのう』
「頼む!」
ややこしい事態になると聞いて即手を上げて答えた。
そして、聞いた話は確かに知らなかったらややこしい事になる事間違いなしな話だった。
『昔、まだ魔物が国とか持っておらず、自由に生きておった頃の話からになるが』
当時、既に人族は国を作っていた訳だが、王だから、貴族だからと魔物に対して上から目線の者が多かった。
で、国が出来たら出来たでな?
我が国は三百年の歴史を誇る~などと言われてもなあ……。
わしもそうじゃが、総じて強力な魔物というのは寿命も長い。連中が多少歴史を誇った所でな?魔物の側からすれば「三百年?俺が生まれたのはその前だ!」なんてのが普通におった訳じゃよ。別に魔物達は長く生きた事を威張るつもりなんぞなかったが、相手がそんな事を威張るもんじゃからなあ。
で、やっぱり上から目線は変わらず。
結果、頭に来た国の上層部を務めておった、当時の強大な魔物達がこう命じた訳じゃ。
「人の真似をして敬語なんぞ使うな!!普段通りの言葉遣いで十分!!」
で、さっき言ったように強い魔物は寿命が長いからそうした命令をした連中が数百年ずっと君臨しとったもんじゃから……今では魔物の国では相手によって言葉のみならず態度全般を変えるのはむしろ相手に対する侮辱とされるようになったんじゃよ。
故に、例え王侯貴族が相手でも普段着に、普段通りの口調なのが礼儀とされておる。
「ええっと、それってつまり……魔物の王様とか貴族に普通の農民が作業着で『よう、陛下、今年は麦が豊作だぜ!』とかやってもいいって事?」
『むしろ、「これは陛下、今年も陛下のご威光のおかげで麦が豊作でございます」とやった方が無礼だとされるのう』
じゃから、お前さんも口調は改める必要はないぞ。
そう続けてくれた訳だが、確かにこら重要だな。知らなけりゃ、つい偉い立場の人には敬語使った方がいいだなんて思っちまうし。
『勘違いしてはいかんのは、普段通りの口調や態度で、という点じゃな』
つまり、普段から誰に対しても丁寧な口調の場合はそれでいい、乱暴な口調を使うのが礼儀じゃない、って事か?
『その通りじゃ。じゃから例えば……』
領主がやってきた時、嫌われ者の貴族相手に丁寧な口調で語りかけてもな?それが「普段の口調です」と言われたら、何も言えんのじゃよ。
……まあ、普通はやらんがな。下手に後で「普段使いの言葉じゃない」とばれたりしたら、余計酷い事になるのが目に見えておるからの。
と、言われてみりゃ、確かに、としか言いようがない。
「けど、普段から丁寧な口調や態度の奴って魔物にいるのか?」
ちょっと疑問に思った。
そんなのが当り前ってどんな連中なんだろ?
『ああ、案外おるぞ?基本、仕事の付き合いで人の国と関係する連中じゃな』
商人とか外交に携わる者とか。
そういう連中は家の方針として小さい頃からみっちり仕込まれるのだという。そうしないと重要な付き合いの場でふと乱暴な口調が出たりしかねない。魔物の王なら「よう、久しぶりだな!元気にやってるか」なんて言っても平気だが、人の国でそんな事を王様相手にやらかしたらそれこそ一大事だ。
商売にしても同じ。
今は魔物の国の中だけで商売してるような人でも将来を考えて、子供の口調は丁寧なものにさせている商人だっている。
『だから、基本丁寧な口調の魔物がおればそやつは商売人か役人じゃと言われておるよ』
なるほどねえ。
仕事に必須って事かあ。でも、そうなると新規参入は難しいんだろうな。
魔物の国と人の国、交流は限定的なものなのかもしれない。
という訳で、魔物世界では基本、口調は丁寧語でなくても大丈夫になってます