遭遇するお話
「どんな魔獣がいるんだろう?」
「分からん。分からんが、奥地の強力な魔獣だろうなあ……」
間違いないと言える事が幾つかある。
まず、強力な魔獣である事。
次に高機動か、群れで行動するかのいずれかの性質を持つと推測される事。
二番目は未帰還冒険者の数から推測されている。
これが狭い範囲での事なら、一匹か二匹程度と推測も出来る。
しかし、実際はかなりの広範囲に渡って未帰還者が出ている。となれば……可能性としては二つ。一つはそれだけの広範囲を動き回れるだけの機動力を持つ可能性、もう一つがそれなりの数が動いている可能性、その中でも一番最悪なのが群れで動く魔獣だ。
群れで動く魔獣を相手にする場合、無論こちらの利点もある。それは単独で動く魔獣よりも一体一体の力は劣る魔獣が圧倒的に多い事だ。
しかし、その利点を塗り潰して余りある程に群れの危険性による負の影響力の方が大きい。
「どっちの方がいいのかな?」
「高機動型と群れのどっちか、ってーならどっちも凄い面倒だ」
高機動型って奴は大抵の場合は空を飛ぶ。
当然だが、不利になったらそういう連中は空を飛んで逃げ出すに決まってる。その時、こちらより足が遅いなんて事はまずありえない。少なくとも、そんな事を期待する気にはなれん。
「けど、群れだとなあ……」
群れの場合はボスを倒せば相手は逃げる可能性が高い。
しかし、群れで襲い掛かってくるというのは当然ながらボスを狙うのは難しい。
何より……。
「こっちにいると姿を確認しながら攻撃してても、いつ他の方角から攻撃が飛んでくるかさえわかんねえからな」
群れな以上、どの魔獣も同じ。
当然、戦闘力も似たり寄ったり。
どれか一匹を集中してマークする、なんて事が出来ない。
「ま、今回はそういう意味ではまだ気が楽だけどな」
「逃げてもいい、んだっけ?」
『そうですね、今回の最大の目的は倒す事ではなく、相手がなにものかを知る事です』
はっきり言っちまうが、徘徊型の魔獣なら放置しておいた方がいいケースもある。
徘徊型の魔獣ってのは決まった縄張りを持たずにうろつく魔獣で、縄張りを持てない程に弱い魔獣か、それとも……純粋にそういう性質を持ち、それが出来る程に強いかだ。他の魔獣の縄張りに平然と侵入し、その干渉を払って出てくるにはそれなり以上の強さがいる。
そして、魔精の森で出てくる徘徊型の魔獣はいずれも物凄く強い。
反面、奴らは刺激しなければ短期間で別の場所へと移動する上、弱い魔物には関心が極めて薄い。冗談抜きで「俺より強い奴に会いに行く、ってか?」「修行でもしてんのか?」と言われる程だ。中には真っ向出くわしたが、フン、と鼻で哂って見向きもされなかった、なんて話まである。
下手に高ランク冒険者を動員して、そいつを討伐してもこちらも甚大な損害を被った、なんて事だってある。
「そういう意味では徘徊型が一番、双方にとって被害が少ないんだけど……」
『そのような相手なら、低ランク冒険者が軒並み未帰還などという事にならないのでは?』
ツァルトの指摘に頷く。
「それを考えると……来たかな?」
ぴく、と耳を動かす。
ツァルトは確かに高性能なゴーレムだが、全てにおいて完璧なものなんかない。どんだけ金をつぎ込もうが、サイズの関係上、合体変形機能なんかを組み込めば、何かしらにしわ寄せが行く。ツァルトの場合は知覚能力だ。
もちろん、平均的な機体のそれは大きく上回ってるし、人や一般的な魔物よりも鋭い。けど、俺には負ける。
「うげえ、これは……」
『群れの方ですか』
「お前もキャッチしたか」
そんな事を話してる間に、奴らが姿を現した。
木々の間から見える、その姿は……。
「厄介な、ロコモノだぞ、あれ」
本名より有名な通称はバーサーカーエイプ。
すなわち……。
「おし!あいつらが偵察してる内にさっさと逃げるぞ!!あんなん少数で相手してられっか!」
一旦戦闘に入ったら、こちらが全滅するか相手が全滅するまで止まらないとまで言われる厄介な相手だ。
本来の適正討伐ランクは単独ならDでも相手出来るが、群れとなると規模とボス次第だが最高でSランクまで跳ね上がる。
今はまだ、相手も偵察だからこっちから手を出さねば、すぐには襲い掛かってこない、はず……なんかあったら即効襲い掛かってくる凶暴性でも有名だけどさ。
さて
無事、撤退なんかできるんでしょうか?皆さんはどっちだと思いますか?
1、何とか撤退して、動員可能な冒険者による大規模戦
2、偵察部隊だけ倒してさっさと逃げ出す
3、現実は非情である。世の中、そういう時に限って悪い事が起きる