契機
※前半部分が丸ごと抜けてましたので修正致しました
『ほほう、珍しい、首狩り兎ではないか』
「くびかりうさぎい?」
ここで俺は初めて自分の種族って奴を知った訳だが……見た目こそ厳つかったが、ドラゴンさんはいい人ならぬ、いい竜だった。
『……何を言うておるか分からん。念話で話さんか』
「ね、ねんわ?」
思わず聞き返すと、どうやら俺が念話を使えないのを察してくれたらしい。
『まったく念話も知らんとは……もしや、魔力視も使えんのか?』
「……すまん、知らん」
『念話と魔力視は魔物の基本じゃぞ、まったく……』
かくして、まず会話の前に念話を教わり、更に魔力視を習った。
幸い、というべきか教えてくれる声は理解出来る。そして、基本という通り、そう難しくはなかった。
「……これで大丈夫か?」
『うむ』
満足そうな声だった。
魔物の場合、体格とか、そもそも体の構造の問題で声を出す部分にどうしても差がある。ドラゴンさんが声を出せば、俺からは単なるでかい音にしか聞こえないだろうし、こっちは必死に説明してるつもりが俺の声はドラゴンさんには「きゅうきゅう」という鳴き声にしか聞こえなかったらしい。
そうした意味では魔物共通語とでもいうべきか。
そして、魔力視が必須とされる理由だが。
『魔力を持つから魔物、魔獣。簡単じゃろ?』
「確かに」
魔力を持つ相手を魔力視で見れば、どんなに相手が隠しても魔力を持っているかどうかぐらいは分かる。つまり、魔力視をする事で相手が単なる獣か、そうでないかを見極める訳かあ……魔物なら狩ったりしたら大問題になるし、魔獣を獣だと思って狩ろうとしたら悲惨な目に遭う。
人にとっても魔力視は必須だそうだ。
さて、こうして念話を無事覚えられた事で、やっと本格的に説明に入れる……。
『……ほう、なるほどな、狼に追われて、穴に落ちた先がここじゃったと』
「そうなんだよ」
『なるほどのう、おまえさんを追いかけてたのは魔獣のシャドウウルフじゃな』
魔獣は知恵を持たない獣、魔物は知恵ある生物。
魔獣が後々魔物になる事はなく、魔物が魔獣に堕ちる事もない。どうやら俺が一体殺しちまったが問題なかったようだ。一安心。
『見分け方は簡単での。魔獣は目が赤く輝くんじゃ』
「あー……そういえば……」
確かに奴らの目って赤く光ってた。
『しかし、念話も知らん、魔物と魔獣の区別もつかんとはおまえさんどこから来たんじゃ』
「あー……そうだな、信じられないかもしれないけど、聞いてもらえるか?」
『構わんよ、どのみち暇しておった所じゃ』
という訳で用意された食い物なんか摘まみながら説明してった。
「って言われてさ」
『ふむ、神を名乗る相手に、か……聞いた事がない話じゃのう』
少なくとも、この世界にそういう「異世界からやってきた」「別の世界から流れてきた」って奴の話はドラゴンさんでも見た事も聞いた事もないらしい。無論、ドラゴンさんがたまたま知らないだけ、って可能性もない訳じゃない、というのは当のドラゴンさんが言ってた事だけどな。
『しかし、そうなると……』
ドラゴンさん、何やら考え事してるけど、俺もこれからどうすっかなあ……いや、マジで。
幸い、念話を教えてもらったお陰で言葉が通じないなんて事はなくなったけど、それでもどこに行けばいいのかとか、この世界ってどんな世界なのか、とか何も知らんからなあ……ここを出たとして、どっちの方向に歩けばいいのかも分からねえし、そもそもどれが美味いとか、どれなら食っても大丈夫とかもわからねえし……。
改めて考えてみると、ほんとあの自称神、こっちの世界に放り出しただけでどうやって生きろってんだ?としか思えねえ。
『ふむ……ま、ここに落ちてきたのも何かの縁じゃ。おまえさんが良ければ、ざっとこの世界の事や魔法を教えてやろうか?』
「え!?いいのか!?」
『うむ、どうせ暇しておった隠居の身じゃからのう』
俺には凄いありがたい話だった。
無論、即効で「是非!」って叫んじゃったよ。
『そういや、おまえさん名前はあるのか?わしはアドウェルザという名前があるんじゃが』
「……うーん、前世って奴か?その時の名前はあったはずなんだが思い出せねえ」
案外不要なものとして削られちまったのかも。
そう思っちまうぐらい、綺麗さっぱり何も思い出せなかった。
『ふむ、まあ、おいおい何か思い出すかもしれんし、思い出せなんだら新しい名前でも考えてみるがよかろう』
「そうだなー……今のままだと、この世界の名前とか知らないから変な名前つけてもわかんねーし……」
かくして、俺とアドウェルザことアド爺さんとの共同生活は始まったのだった。
アド爺さんが四竜帝の一角、大地の竜帝なんて異名を持ってると知ったのは後の話だった。
ちなみにもう少し後の会話
「あの時は食われるかと思った」
「魔獣じゃあるまいに、そんな事せんわい」