お話しましょうの回
とりあえず、セレンさんの話を聞いて、その夜、こっちでも少女……ラティスと話をした。
「あーラティス、魔法使えるんだって?」
「うん!」
アイカさんのご飯は絶品だ。
さすがギルドで「飯の美味い人を」とお願いした時、真っ先に名前が挙がっただけの事はある。ただし、あくまで家庭料理の延長な人なので「豪華な料理を」というなら、また別の人になるらしい。
人気のある人なのでうまく依頼出来たのは幸運だった……たまたまこれまで長期契約を結んでたパーティが解散する事になって空いた所だったらしい。……ちなみに解散理由はギルドで聞いた所、パーティ内結婚による引退で、四人パーティが二組の家庭を持つそうな……。けど、あのパーティ、女性一人しかいなかったってアイカさんからは聞いたんだが。
……考えないようにしよう。
今、考えるべき事は別の事だ。
「その魔法、戦う事に使えるって知ってたか?」
「えっ」
驚いとる。
「あれで戦えたのっ!?」
「うん、ってか使った事なかったの?」
「あったんだけど……そっか、それで家を出てから、それまでは使っちゃダメって言われてたのに、時折OKになったんだ!」
あー……。
やっと解禁出来た訳か。
この様子だと、「なんで使っても大丈夫になったのか」は理解してるんだな。襲われたから、その時戦う為に、って。
けど、何でそれなら戦いに使える事を教えなかったのか、と思ったんだが、話してる内に分かってきた。
「じゃあ、森の中で樹木の怪物に襲われたら?」
「えっと、火の……」
「森の中って言ったろ?燃え移ったらどうするんだ?」
「あ!そっか、じゃあ……ええっと」
という具合。
つまり、使用する適切な魔法というのが咄嗟に出てこない。
こういう場合、下手に戦闘で使わせたら却って混乱を招いてしまったり、味方を巻き込んでしまったりしかねない。
しかも、どれを使えばいいのかと考え込んでしまうので、それぐらいなら下手に戦闘に使えると教えるよりは逃げに徹した方がいいと考えたのかもしれん。あるいは他の考えがあったのかもしれんけど、それはもう永遠に謎のままだ。
「なあ、ラティス」
「なに?」
「魔法、使えるようになったらどうしたい?」
言外に仇を取るとかしたいのか、と聞いてみる。
「……あのね、皆を殺した人達の事嫌いじゃあるの。けど……」
言葉を選びながら言った事はなるほど、と思わせるものだった。
まず、敵が誰か分からない。
直接の敵である暗殺者は俺があそこで殺しちゃったし、黒幕っぽい奴が出てきた時はラティスは気を失ってたから、奴の事を知らない。そうなると誰があんな事をしたのか、さっぱり分からん訳だ。
住んでた所に戻って、何かしら情報がないか探ろうにも、どこに住んでたかも分からない。
いやね、どっかの村らしき場所だとは覚えてるんだけど、村の住人は自分達の住んでる所をいちいち「ここは何々の村だよ」なんて言わないし、逃走中はほとんど馬車の中だったから外の景色とかを見てた訳でもないからどこをどう通ってきたのかも分からない。
どうも大きな街は避けたらしく、小さな同じような村には入った事はあったけど、そこで「ここはなんていう村ですか?」なんて聞く事もなかったし、大きな街は避けたから逃走経路近くにあった街の名前とかそもそも知らない。
そうなると、どこに住んでたか調べるも大変だ。
「だから相手が来る時を待つの。それまでは自分の力を磨く」
「うーん、まあ妥当か」
何というか、めっちゃ王道というかこれ以上ないぐらい確実な道を選んどる。
まあ、連中がまたやってこないとは限らんからな。
「なら、明日はギルドの訓練場で実際に体動かしてみるか」
「うん!」
俺の戦闘方法、基本は近接だからな。
ラティスが遠距離火力だったら案外、将来的に相棒になったりして。
なんて思いつつ、本日も抱き枕にされて寝る俺だった。
という訳で……
何気に女の子の名前、初登場!