家を借りる事にしたお話
「ところで、だな。あのお嬢ちゃんどうすんだ?」
「それなあ……当面は俺が引き取って面倒見ようかと思うんだけど、出来るか?」
ふむ、とギルドマスターが唸ったけど。
「身内というか少なくとも親身になってくれそうな奴全滅っぽいからな……かといって、ここで『はい、さよなら』ってのもどうにも寝覚めが悪い」
「ま、気持ちは分からんでもないな」
そもそも、それなら何で助けたんだ、って事になっちまいかねないし。
ちゃんと手に職を持ってるならどっか信頼出来る所、紹介してもらえばいいんだろうが、あの年でそれは期待出来ねえだろうし。
そうなると、出来る事なんて物乞いかそれとも……春を売るか、って事になっちまうだろう。スリみたいなのだって技術がいるんだ。最悪、ここで『サヨナラ』したら、翌朝遺体で発見されました、なんて事になるかもしれねえ。さすがにそう考えるとちょっとなあ……。
「ま、確かにな……かといって実績もなく、身元も不明な相手をギルド職員に採用なんて出来ねえ」
「乗りかかった船だ、この際、引き受けるさ」
ふーん、と呟いたギルドマスターだったが。
「なら、お前、家借りるか?」
なんて事を言ってきた。
「家?」
「おう、まあ、冒険者ってーのは基本は宿暮らしなんだが……ま、あれだ。うっかり出来ちまう、作っちまう、ってのはやっぱりあるもんでな?そういう時に、無責任に逃亡する奴もいるが、きっちり責任取るって奴も案外いる訳だ」
なるほど。
で、そういう時の為に普段から冒険者ギルドが家を幾つか保有していると。
「……なんか随分と親切なんだな、ギルド」
「あー……ここは実質、冒険者ギルドが持つ領地みたいなもんなのもあるがな。城塞都市ってーのはどうしたって土地に制限がある」
まあ、そうだよな。
城壁に囲まれてるんだから、その城壁内にある土地の広さには限界ってもんがある。
「そうだ。で、新しく何かで土地が欲しいって思っても早々簡単には手に入らん訳だ。城壁の拡張行ったとしても新規に得られる土地は中央から遠いしな」
ああ、元々はギルドが何かあった時使う為の土地だって事か……。
後から必要になったとしても、そん時欲しい場所に必要な空きがあるとは限らないからな。
「けどまあ……全部が全部後から使う訳じゃねえし、最近はギルドもそこまで大きな拡張が必要な訳じゃねえ」
「ああ、つまり押さえたはいいけど、使う予定が当面ないと……」
「そういう事だな。かといって、それはあくまで今であって、将来必要になる可能性があると下手に手放す訳にもいかねえ」
かといって都市内の良い土地を空き地にしておくのもよろしくない。
なので、ギルド職員用の寮を作ったり、家を建てて冒険者に貸し出したりしているそうだ。
その関係上、常に空きがある訳ではないが、今なら二つほど空きがあるという。
「まあ、宿の方が食事も出してくれるから楽っちゃ楽なんだけどな」
「けど、子供を一室に閉じ込めとく訳にもいかんよなあ……」
それに宿の場合、まともな所はどうしたって部屋の掃除の為にいられない時間帯がある。
普通の冒険者なら、その間に依頼を受けたりするから問題ない訳だが。
「それに雑務の冒険者に食事を作る依頼とかを出しときゃ俺らとしては家の賃料と、新しく出す仕事を確保出来て万々歳だしな!」
「それが本音かよ!」
でもまあ、食事と掃除を依頼すればこっちも楽になる。
冒険者に依頼するって事は一定時間ごとに様子を見てきてもらうって事にもなる。
「うーん、じゃあそっちの思惑に乗るみたいなのが癪だけど、借りるわ」
「毎度あり」
にやっと笑って、雑務依頼の料金表まで出してきたのがちょっとむかついた俺だった。
……まあ、依頼出すけどさ。
うーん、ウサギなのに人の子供が出来ちまったよ、おい。
さすがに見捨てるのもアレなので家借りました
いきなりこども一人見知らぬ街に放り出した所で、生活出来ませんからね