幕間:黒ずくめ
今回は黒幕っぽい奴のお話
「よう、帰ってきたみたいだな」
「君か」
ビットと会話を行ったローブ姿の相手はある場所へ帰ってくるなり出くわした相手と会話をしていた。
もっとも、友好的な雰囲気などは欠片もなかったが。
「聞いたぜ、失敗したんだってな」
「失敗したというのは違いますね。既に彼らは目的のものを持っていなかったのですから」
ちっ、と鋭く舌打ちする音が聞こえた。
「連中がどっかに隠したんだろうが。……何で皆殺しにして死体を全部回収しなかった」
「万が一を考えたのですよ。あそこには【白い】首狩り兎がいましたからね」
一瞬相手は沈黙したが、直後に苦い顔になった。
「白い、首狩り兎だと?マジか?」
「ええ、本当です」
事実なので隠すような事は何もない。
「逃げられでもしたら、あそこは冒険者ギルドの管轄ですからね。厄介な事になりかねない」
「……確かにあそこは面倒だ」
あっこのギルマスも冒険者ギルドの中でも大物だからな、と吐き捨てるように言うが事実だ。
「だが、あいつらが持って逃げたのは確かだろうが。やっぱ多少リスクあっても全員ぶっ殺してでも捕まえた方が良かったんじゃねえのか?」
「それも考えたのですがね」
多少冷静になったみたいですね。
ですが……。
「……最後の最期まで付き添った連中もいれば、途中で逃げ出した連中もいました。それで気づいたのですがね。そうした連中が最期まで守ろうとした少女……それとアレのどちらを優先するか、という話になるのですよ」
「はあ?」
「つまり、私が危惧しているのはそういう少女を守ろうとした連中と、アレを守ろうとした連中に分裂したのではないか、という事です」
まだ分かっていないようですね。
「つまり、アレを持った連中が少女を守る一派を囮にしたのではないか、という事ですよ」
「……?……!そうか、あくまであの子供を守る事を主体とする連中と、あくまでアレを守ろうとする連中の意見が対立して……俺達の目があの子供に行ってる内にこっちの本命はさっさと別ルートで逃走した?」
「その可能性を考えています。考えてみれば、森に隠れるとして馬車は使えませんしね」
唸り声を上げている。
その可能性があったから、こちらもあそこで無理をせず引いた。
もし、その可能性が正しければこちらは最悪冒険者ギルドを敵にして、肝心のアレには逃げられたまま、という事になる。
「だとすりゃあ、まず逃亡した連中を把握しなけりゃならねえのか、くそ!面倒な事になりやがった」
「馬車もありませんでしたからね……場合によっては少女と馬車を分けた可能性もあります」
そして、我々の目が少女に向いている間に……。
「……考えてみれば、あの馬車である必要はないんですよね」
「……乗せ換えた可能性もあるって事か。くそっ!!」
本当に厄介な事になったものだ。
あれ?
もっとギスギスした内心で嘲笑してるみたいな展開になるはずだったのに何でこうなった?