ちょっと変わった魔力視のお話
今、ギルドマスターと話をしている。
ちなみに女の子は事情を話して、預けてきた。俺には未だにびびってる受付嬢達も身内を軒並み失ったっぽいあの女の子には同情的で世話を引き受けてくれている……。
と、言えば聞こえはいいんだが。
実状は冒険者ギルドに到着するなり、既に連絡が衛兵から行ってたらしく俺はギルドマスターの部屋へ即効連れていかれて、女の子は受付嬢らが優しい声かけつつ連れてった、というのが真相だ。
「しかしまあ、妙な案件持って帰ってきたな、お前」
「いや、好き好んで持って帰ってきた訳じゃ……」
「ああ、分かってる。単に事実を指摘しただけだ、気にすんな」
むう。
とりあえず、事情を聞かせろというので俺が知ってる範囲の事は話したんだが。
「ふーん、確かにそりゃあ人の国の連中っぽいな」
俺に対して特に反応しなかった事を聞いたギルドマスターがそう言った。
これは首狩り兎という種族に対する知名度の差らしい。
魔物の国においては首狩り兎という種族は人の国との戦いで活躍し、その活躍っぷりも戦後になってからだが公開された。もちろん、それはちゃんと理由があって、戦争中の功績を明らかにしないと「何であいつらあんなに優遇されてんだ」という批判を浴びる事になりかねないからだってさ。
結果として、魔物の国では首狩り兎という種族はよく知られる事になり、英雄とされながら怖れられる存在になった。
一方、人の国では英雄でもなんでもなく、単なる暗殺者扱い。当然、世間一般では全然知名度がない。
一つには「王様や皇帝なんかがウサギにびびって、和平を結んだ」なんて事になったら面子丸潰れだから隠されてるのもあるらしい。
お陰で、知ってるような立場にいる奴でもウサギを見て、ぱっと頭の中で首狩り兎だ!って結びつかないらしいんだな、これが。
「結果として、魔物の国や魔物が多い地域じゃ怖れられてるお前さん達が、人の国じゃ可愛いと撫でられる事になったりする訳よ」
「ははあ」
なるほど。
何か納得した。
「そうなるとあのお嬢ちゃん、人の国での何かしらのトラブルに巻き込まれて、ここまで逃げて来た、って事か」
「そうなるんじゃないか?」
「街じゃなく、森に向かったのは何でだと思う?」
「やっぱし、追われてやむなくコース変えたんじゃね?」
追われて街道を逸れた結果、街へ向かってるつもりが森の方へ進んじまった可能性はある。
街道沿いなんて一番見張られやすいだろうし、かといって街道を外れたりしたら……この世界、GPSなんかないからなあ。星や地形からおおまかに進路を推測して進むしかない。もしかしたら、そういう事が出来る人材が既にいなかった、って可能性もある。そうなってたら、「多分こっちであってると思う」なんておおまかな推測で進む事になる。
そうなったら、街へ向かってるつもりがずれてた、って事が起きる可能性は凄く高くなる。
「まあ、そんなとこだろうな」
ちなみに、冒険者はちゃんと道を割り出す技術を全員が持ってる。
森や山に入る度に道が分からなくなって遭難する冒険者なんか笑い話にしかならねえしなあ……。
ただし、それは「とにかくこういけばいいと分かる何等かの手段があればいい」って事なんで、純粋な技術の奴もいれば、魔法頼りの奴もいる。ちなみに俺は後者。あと、いくら分かっても魔道具頼りな奴は認められない。それじゃ落っことしてなくしたら、それこそ高ランクなのに「道が分からなくなったのでお外に討伐や採取に行けません」な冒険者が出来ちまうからな。
当人が使える魔法は「それも当人の身に着けた技術」として認められてる訳だ。
「ところでさ」
「うん?なんだ」
「黒幕っぽい奴が言ってたんだが……」
特殊な魔力視みたいなのあるのか?と聞いてみた。
そう話したら、ギルドマスターはピンと来たようだった。
「鑑定持ちか」
「鑑定?」
魔力視と鑑定を合わせる事で、特殊な魔道具や魔法の鍵なんかを見つけ出す事が出来るらしい。通称、鑑定視。
ただし、滅多に持ってる奴はいないとも。
理由は単純で、そんなもん使う機会がまずほとんどない。隠された魔法の鍵なんかを見つける事にも使えるから探索の高ランク冒険者には取得してる奴もいるそうなんだけど……特殊な魔道具なんか滅多に見つからないし、冒険者には特に価値がないものも多いらしい。
「逆に、人の国では鑑定と魔力視を組み合わせる者が多いと聞く。そこもあるかもな……」
「そうなのか?」
「単純に、魔物というだけでそれ以上は余り詮索しない我々と、魔物の何という種族かまで気にする人の違いだな」
なるほどね。
そうすると俺が身に着けるのは余り実用的じゃないか……。
魔力視に比べ、取得が面倒なのも大きいですね
魔物の感覚で言えば一桁の足し算と、大学受験数学レベルの違いがあります
……なんせ、素である程度鑑定出来ないといけないので