初仕事
さて、無事俺は討伐ランクB、採取限定ランクCを貰えた。
『群れのシャドウウルフをまとめて倒せる奴ならAでも足りないぐらいだ』
とは「いいの?」と聞いたギルドマスターから返ってきた返答だ。
あの後、冒険者ギルドに戻ってきてから、倉庫でシャドウウルフの死骸をリュックから出した。
結果から言えば、全部買い取ってもらえたんだが、ギルドマスターや職員の皆さんはあんだけのシャドウウルフが綺麗に首を狩られて亡くなっていた、という事に驚いてたみたいだったなあ……いや、まあ、驚いてたのはギルドマスターだけで、後は明らかに怖がってたんだけど……。
あの魔獣はかなり危険な奴だったらしい。
ただ、最初は高くてもBまでらしいんだよな。討伐依頼だって強さだけじゃなく、発見や追跡の技術とかそういうものも必要だかららしい。
「さてと、それじゃどうすっかな」
何気に懐は温かい。
シャドウウルフの買取代金、結構な額だったんだよな。具体的には半年ぐらいは遊んで暮らせるぐらい。
しかも、これ前金分でオークションにかけての値段次第、いやまず間違いなくもっと多額の後金も入ってくるって……。
原因は「希少性」や「有用性」が大きいらしい。
希少性に関しては、森の奥まで行かないと出会えないからなかなか毛皮自体が出回らない。
有用性だけど、サイズの関係上、骨とかを武具には使えないらしいけど、シャドウウルフで一番重要なのが毛皮と魔獣特有の魔石だ。同じ魔力を纏っているのに、魔獣にはあって魔物にはないらしいんだよな……。毛皮は普通の防具として加工するなら少し頑丈な皮鎧程度の性能らしいんだけど、特殊な加工をする事でシャドウウルフの特殊能力とも言える影に潜む力を限定的ながら持たせる事が出来るらしい。すなわち、影に潜るなんて事は出来ないにせよ、気配を大幅に薄くして物陰に溶け込む事が出来るので気づかれる可能性が大きく減るんだと。
つまり、魔道具としてのシャドウウルフの外套は隠密行動を必要とするものにとっては垂涎の的なんだとか。
『こんだけ綺麗に倒せたなら良い外套が出来るぜ』
と褒められた。
まあ、あって困るもんじゃないし、変な事した訳でもなし。有難く受け取っておこう。
さて、正式にランクを貰った以上、俺は冒険者だ。
ここからは俺自身が仕事を探して、必要ならパーティ組んで、やってかないといけない。幸いというか、財布の中身に関しては大分余裕が出来たお陰で焦る事なく、仕事や仲間を探す事が出来る。これがもし、財布に余裕がなけりゃ焦って仕事探さないといけないだろうし、新人なんて大体そんなもんだろう。
で、結果としてくたばる奴も多いんだろうな。
焦って仕事を受け、焦って仲間を組めば、当然失敗する可能性も増える。
既に一人前になってる奴だって、十分稼げる奴ばかりとは限らない。
冒険者ってのは体一つが商売の種だ。言っちゃ悪いが肉体労働者と言っていい。大怪我したりすれば、当然怪我を治してる間は収入がなくなる。それを嫌って、多少怪我をしても無理に仕事を受けてれば、当然失敗する可能性が高まる……。
まあ、だから冒険者ギルドは雑務も積極的に引き受ける事を推奨してるみたいだし、まともな冒険者はそっちも余裕がある内にコツコツ上げている。
上げない奴は大抵、いざ怪我して収入がなくなってから慌てて雑務なんかをやろうとして、大抵失敗する。
……てな事をきっちり言われたんだよね、俺も。冒険者にはちゃんとそういう説明がされてるそうだ。その上でやらないなら、それはそいつの責任だ、と。
(そうなると雑務やるか、それとも最初は折角だから討伐やるか、あるいは採取……)
悩んだ末、最初は採取からやる事にした。
雑務は……まだこの街の地理全然把握してないからなあ。下手すりゃ仕事先に赴くだけで迷うぞ、俺。当面はあっちこっち回って、おおまかな地理だけでも把握するのが大前提だろうなあ。
そうなると討伐か採取なんだが、採取選んだのはまあ、何となくだな。
「……仲間に関しては……まあ、慣れるの待つしかないか」
まだまだ遠巻きにしてる冒険者連中を見て、こっそり溜息をついた。
……白ってのが首狩り兎としては強い部類の色なせいで、『首狩り兎族のお偉いさんの子供か?』なんて疑われてるっぽいんだよな。やっぱりこういうのは血統のいい奴から出るのが多いみたいでさ。
「ちょっといいかい?」
「……何でしょう?」
カウンターに飛び上がって(カウンターの下にいたら俺の体格だと見えない)、声をかけた。
お、今回の受付嬢はちょっと体固くなりはしたが、割かし冷静に反応してくれてるな。
「これを受けたいんだけど」
「かしこまりました」
淡々と処理してくれた。
よし、じゃあ仕事行ってくるか!
――――――――――
ビットがギルドから出ていくのを見て、ほうっと受付処理を行った受付嬢は溜息をついた。
「やっぱり緊張するよねー」
「……?何が?」
その溜息を安堵からと取ったのか、隣の受付嬢が苦笑しながら言うがあっさりと疑問符でもって返された。
「え、だって相手って……」
「ええ、可愛いですよね。ああ、抱っこして、あの毛皮を撫でてみたい……」
「「「「「……………」」」」」
その声が聞こえた受付嬢のみならず周囲のギルド職員から驚愕の視線を向けられながら、彼女はほうっと仕事だから、と手を伸ばせなかった事を残念に感じるのだった。
世の中、変り者は常におります
そして、騒動は……?