試験中(中編
討伐試験+採取実地試験。
二つ同時にこなす事になって、今、魔精の森へと再び足を踏み入れた訳なんだけど。
「なんで、ギルドマスターが試験官やってんの?」
「いいじゃねえか、気にすんな」
実の所は森の奥に赴く試験官としてちょうど良いランクを持ちつつ、首狩り兎という種族に偏見を持たない奴がいなかったせいだったりする。
魔精の森は入り口近辺はともかく、奥へと進む程危険性が加速度的に増していく。
となると、先程、最初の試験官で見せた技量からしてそれなりに奥へと進む必要があるとすると「討伐」でそれなりのランクの奴に試験官をやってもらう必要があるのだが、そもそも「討伐」部門の冒険者というのは混成の冒険者グループ以外は、人当りがよろしくないグループも多い。
何せ、彼らに求められているのは基本的には「魔獣をやっつける」事だけであり、狩ってきた獲物の買い取りも実はおまけにすぎない。
まあ、高く売れる魔獣となると彼らも気を付けはするのだが、基本「討伐」依頼の魔獣というのは危険な相手がほとんどで、そんな事を考えている余裕がないとも言う。
それはさておき、そういう事情もあって試験官が出来る程度には気を配れる奴がちょうど不在だったのでギルドマスターがその仕事を引き受けた訳だ。たまには体を動かしたかったのもあったりする。
「で、俺何を狩ればいいんだ?」
「まあ、そう焦るな」
――――――――――
と、言ったもののギルドマスター自身は結構悩んでいた。
最初に相手した試験官だが、彼の専門は護衛だ。
討伐が攻めを得意とするなら、護衛は守りを得意とするとされている。守るべきものがあるかどうかの差だが、当然試験官も守りは比較的得意だった。
そんな護衛出身の試験官に何もさせずに瞬殺。これは実は予想以上に厄介だった。
(浅い地域の魔獣じゃ話にならん)
しかし、余り深くまで行くと今度は時間も手間もかかる。
さすがにギルドマスターが三日も四日も一人の受験生につきっきりなんてやらかしたら、秘書から殺される。
(となると……ちょっかいかけなきゃ大人しい部類しかねえか)
戦えば危険。けれど、比較的穏やかな性格である為にちょっかいを出さなければ割と安全。
魔獣だってピンキリなだけに、そんな魔獣だって当然存在している。
魔精の森は奥へ進めば進む程、危険度認定が劇的なまでに上昇する森だ。
森に入らないギリギリの所では駆け出しでも採取が可能なのに、数日程度かけて奥へと進めば最高ランクの討伐専門パーティでさえ全滅の危険が常につきまとう。争い事を嫌って、本当はそうした奥地に住めるのに割と入り口に居座る魔獣というのも実は少数だがいるのだ。
そうして、未だ狩られていない魔獣というのは基本、「手間の割に儲からない」という点に尽きる。
討伐連中は依頼でもないのに狩ったりしないし、狩猟連中はもっと儲けが出る魔獣を狙う。必然的に放置される訳だ。
「よし、ハンマーボアを狙ってみよう」
「ハンマーボアってーと……確か」
そうしてビットが口にした点は確かにハンマーボアの注意点をきちんと押さえていた。
頭部から胴体半ばまで頑強な甲殻に覆われた猪で、その甲殻に包まれた頭部を切っ先としての体当たりをしかけてくる。
では、胴体後半は柔らかいのかというとそうでもなく、その毛に見える部分は甲殻が細く変化したものだ。それらが折り重なり、柔軟性を維持しつつ、強度を確保していて、下手な斬り方をすればあっさり滑って、傷つける事すら出来ない。
頑強で下手をすれば剣が欠けたり、折れたりしかねず、その癖売れる部分は通常の猪と同程度。
それぐらいなら普通の猪を狩った方が圧倒的に楽。
おまけに肉は臭みが強く、偶然捕えられた時にも強めの香草を用いて煮込む事で臭いを消す作業が必須だ。
こうした特徴に加えて、こいつは完全草食型で、攻撃を仕掛けない限りすぐ傍を通っても完全無視している。
結果、強さ自体はそれなりの強さがある癖に放置されている訳だ。
「あれを倒せるなら討伐の試験も合格でいいだろう」
「よっしゃ!!」
……ついでに言うなら、こんな風に試験対象として使うって事もあるんだけどな。
これでハンマーボアも瞬殺となると……奴の甲殻を粉砕出来るだけの首狩りを可能としているって事で。想像以上に強いって事になるぞ、こいつは。
そろそろコタツを出す事も考えないと、と思ったのでそれに伴い正座椅子を探してました
昔、祖父母の家で見かけ、使ってみたタイプがあれば、と思って探してみたら見つかったけど、尼も楽天もどこ探しても入荷が11月半ば……
とりあえず、ニトリでも覗きに行ってみます