幕間:冒険者ギルド説明会
【冒険者達のお仕事について】
冒険者協会の新人説明会から
「冒険者とは大きく分ければ『ハイリスクハイリターン』『ローリスクローリターン』、そしてその中間という事になります。一般にはハイリスクなのが討伐と探索、ローリスクなのが雑務。護衛や狩猟及び採取はその中間というのが一般的な見方です。では、それぞれの仕事に関して簡単に説明していきましょう」
「護衛」
実は何気に一番、駆け出しの冒険者が選ぶ仕事としては手堅いクラスだったりします。
というのも、こうした護衛の依頼は基本的にどこかの護衛専門パーティに一時参加したり、少数パーティでもベテランパーティと組む事になる為です。どんな冒険者でも最初から、いきなり単独で護衛依頼を受けさせてはもらえない為ですが、これは単純に護衛の仕事というのが信用商売だからです。
ですが、悪い事ばかりではなく、経験者が必ず同じ商会の護衛にいる為に、初心者だけでいきなり「何をやっていいのか分からない」とか、突発的な事態が発生した際、「こういう時どうすればいいのか分からない」という状況に放り出される事はまずありません。
また、長年護衛をやっていると、どこかの商会に専門の護衛として長期契約をしてもらって最終的にそこの商会の一員となったり、リタイア後も腕利きだと護衛を選ぶ際の責任者として雇用されるケースもあります。冒険者としては手堅い仕事である事から、何気に既婚者が多いのもこのクラスですね。
商会に親しい人が出来れば、そうした伝手を使って、その商会の下請けの行商人として働くようになる方もいます。中にはそこから一人前の商人として独立し、大商人となった元冒険者という方もいますね。
こうした護衛をこなして、金を貯めると共に盗賊相手の実戦や、先輩冒険者に鍛錬をつけてもらって討伐などにも挑戦するのが一般的となっています。
この仕事で一番重要なのは威張ったりする事なく、きちんと誠実に仕事をこなして商人などの護衛対象の方と信頼関係を築く事です。
「討伐」
ある意味、冒険者の花形クラスです。と、同時に成功するかどうか、という意味での当たりハズレが最も大きいクラスでもあります。
希少な魔獣を狩り、一夜にして大金持ちになった。
強大な魔獣を討伐し、吟遊詩人が英雄譚として語るようになった。
王に認められ、貴族となった。
そんな話がある一方で、とにかく戦闘力が重視される仕事であり、また戦闘なしには語れない仕事なので死亡率や、大怪我を負って引退という話も最も多いクラスです。
それに加えて、戦闘だけだと冒険者としてつぶしが効かない為に、戦闘が多いから怪我をする事も多いのに、引退後の仕事としては運が良ければギルドの戦闘教官といった仕事が得られるかどうか、と引退後の仕事が限られているのもネックです。
こうした結果、討伐依頼を受けだして間もなく重傷を負い、討伐の仕事出来なくなってスラム落ちとか犯罪者に身を落とした、という話も多いのです。
この為、昨今では護衛などの仕事を行って、戦闘などの経験を積んでからの転向が進められる傾向にあります。
いいですか?間違っても、英雄譚に憧れて、最初から軽々しく討伐クラスに手を出さないで下さい。
「採取/狩猟」
物凄く稀にではありますが、一発逆転という話がない訳でもないクラスです。例えば、希少な薬草の群生地を発見した、といったケースなどが代表例ですね。
しかし、この仕事は非常に知識が重要な仕事でもあります。
イメージが湧きませんか?でも、まともな知識がないとまずどれが薬草なのか分かりません。薬草と間違えて、よく似た毒草を持ってきてしまった、というケースも多々あります。それに、鬱蒼と生い茂った森の中で目当ての薬草や果樹を探し出すというのは想像以上に難しいものがあるんです。
「そこらに生えてる草を取ってくりゃいいんだろ?」と軽く考えて、森に向かったはいいけれど見つける事が出来ずに一日中森をうろついた挙句、手ぶらで帰ってきた、なんて話も駆け出しの方には普通にあります。
では狩猟はというと、こちらも意外と難しいのです。
というのも、動物達の動きを読めないと何日歩きまわっても何も獲れないという事もザラにあるからです。その上、普通の獣と間違えて、危険な魔獣に攻撃してしまって、結果返り討ちに遭ったという話もあります。
この為、考える以上に専門的な分野で、素人が「簡単そうだから」と入り込んでも、ろくな結果にはなりません。
もっとも、そこら辺は私達、冒険者ギルドも理解しておりますので、やる、という方には最低限の講習を義務付けると共に最初は採取を勧めています。これは狩猟よりはまだ大怪我を負う率が低い為です。
このクラスの方は薬師としての技術を身に着ける方も多く、また狩猟はそのまま猟師や漁師となれる為、引退後は地方の村に移り住んで薬師や猟師/漁師として活動されるのが一般的ですね。地方の村なら薬師は大抵歓迎されますし、猟師も小さな村では一人いるかどうか、という事も多いので、領主様などから冒険者ギルドに引退する採取/狩猟クラスの冒険者を「どこそこの村に派遣して欲しい」という依頼が常にあります。
「雑務」
派手ではありませんが、ギルドの街ごとの根幹を支える仕事でもあります。
また、街中で活動する為に危険度も低いので、長期間仕事を続けられる事が多いというのも大きいですね。もちろん、荷運びなどで油断して大怪我を負って、という事はありますが、他のクラスよりそうした大怪我を負う危険性はずっと低いです。
反面、基本的に都市内部で完結している為、都市内部で雑務冒険者が増えすぎると仕事の取り合いとなる事や、都市に余裕がなくなった時に真っ先に割を食うのも、この仕事であるのも事実です。ですので、余程のベテランか、駆け出し、子供の見習い、後は怪我をした冒険者が一時的に生活費稼ぎで入る以外は他のクラスを最終的に目指すのが冒険者の暗黙のルールとなっています。
長期間続けていると指名依頼も増え、また正式に商会に雇われる事も多いです。
また、先ほど述べたような地盤を持つベテランになるとちょっとした街の顔役となっていたり、そうした顔の広さを買われてギルド職員になるというケースもあります。というか、大半の冒険者出身のギルド職員は雑務出身ですね。駆け出しの中から、次の顔役候補や、ギルド職員になるから自身の地盤を受け継いでもらうという形で……いわば跡継ぎとして見込まれた人だけが長期間続けています。ですので、「いい年して雑務ばっかしやってる」なんて馬鹿にしたりしないように。そういう人を怒らせると、その街では冒険者は長く続けらないと思って下さい。最悪「行方不明」になります。
とはいえ、基本的に危険度や一発逆転という意味では、討伐とはある意味正反対の位置にある仕事ですね。
「探索」
討伐に匹敵する冒険者の花形クラスです。
と、同時に討伐同様、危険度も同じく大きいクラスです。
このクラスは一般には古代遺跡の探索を主に行う冒険者を指します。この世界においては一度ならず文明が発展し、そして滅んでいる為、そうした遺跡が各地に残っており、そうした遺跡から使えそうなものを発掘するのが、このクラスの冒険者の仕事です。時には、一部の文明の研究者の方がフィールドワークの一環として冒険者をやっている事もあります。
ですが、潜りやすく、簡単に道具などが手に入るような場所は真っ先に漁られている為、まともに売れる物も限られています。この為、遺跡発見の最初期以外は、防犯設備があるようなある程度危険な場所が探索クラスの冒険者の手にゆだねられる事になりますので、結果として危険度が増す訳です。
その性質上、知識や技術という面では結構な知識量が必須となります。でないと、見た目では大した事なくても、実は希少なものだったり、見た目は豪華でも実際は見た目だけだったり……といった事になったりしてしまいます。
対象となる遺跡に関する知識、対象となる文明の知識、罠や鍵に関する技術と知識など求められるものは多岐に渡り、一般的には「私達はこの文明専門の探索冒険者」、とどの文明かを選んで潜るのが一般的です。ですので「どこの文明の遺跡でも任せておけ!」なんて方は非常に希少であり、まず最上級ランクのほんの一握りの方限定となっていますね。
また警備システムの性質によっては一定以上の戦闘力も求められる事もしばしばあります。この為、探索クラスの冒険者はクラスごとの絶対数で言えば一番少ないです。まあ、戦闘に関しては最低限レベルだけ鍛えておいて、強い相手と戦う際は討伐クラスの冒険者などに協力を求めるケースもありますね。
そして、駆け出しが手っ取り早く稼げると勘違いして、探索に向かう事もあります、そうした場合、大抵は長生き出来ません。
加えて、一番潰しが効きますが、護衛や採取、狩猟ほど突出したものがない事から意外と引退後の職場が限られており、引退する時には遊んで暮らせるだけの金が出来た時か、死ぬ時と言われる事もあるハードなクラスでもあります。上手くいけば、鑑定師や、研究者として国に雇ってもらえる人もいますが、そんなのは本当に限られますからねえ。
「……さて、皆さん、冒険者の仕事というものをご理解頂けましたか?皆さんの冒険者ライフが実りのあるものとなる事を冒険者ギルドは願っております」
冒険者はこんな感じです
主人公は最初から討伐クラスを認められてますが、これ、紹介状があったからこそです
もし、紹介状がなかったら例え、首狩り兎でも最初は護衛や雑務から始める事をお勧めされてました