容赦なき殲滅のお話
「ぎゃッ!」
「ひいッ!たすけ」
「畜生ッ!!」
えー、鍛錬だけじゃ体が鈍ると現在、討伐に駆り出されております、ビットです。
ちなみにフォルカー爺さんも一緒に来てるんだけど、いや、凄いわ。無双状態。
全身どこが触れても武器だろうが鎧だろうがお構いなし!正に当たるを幸い、といった風情で薙ぎ払っている。肘だろうが膝だろうが、あるいは肩だろうが喰らった瞬間に、野盗連中は鎧ごと吹き飛んでる有様だ。武器で受けようにも、武器さえ切り飛ばされ、粉砕される有様。
当初は向かってきてた野盗連中も途中で「やべえ!首狩りの所の先代だ!!」って声が響いた瞬間、一斉に逃げに移った。……怖がられてんなー。
「えっ……?」
「は?」
だが、逃がしはしない。
今回は俺とフォルカー爺さんの二人で来ている。
だからこそ、連中もすぐ傍に来るまで気づかなかった。
そうして、フォルカー爺さんが真っ向から押し通り、俺は裏に回ってる。
「気をつけろ!他にもいるぞ!!」
だが、連中の視線はもっと上、フォルカー爺さんの事があるからだろう、自分達と同じサイズの相手を無意識に探している。
空間魔法で迷彩を施し、俺は奴らの首を落としてゆく。
よく見れば分かる程度の空間迷彩だが、混乱している上、自然の森の中という事もあって奴らは次々死んでいく。
人が、魔物が管理していない森っていうのは予想以上に混沌としてる。
歩きやすい場所は限られ、道と言える道もなく、生い茂った藪や葉は容易に視界を遮る。
それなりに長い間使っていれば道らしきものが出来上がるが、そうでなければまともに走る事もままならない。しかし、道らしきものが出来上がってしまうと今度は居場所がばれる危険性が増す。だから、その前に移動しなけりゃならないが、長く暮らせば例え洞窟などでもそれなりに快適な場所になる。
そうなると心理的に移動に躊躇いが出る。
誰だって楽な暮らしをしたい。暮らしやすく整えた場所を捨て、再び森のどこかに生活の拠点を作って、そこで隠れ住む……。
『これまでばれなかったんだ、まだ大丈夫だろう』
そう思っちまったら、手遅れだ。
警戒心を安定を求める心が、楽をしたい心が一旦上回っちまえば、後はズルズルと進んでしまう。
これまで一月ごとに拠点を変えていたのが、二ヶ月三ヶ月と同じ場所に留まってしまう。
確かに、長く暮らせば、その場所は暮らしやすくなるだろう。襲撃場所に出るのも楽になるだろう。けど、見つかりやすくもなる。そうして、見つかった時、彼らは「いつも使っていた道」を使おうとしてしまい、今こうなっている。
強い奴はいないのかって?
そんな奴は基本的に領主の一族に雇われている。
そこで暴れるような奴は牢に入れられて、犯罪者扱いだ。逆に真面目に働けば、出世もする。混沌の街と呼ばれるように、人手が足りないからこそ出自を問わず使える奴は取り立てられる。
(せめて真面目に働いてりゃ、他の道もあったんだろうけどな)
それも、もう手遅れだ。
だから、消す。
足を断ち、転倒する所を首を落とし、落として落として……気づけば終わっていた。
「どうやら一部成功はしたみたいだね」
気づいたら、フォルカー爺さんが来ていた。
言われて気づいたが、鎧ごとスパリと断ち切ってるものが幾つもあった。
「こういうのは下手に考えると上手くいかないものさ」
……だから、多すぎていちいち考えてられないような状況に追い込んだ、って事かな?
「さて、遺品や奪われた品を回収して帰るとしよう」
この死体は?
「大丈夫だよ、この辺りは魔獣も多いからね」
一応、後日、確認の為に兵をやるが、数日の内に消えているさ。
そう言って、フォルカー爺さんは笑っていた。……この領地、思っていた以上に苛烈だな。
悪人死すべし、慈悲はない