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SIDE-試験官

前日宣言通り、本日は試験官の視点です

 俺は冒険者ギルドの試験官をやっている。種族はケンタウルス。

 冒険者の仕事は基本、危険と隣り合わせだ。護衛や討伐は当然だが戦闘力がないと話にならんし、探査は時に遺跡に眠る古代のガーディアンなんかと戦う事がある。狩猟や採取で森や山に入れば魔獣に出くわす危険があるし、普通の獣だって馬鹿には出来ない。雑務でさえ場合によっては街のゴロツキや盗賊ギルドのメンバーに「何を探っている」と狙われる事がある。

 この為、冒険者になるには最低限の戦闘力は必須だ。ない奴は戦闘訓練を受けて、最低限自衛出来るだけの技術を身に着ける事になっている。それまでは冒険者見習い、って奴だ。

 別に魔獣を倒せとは言わない。とにかく、身を守って逃げ出す事が出来ればそれでいい。

 で、必要なだけの戦闘力があると認められた奴は次の試験へと進める訳だな。

 ここはでかいから全部出来るが、小さな街のギルドだと上へあがる為の試験は別の街で、ってな事だってある。


 その日も俺は普段通り、訓練を監督していた。

 試験のない日は見習い連中に戦闘訓練をつけるのが仕事だ。

 魔物は人とは違う。

 人型もいれば、獣型もいる。或いはもっと別の姿をしたものもいる。事実、今鍛錬している見習いの一体はスライムだ。


 「やあっ!!」

 「よし、大分しっかり振れるようになってきたな!その調子だ!」

 「はい!」


 こいつの家は貧しい。

 スライム族は大抵のものなら溶かし、栄養に変える事が出来るがそれでも美味いものと不味いものがある。スライム族のそうした生活は何より体色に出る。裕福なスライム族の色は明るく陽光の下で輝くような透き通った色を持つが、こいつの色はやや白っぽく濁り、不純物のようなものがところどころに浮いている。

 ……そんな生活から抜け出し、弟や妹にはまともな物を食わせてやりたいと願って冒険者になろうとしている。

 棍棒を用いているのは安いからだ。もっともスライム族の場合、そして何でも溶かして栄養にしてきた下層のスライムは裕福なスライムより溶かす力も強い。溶かしやすい美味いものを栄養としてきたものと、なんでもとにかく溶かして栄養に変えねば生きていけなかったものとではやはり後者に純粋なスライムとしての力では軍配が上がるのだ。

 だから、棍棒で相手を怯ませて、組み付く事が出来ればそれなり以上の強者でない限りは何とかなるはずだ。少なくとも駆け出しの冒険者が相手するような低位の魔獣なら問題はないはずだ。

 他の連中にも声をかけて対応している時、ギルドマスターの姿に気づいた。


 「あれ、どうしたんだ、ギルマス」

 「おう、ちょうど良かった。試験をしてやって欲しい奴がいてな」


 そう言われて、ギルマスの視線が下に流れ、俺もつられて視線が向き……思わず体が硬直した。

 白い首狩り兎族!?

 小型の一見普通の兎にしか見えない魔物、そんなものは首狩り兎しかいない。

 他のウサギ型の魔物達はいずれももっと巨大だ。最低でも馬サイズはある。


 「まあ、まずはちゃんと戦えるだけの力があるかのチェックだ。軽くでいいんだからな?間違っても首落とすなよ?」

 「おう!大丈夫だ!!」


 怖い事言わないでくれよ、ギルマス!?

 俺まだ嫁さんと子供残して逝きたくねえよ!?

 本音を言えばやりたくなかったが、悲しいかな、俺はギルドの試験官で相手はギルドマスター。つまり俺の上司だし、冒険者になりたい奴の最初の試験を行うのが俺の仕事だ。上司の目の前で、仕事を堂々とさぼれる程、俺は図々しくはなれないというか、馬鹿げた真似は出来ないというか……。


 「……いや、頼むから本当に俺の首落としたりするなよ?」

 「しないってば」


 まあ、信じるしかないんだが……。

 だが、俺はかつて首狩り兎族の仕事を見た事がある。

 正にプロの暗殺者の仕事だった。

 いや、暗殺者というのは正確ではない。彼女はれっきとした冒険者だった。見た目は茶色の毛並みの愛らしいウサギだったが、討伐と探索でAランク、狩猟/採取でBランクを持つ優秀な冒険者だった。そんな彼女は戦闘では気づくといずこかに姿を消し、次の瞬間、眼前にいた猪の魔獣の首が落ちた。

 真っ赤に口元を染めた彼女の姿は今でも忘れられない。

 そして、同時に俺にはあんな鮮やかな真似は出来ないと思い知って、俺は現役を辞め、ギルドの職員となったのだった。

 妻は喜んでくれた。

 稼ぎよりも毎日祈らずに済む事が嬉しいと。……冒険者の仕事はどうしたって命の危険がつきまとう。腕のいい冒険者なら職員以上に稼げるが、そんな連中でもふとした弾みに命を落とす。

 ……けど、試験官になってから命の危険を感じるのはこれが初めてだなあ。 

 ああ、何でだろう?彼女の『私達にとって首を落とすというのは本能のようなものよ』という言葉が何故か頭に浮かぶよ……。 


 ちなみに結果だけ言わせてもらうなら、首を落とされる事はなかった。

 なにせ、「はじめ!」の言葉が聞こえた次の瞬間に見えたのがあいつの後ろ脚の裏側で、直後に意識が飛んだからだよ……。

 確かに首は落ちなかった。

 落ちなかったが、家に帰ったら俺の顔見た妻と子供に大笑いされたのは地味に傷ついたよ。

ちなみにビットの試験後の試験官の顔は分かりやすく言えば、パンダ顔になってます

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