義兄(予定)と会う話
「おお、よく来てくれました!」
屋敷で迎えてくれたのはイケメンでした。
ちなみに、現在の俺の位置はヘルガの腕の中。背中に思い切りヘルガの胸の感触が……しかも、先だってやっちゃったから余計に……イメージが……耐えろ、俺。
「どうも、初めまして、ビットです」
「こちらこそ、クリストフです」
ちなみに魔物は正式な場所では、この後に一応家名をつけたりするが、身内の場ではまずつけない、らしい。
ここら辺も人族に対抗した面があるんじゃないかと思う。
なんて、考えてる間に応接室へ案内された。ちなみにラティスはヘルガの私室へご招待……んー、物自体は立派なものを使ってるが妙に簡素な部屋だな。
「何もない部屋でしょう?いやあ、うちの領地が裕福になったのは近年なもので……いや、先祖伝来の品なんて言われてる物はあるんですが、飾れるような物ではなくて……ガワだけはとりあえず領主らしいものを建てたんですが、中身はまだまだこれからなんですよ」
一応領主なので客が来た時に備えて、それなりの見栄えがする部屋が必要だ。
魔物同士ならそこら辺気にしないが、人族だって来る可能性がある。
「昔ならまず誰も来なかったので気にする必要もなかったそうなんですが……」
お陰で、美術品関係の審美眼も鍛えないといけなくなって面倒ごとが増えました。
そう言って、クリストフは溜息をついた。
何でも、審美眼に限らず家が裕福になって、交易の拠点となったからこそ増えた面倒ごとも多いらしい。
「見たでしょう?今のハウラビの街」
混沌の街、なんて呼び名もあるという。
それでもかつてと比べるとこれでも相当マシになったそうだ。
最初期はそれこそあっという間に人が増え、大きくなった。
問題は泊る宿も店も何もなかった、という事だ。以前はそんなもん必要なかったから。おまけに管理しようにも圧倒的に人手が足りない。しかも、その時必要だったのはきちんと専門の教育を受けた役人であって、純朴な村人が幾人いても騙されないよう注意しなければならないほど!
結局、王宮から人手を借りて凌いだものの、あくまで借りただけ。その内返さないといけない。
「いやあ、ほんとに当時は苦労したそうですよ……さすがに他所の腕利きを引っこ抜く訳にはいかないし、かといってうちはそれまで親しいお付き合いが周囲とほとんどなかったですし……」
結局、リタイアした人材を雇ったり、色々やったそうだが、その過程で色々と後ろ暗い者も入ったという。
お陰で結構な額を懐に入れられたんじゃないか?と予想はされてるそうだ……。
「何せ、当時はどれだけの金が入ってきてるのかさえ、完全に把握出来ていたとは到底言えませんでしたからね。そんな状況ですから、帳簿を誤魔化して自分の財布に金を入れるような怪しい人材でもちゃんと表向き仕事してくれるなら雇わないといけなかったみたいで!」
教育にも金をつぎ込み、長い時間をかけて、やっとここまで来たそうな。
聞いてみても、俺が思いつきそうな事は軒並みやってんだよなあ……。
後はそれこそ、強権的な形でやるしかないぐらいには。
「ただね?うちはスラムはありますが、スラムでの犯罪は思ってる以上に少ないんですよ」
「そうなの?」
「ええ、犯罪歴のない場合、スラムからでも兵士や役人への取り立てがありますからね」
人手不足なのは今でも変わらないし、代々の家臣なんてものもろくにいない。
だから、スラムからでも犯罪歴さえなければ出世可能……となると、スラムの住人はどう考えるか?当り前だが、犯罪に積極的に手を出そうとはしない。何せ、下手に手を出したら、同じスラムの住人から売られる可能性すらあるからだ。……犯罪を犯したと分かれば、その時点で競争相手が脱落決定だからだとさ。
結果、スラムの住人達の間で相互監視網が敷かれ、犯罪を犯したが最後スラムにも居場所がなくなるという怖ろしい事に……。
「ってかなんで!?」
「だって、スラムにそのままいたら自分が知らない所で犯罪に巻き込まれる可能性があるでしょう?」
うわお。
つまり、犯罪を犯すと自分達がまきこまれない内にさっさと追い出される訳か……。
って事は?
「それ、野盗とかになるんじゃない?」
「ええ、ですから……」
練習に狩る対象には困りませんよ?
クリストフはそうにこやかな笑顔で言った。
スラムからも追い出されたなら行方知れずになっても誰も気づかないという罠
……実際はスラム統治とかこんな上手くいくかは分かりませんけどね。そこは物語って事で