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第八話 あっという間に

「居ない……?」


 扉を開いて、そこに広がっている光景に驚かされた。


 誰も居ない。探していた父親の姿は無く、遺体らしいものもない。


 もぬけのからだ。


「……なんだ、良かった。きっともう逃げた後なんだよ」

 

 よく考えてみると、ミカのお父さんは退院寸前だったわけだし、

 火事が起きても、部屋から逃げ出すくらいの体力が残っていたのかもしれない。


 <おい、ミカ! 父さんだ! そっちは平気か?>


 その時、ミカのナビがおっさんの声を出した。


 どうやら、探している真っ最中の父親かららしい。


 ……ふう、良かった。


「お父さん!? ……良かった……こっちは無事だよ。

 お父さんはどこに居るの?」


 <病院の外だ。病院から逃げ出した人たちと一緒に、今から岩戸に避難するところだ>


「近くに居るから、私も今からそっちに行くよ。待ってて」


 <分かった。いやぁ、企業戦士の娘を持って、助かったよ>


 ミカのおやじさんの無事が判明して、俺たちは急いで病院の外に出た。


 道中、俺は一回肺が完全にやられて一回死んだが、まあそれ以外には大したことはなかった。


 患者服と白衣に身を包んだ十人ほどの人たちが、病院の向かいにある薬局に隠れていた。


 そして、俺たち二人の姿を確認するなり、

「すげぇ、本当に娘さん、井川鉄鋼の社員だったんですね」

「助かったぁ……井川鉄鋼の企業戦士が居れば、安全に岩戸まで行けるな」

 と、大喜びだ。


 こうなってみると、企業戦士になってよかったなと思う。


 誰かにこんなに大歓迎されたのは、生まれて始めてだ。


「ミカ、よく来てくれたな。隣の人は?」


 患者服を着た背の高い人。キリッとした目つきのナイスミドルが笑った。


 どうやら彼がミカのお父さんらしい。


 背の高さは父親の遺伝かな。


 年は……多分、俺より五歳くらい上かな。


「この人はえ~っと……同僚の黒木……君だよ」


「ずいぶん若いな。新入りなのか?」


 俺の顔を見下ろして、心配そうにつぶやく。


 まあ、見た目は完全に中学生か高校生くらいになってるからな。


 それに、若者に見られるってのは、気分も悪くない。


「……父さん。話は後で、避難が先だよ」


「おっと。それもそうか」


 無駄話を中断して、俺たちは岩戸へと移動を始めた。


 幸い、ミカの探知の目があるから、敵に遭遇する確率は低いだろう。


 彼女の先導で道路に出て、近場の地下鉄を目指す。


「しかし、日本の地下に岩戸なんて物があるの、不思議だよな。

 まるでこうなるのを見据えていたみたいだ」


「そうだね。でも、おかげで助かった」


 岩戸ってのは、日本列島の地下に存在している超巨大な地下空間。


 シェルターに近いが、放射性年代測定法で調べたところ、岩戸ってのは人類が文明を築くよりも古くから存在していたらしい。ま、ともかく謎の存在だ。


 岩戸は物理的には当然、結界に守られていて、核戦争や、魔物の侵略にも十分耐えられる……らしい。


 都市伝説だと、神様が作ったとか、宇宙人が作ったとか言われてるが……答えは風の中。


 正確なところはまったくの不明だ。


 そんな岩戸への入り口は日本中に点在していて、その入口はほとんどが駅とリンクしている。


 ま、駅の入口が偶然岩戸にリンクしてるというより、地下鉄が岩戸のだだっ広い空間を利用して作られているわけだから、駅が岩戸の出入り口にあわせて作られてるんだけど。


 そしてナビに調べされてみると、この辺りで一番近いのは七王子駅。


 そこまでたどり着く事ができれば、後はなんとかなるはずだ。


「……」


 ミカは【探知の目】に全神経を集中させているのか、

 父親が居るってのに無言で、周囲の様子を赤い目で探って、道を先導している。


 車が通れるような大きな道を避けて、民家の中を通り抜けたり、

 一人分ほどしか道幅のない裏路地を選びながら、なんとか進み続ける。


 そしてあとは大通りに出て、地下鉄への入り口に進むだけというところにまで、無事に何事もなく進むことができた。


「ふう……ここまでくれば、安心だな」


 と、俺は一つため息をついてミカの方を見たが、彼女はなぜか必死になって周囲の様子を探っていて、今俺達が居る裏路地から前に踏み出そうとしない。


「どうした? 周囲に魔物は居ないみたいだけど」


「……嫌な感じがする」

 ミカはしきりに顔を回して、周囲を探知の目で探り続ける。


 が、彼女もその『嫌な感じ』の正体が見つからないのか、額に汗を浮かべて、その場から動かない。


「何か居るのか?」


「居ない……と、思うけど。でも、居るような気もする」


 煮え切らない答えだ。


 彼女の力があれば、どんな敵も姿を隠せないはずだろうに。どういう事だ?


 姿が見えないが、存在だけを感じているのか……?


「分かったよ」


 仕方ない……ミカの方は死線をくぐり抜けてきている猛者だ。


 彼女の勘を信じよう。


「なあ誰か、俺と服を交換してくれませんか?」

 俺は、後ろに控えている一般の人たちに声を掛けた。


「?……別に構わないが、どういうことだ?」

 ミカのお父さんが、首をかしげた。


「俺が囮になります。一般人のフリをして、地下鉄に入る。

 誰かが待ち伏せをしているなら、俺を襲うでしょう」


「そんな……危なくないのか?」

 ミカのお父さんは、俺の顔を見て心配そうにしている。


「心配無用です。ミカからもそう言ってくれ」


「ん……まあ確かに『死ぬ心配はない』……けど……」

 ミカはそれでも不安そうにモジモジしている。


 暫くの間、誰も俺の提案には乗ってくれなかったが、やがて意を決したようにミカのお父さんが突然服を脱ぎ始めた。


「……わかった。本当なら、君みたいな若者にこんなことをさせたくないが……

 戦いについては君の方がプロだ。心苦しいが……君に任せるよ」


「信頼してくださって、ありがとうございます」

 俺は服を受け取りながら言った。


 そして俺もダイヤ装備一式を脱いで、ミカの親父さんが着ていた薄緑色の患者服に着替えてと……


 よし、あとは行くだけだ。 


「気をつけてね」


「ああ」


「いざって時は、助けるから。すぐに大声で呼んで」


 そう言って、ミカが俺の手をぎゅっと握ってくれた。


「わかりました。ミカ『隊長』」

 ミカに冗談交じりにそう言った後、俺は下着姿のミカのお父さんに、ダイヤ装備を手渡した。


「あの。お父さんは一応この装備を身に着けておいてください。

 いざって時に役立つかもしれないんで」


「ああ、何から何まですまないな。気をつけて、黒木君」


「はい。任せてください」


 そして、俺は一人で裏路地を後にして、一歩大通りに足を踏み出した。


 周囲には人の姿も、魔物の姿もない。


 ただ静かだ。


「……ふぅ、ふぅ……」


 けど、すごく緊張する。汗が出てきた。


 何かやばい。猛獣の檻に入れられたような気分だ。


 一歩が永遠にも感じる……


「……よし、到着っと」

 

 でも、とりあえずは何も起きずに地下鉄の入り口にまでは到着した。


 あとは階段を下るだけだ。


 階段の奥は、電灯が点いてなくて、ひどく暗い。


 ……この奥に、何か居るのかな?


 コツ、コツ、コツ……


 多分、中に入ってからじゃあミカの助力は期待できないな。


 そう思いながら、奥に進む。

 

「……ふぅ、ふぅ……」


 怖い。


 なんでだろう。


 闇の中だからか? あるいは、信頼出来る仲間が背中に居ないからか……


 ああ、コガネが居てくれれば良かったのに……


 コツ、コツ、コツ……



「あ」


 そんなことを考えているうちに、一番下まで到着してしまった。


 改札には工事現場で置かれているような非常灯が設置されていて、薄っすらと明るい。


「避難者の方ですか? 急いでこちらへ!」


 普段、駅員が立っている場所には、軍服を着た対魔防衛軍の男性が立っていた。


 ……なんだ、ミカの杞憂だったのか……?

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