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第四話 友情、努力、勝利

 相変わらず死んだり生き返ったりを繰り返しながら、スライム狩りに精を出していると。


「あ、17時かぁ……そろそろ会社戻ろうよ」

 ミカが呟いた。


「まだ早いだろ。夕方だぞ」


「……いや、一旦会社に戻ってから家に帰ると、もう19時くらいになっちゃうし。……門限、過ぎちゃうし……」


 ミカは気恥ずかしそうに目をそらして、小さな声で言った。


 門限……そうか。


 ミカの年は18歳。まだ未成年だからそういうのもあるのか。


「分かった。そうしよう」


 本当はもうちょっと戦いたかったが、仕方ない。


 未成年を夜のダンジョンに連れ回すのも良くないしな。


「やっすー、お疲れさま。 これ、初出勤祝い」

 

 ダンジョンを出てすぐ、ミカは自販機でコーラを買って、おごってくれた。


「ありがとう。ああ、久しぶりにこんなに運動したよ」


 そう言いながら、実は疲労感は大したことはなかった。


 何回も死んだせいかな? 多分。


 肉体が死んで、再生する時に、疲れもリフレッシュされているんだろう。


「にしても、絶対に死なないんなら、明日からはもっとすごいダンジョンに行っても良さそうだね」

 ミカがニヤニヤと笑う。


「ミカ、普段はどれくらいのレベルのところに行ってるんだ?」


「私? パーティ組んでる時ならレベル70くらいのところかなぁ。

 ソロだったらレベル60くらい」


「え……ソロで60?」


 わかってた事だけど、今回のダンジョンのレベルが13だったことを考えると、桁違いだな。


「まあねぇ、一応エリートですから?」


 ドヤ顔でミカが言う。


 まあ、確かにそれだけの実力があれば、下手に謙遜するほうが嫌味ってものか。


 レベル60のダンジョンとか、他の会社のダンジョン攻略部だったら、

 精鋭でパーティを組んで挑んでも、かなり危険が伴う場所だろう。


「俺がそのダンジョンに行ったら、どうなる?」


「ムリムリ、絶対無理! いくらスキルが強くても、五年くらいは頑張って基礎ステータスを上げないと」


 そう言って、ミカはドヤ顔で自分語りを始めた。


 なんでも、彼女が初めてダンジョンに挑んだのは、小学生の頃。


 本来、ダンジョンに挑んでも良いのは高校生からで、それでも大人の同伴が必要なんだが、小学生の彼女は、管理されていないリアルダンジョンにこっそりと忍び込んで、遊び半分でダンジョン攻略していたらしい。


 そして彼女は特別に強いユニークスキルを持っているわけじゃないが、長い年月と鍛錬の結果、いまやエリートだけが集う【井川鉄鋼ダンジョン攻略部】に入ることが出来たんだそうだ。


 小学四年から、高校三年まで、じつに九年の月日をダンジョン攻略に捧げてきたからこその実力。


 普通、人の自慢話なんて聞いてられないが、彼女の言葉にはダンジョン攻略に対する純真な気持ちが常に透けて見えるからか、つい最後まで聞き入ってしまった。


「……やっぱり、井川鉄鋼ってすごいんだな」

 と、俺は改めて自分がやってきた世界の大きさを認識した。


 ミカは井川鉄鋼の中でも、一番の新入りで、実力的も一番下。


 にもかかわらず、俺とミカとの間には、まだまだ大きな差がある。


 山田部長も、ミカと同レベルくらいには強かったのかな……


「まあ、やっすーはスキルが強いから、多分強くなれるよ。

 今はひどいケド……あはは」


 なにか気恥ずかしそうに、髪の毛をいじりながらミカが呟いた。


「本当か?」


「うん、多分ね。やっすー次第だけどさ」


 そんな話をしながら、俺たちは会社に戻って総務部に向かった。

 

 出勤して、その日の作業目標を第十室のオフィスでリリィ室長に報告。

 ↓

 ロッカーに預けてある装備品を取り出す。

 ↓

 パーティを組んで、ダンジョンに向かう。

 ↓

 会社に戻り、ダンジョンで集めたドロップ品をすべて総務部で精算、装備品をロッカーに預けて帰宅。


 というのがダンジョン攻略部の基本的な一日だ。


 基本的に、【企業戦士】は、その企業が所有するプライベートダンジョンや、

 提携を結んでいる企業のダンジョンに入れたり、会社から装備品の支給がある。


 ただし、当然会社員として会社に利益を還元しなきゃいけない。


 ダンジョンで獲得出来るドロップ品の所有権は、実は契約上すべて会社のものだ。


 だから、一日の終りにドロップ品をすべて総務部で報告、納品する。


 ただ、ドロップ品は即座に鑑定され、その総価値の半額分が社員に歩合として支払われるから、たくさん働けばその分給料が増える仕組みだ。


 さらに、ドロップ品を自分の物にしたい場合、本来の価値の9割相当の金額を会社に支払うことで、そのドロップ品を自分の物にする権利もある。


 一見効率が悪そうに見えるが、【保険の契約】【パーティ集め】【税金対策】【ダンジョンの選択肢】【備品の管理】なんかをを考えると、明らかにフリーの冒険者よりも企業戦士の方が便利だ。


 それを証明するように、今の日本には、ほとんどフリー冒険者は居ないし、居ても趣味レベルの連中ばかりだ。

 

「はい、これが本日の明細になります」

 総務部のコガネさんから明細書を受け取って、すぐに内容を確認する。


 今日一日の給料は30000円。ミカと二人でそれだから、実質は15000円だった。


 命がけの割には、正直大した額じゃないが……


 まあ、相手がスライムだったことを考えれば上出来かな。


 それに歩合とは別に基本給は別に支給される事も考えると、悪くない。


 ……でも。なんだろうな、俺は別に良いけど……


「ミカはさ、いつもどれくらい貰うんだ?」


「……えぇ? いきなり人の給料の話? やっすーってモラルがないよねぇ」


「あ、悪い。こんな話はマナー違反だよな」


「冗談だって、えっとねぇ……本当に聞きたい?」


 ミカは言い渋った。


 冗談めかした雰囲気だけど……俺に遠慮してることがすぐ分かった。


「……気を使わなくてもいいよ」


「そっか」と、つぶやいて。「一人あたり二十万円くらいだね。すごいでしょ」

 

 一人二十万……てことは。


「じゃあ、今日も本当はそれくらい稼げるはずだったんだな。俺がいなければ」

 いくら新人教育とは言っても……それだけの金額をドブに捨てさせるのは、申し訳ないな。


「でもさぁ、別に気にしなくてもいいよ。

 お金には困ってないしさ、たまには雑魚狩りも楽しいもんだよね」

 彼女はそう言い残して、家に帰っていった。


 ……確かに、自分で言うのは何だけど、俺のスキルはかなり強い。


 けれど、今のままじゃだめだ。


 ミカは俺の教育係だが、甘えてはいられない。


 なにか胸の奥に、燃えるような気持ちが湧いてきた。


 普段なら家に帰って、ソシャゲに熱を入れる時間だけど、全然家に帰ろうという気分になれない。


 ……ただ、何をしたら良いのかもわかんないけど。


「あの、黒木さん。帰らないんですか?」


 総務部のコガネさんが、困った顔をしてコッチを見ていた。


 ……もう、定時間際だ。総務部は社内で一番帰りが早い部署。

 多分、もう切り上げて帰りたがってるんだろう。


 でも、そうだ。


 やっぱりこのままじゃだめだ。


「コガネさん。あの……

 今から一人でダンジョンに行くことって出来ますか?」


 俺がそう提案すると、彼女は口に手を当てて、眉をひそめた。


「え? 今からですか……? それはちょっと難しいですね。

 基本的に、ダンジョン攻略は9:00~19:00までの間と定められていて、

 残業するには最低でもサブリーダークラスの許可がないと」


「そう、ですか。どうしても無理ですか?」


「黒木さん、今日は初出勤ですよね。どうしてまた残業なんて?」


 コガネさんは不思議そうに首をかしげた。


「……俺、実はすごい弱いんです。 

 迷惑掛けないために、なるべく早く追いつきたくて」


「そんな無茶、体が持ちませんよ。早く今日は帰って、明日また頑張ればいいじゃないですか」


 コガネさんは月並みな言葉で俺を説得しようとする。


 確かに、普通ならそうだ。


 眠い時に無理をしても、効率が下がるばかりで、ろくな事にならない。


 だけど……

「いや、無茶じゃありません。俺、死なないんです。

 それなら、どれだけムチャしても、全然平気なんです。

 死んだら疲労が消えるんで、多分寝る必要もないし」


 そうだ。俺の肉体に蓄積したダメージは、死んで復活する際に全部消える。


 だったら、別に寝る必要はない。


 眠くなったら死んで、リフレッシュしてまた戦えばいい。

 

「へぇ」と、コガネさんは頷いた。「そんなにミカさんに迷惑を掛けたくないんですか?」


「そうです」


「なるほど……」

 彼女は四角いフレームのメガネを外して、その奥にある赤黒い瞳で俺を見つめてきた。


 ……もしかして、納得してくれた?


「死に急ぐどころか、死にながら成長するって事ですか。それって中々ロックじゃないっすか」


 え?


「私、ロックには弱いんすよ。黒木さぁん」


 コガネさんの口調が変わった。 


 心なしか、顔つきも八方美人の受付嬢って感じから、ハードボイルドな刑事(デカ)みたいにいかつくて、今にも葉巻でも口に加えそうな雰囲気に。


 何この急変、怖い。多重人格者?


「仲間のために死ぬ気で頑張る。いや、『死にながら』頑張る。

 それじゃあ、私もせめて死ぬ気で応援するのが、筋ってもんでさあねぇ」


 何この口調? 江戸時代の人?

 

「あの、それじゃあ……手伝ってくれるって……こと?」


「もちのロンロン! オッケー牧場!」


 意味不明のノリ。この人ちょっと、見た目の生真面目さに反してやばい人かもしれない。


 机の上に足を乗っけてるし。


 けどまあ、手伝ってくれるなら何でも良いか。

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