第三話 おれのしかばねをこえてゆけ
なんと、スキル不死には意外な副作用があった。
肉体が死亡した際、ダメージを完全に取り払って復活させる効果らしいが……
どうやら『加齢』も同時に取り払われてしまったらしい。
肉体年齢はたぶん十五歳かそこら。初めは二回りほど年下だったハズのミカよりも、
今や見た目では年上になってしまった。
背もミカの方が高くて、傍目に見たら、兄妹みたいに見えるかもしれない。
「やっすー、子供になると結構かわいいじゃん」
ミカも、最初は驚きで何も言えなくなっていたけど、
すぐに子供姿の俺に慣れて、むしろ距離感が近くなった気がする。
加齢臭が消えたからかな? 何にせよ、ありがたい副作用だ。
……ま、ダンジョンから帰った後、色々周囲に説明が大変そうだけど。
「にしても、何が起きたの?」
そういえば、ミカには俺のユニークスキルについて説明していなかった。
俺は軽く自分のこれまでの経緯を彼女に説明して、
【不死】というユニークスキルを持っている事を説明した。
「不死? なるほど、それで生き返ったんだ」
と、ミカは納得した様子で頷いて、
「でさ、どんなデメリットがあるの?」
「……いや、特に無いんじゃないかな……まだわかんないけど」
「はぁ?」
すっとんきょうな声。
「そんなワケ無いでしょ。ナビ、ユニークスキル【不死】について教えて」
<ユニークスキル【不死】。スキル所有該当者一名。
効用:あなたは死ななくなる。
補足:サンプリング対象が少なく、効果の全容把握は不可能です。
そのため、上記の効用以外にも何らかの作用を持つ可能性があります>
「スキル所有該当者一名……なるほど、【レジェンダリースキル】ね。
なるほどなるほど」
ナビの回答に対して、ミカがなにか納得した様子で何度も頷いている。
「なあミカ、レジェンダリースキルっていうのは?」
「【ユニークスキル】の中でも珍しい、世界で一人しか持たないスキルのことね。
当然、前例のないスキルだから正確な効用は分からないってわけ」
なるほど。
そうなると、適当にほいほい死ぬのはあんまり良くないのかな?
回数に制限があったりしたら、大変だし……
「よし、それなら死んでも良いってことね。それじゃあもう少し奥に進もっか」
「いや……え?」
「強敵と戦うのが成長の近道!
普通の人間は死んだら終わりだから、自分より強い敵とは絶対戦わないけど、
やっすーは死んでも良いわけだから、強敵とは戦い得じゃん」
……そんなこと言われても。
死なないと言っても痛いものは痛いし、もう帰ってゲームしたい……
☆
何回死んだか、もう分からない。
そして俺は一般的にはザコに分類されるスライム軍団に、けちょんけちょんにされ続けた。
こちらの攻撃がスライムに通用するように、【炎の強化魔法】をミカが俺の武器に付与してはくれたが、「ほらほら、頑張ってー」と、基本的にミカは遠くで見学してるだけ。
「くっそー!」
なんとか一匹のスライムを殺しても、周囲にはすぐに何匹もスライムが湧いてくる。
熟練度の低い俺には、ともかく剣を振り回す以外の攻撃方法はなくて、無我夢中で振り回す。
「がぁっ!」
しかし、足元に這い寄ってきたスライムに気づくのが遅れた。
【アシッドスライム】が装備品の隙間から入り込んで俺の足を溶かしたらしい。
態勢を維持できなくなってその場に倒れたら、はい、終わり。
「くっそぉ」
頑張ってスライムを追い払おうとするが、もう遅い。
多種多様なスライムが一斉に俺に向かって飛びかかってくる。
最初は全身にひどい痛みが走るが、すぐに感覚が薄れていく。
最後の方はいっそ、気持ち良いくらいにも思える。
「やられた~」
何回も死んでみると、もうそれくらいの感想しかない。
痛いことは痛いけどね。
「だいじょうぶ? やっすー」
そしてミカが火焔流を放って、俺の体ごとスライムを一掃する。
……体はバラバラになるが、間もなく復活する。
「まったく、乱暴だな……」
そして、魔物が消えた後になって立ち上がる。
何度か死んでみて分かったんだが、体は溶かされたり、バラバラになってり、灰になっても復活する。
アシッドスライムに溶かされたとしても、復活時には何の問題もないし、
火傷の後とか、そういうのものこらない。
そしてやっぱり復活時の肉体年齢は十五歳ほどで固定らしい。
ただ、生きている間にその復元力は働かない。
体が完全に回復するには、一度死ななきゃいけないようだ。
<特殊イベント発生、【十三度目の死】達成により、ユニークスキル【生命の血】を獲得しました>
顔に付着した血と灰を払いながら立ち上がると、急に俺のナビが声を出した。
「ん……特殊イベント? また新しいユニークスキルを獲得したのか?」
「え、なにそれ、ズルじゃん! 普通の人間は十回も死ねないんだから、絶対条件達成できないし!」
「だから【特殊】イベントなんだろうな」
「むぅ……」
ミカが不服そうに頬を膨らませた。
確かに、特殊イベントってのは、そう滅多に起きることじゃないってことは俺でも知ってる。
普通に生きているだけでも、生まれた時に発生する【最初の贈り物】と、
四十歳の誕生日に発生する【2つ目の贈り物】で、
人生に二回の発生は保証されているが、三回目以降はほとんどの人間が経験することはない。
俺自身、当然上の二つ以外には今まで特殊イベントを経験したことはなかった。
「ナビ、【生命の血】の効果を教えてくれ」
<ユニークスキル【生命の血】。スキル所有該当者16名。
効用:あなたの体液がポーションになる。
ポーション性能は本人の魔力に依存する>
「ふうん、なるほどねぇ。でもさ、これって……やばいな」
「やばいって……何が?
やっすー、魔力のステータスGでしょ?」
「そりゃそうだけどさ。俺の体は死んだ時に再生するだろ?
血液も同じように再生しているなら……」
「あ」
ミカは手を叩いて、俺の言いたい事を理解した様子だ。
「【無限】じゃん!」
善は急げと、俺は自分の手首を切って、血を出した。
「ナビ、この血液の効能を鑑定出来るか?」
<可能です。少々お待ち下さい>
そう言って、ナビは俺の血をペロリとなめた。
ノリで言ってみたけど、本当に鑑定なんて出来るのか。
本当に便利だな。流石に一億もするだけの事はある。
<ポーションの性能は【最下級治癒薬】の10分の1程度の性能になります。
値段はリットル当たり10円ほどでしょう>
「リッター10円……割に合わねぇ……」
人間の血液量は確か大人で4リットルくらい。
となると、まあ……一回死ぬごとに40円だけか。
流石に効率が悪すぎる。となると、今は役に立てる方法がなさそうだ。
ちょっと残念だが、今はこのスキルの活用を目指すより、単純にレベルを上げたほうが良いだろう。
そう思って、この後も一日中スライムの巣にこもった。
殺されまくるのにも慣れたし、あとは根気の勝負だが、根気という一点なら、ソシャのマラソンで鍛えられたから、自信がある。最高で、まる三日間寝ずにソシャゲの限定ダンジョンを回し続けたこともある。
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黒木 康隆
基礎値
攻撃力 32 (+15) <F>
防御力 42 (+30) <F>
素早さ 27 (+10) <F>
魔力 8 (+3) <G>
武器熟練度
剣 2
ステータス評価:F
スキル
【二段切り】
ユニークスキル
【攻撃力力微増】
攻撃力に1.1倍の補正がかかる。
【不死】
あなたは死なない。
【生命の血】
あなたの血液がポーションになる。
ポーション性能は本人の魔力に依存する。
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