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第二十四話 大きな変化とコガネの1日

 まったくもって、驚かされた。

 おれの目の前で突然グリスが死んで、その後コガネが率いる本隊が大阪城に突撃。

 (リーダー)を失って動揺した魔物たちは、見ていてかわいそうになるくらい一方的に蹴散らされた。


 そして一晩の戦いが終わった後、西日本の奪還は完了した。

 

 記者会見が再び天空の間で開催されたが、取材されたのは今回の戦いの主役たるコガネ。


 彼女はグリスの部下たちを全員ぶっ倒して、全身を返り血に染めて報道陣の前に立った。


 そして、彼女の第一声はこうだった。


「私は、リリィの姉のコガネです」

 

 その一言が、むしろ西日本制圧そのものよりも大きなニュースとなった。


 彼女は、ついにリリィとの姉妹関係を全面的に公表した。


 そして自分が妹のリリィとは全く反対の思想を持っていて、彼女の行動を止めたいと思っていることも。


 報道機関は、彼女のことを好意的に報じた。


『人類解放軍が西日本を制圧。人類に市民権を与えることを約束した。

 また同時に、職業選択の自由、最低賃金の保障、さらに私刑の禁止を宣言した。

 彼女は平等を掲げて、戦う革命家だった』


 報道機関はなんせ人間たちが担っている。


 魔物がトップに立っていた頃は、当然魔物たちのご機嫌伺いのような内容しか報道されなかったが、

今やマスメディアは人間の味方だった。印象操作というと言い過ぎかもしれないが、当然の大変化にもかかわらず、否定的な報道は一つも流れなかった。


 そして意外なことに、魔物たちの反目も想像ほどではなかった。


 彼らの基本的思想として『強者には服従すること』というものがあるのだろう。


 武力革命ってのは、人間にとっては苦い薬に例えられるもの。


 うまくいくことは多くないし、民衆に歓迎されないことも多いが……魔物たちにとっては力のあるヤツが正義。だからこそ、コガネは戦って勝利し、勝ち取った。それで理由は十分だったらしい。


 それにコガネは半魔だというのも、良い方向に働いていたのかもしれない。


 そして世界はゆっくりと変わった。大部分が人間の奴隷的労働によって運営されていた社会は、まともになった。

 

 ……ただし、以前の世界に戻ったわけじゃあない。

 魔物と人間が、対等な関係となったんだ。不当な搾取が終わり、人間と魔物は共存の道を進むことになった。


 ただし、今まで労働というものをしたことがない魔人以外の魔物たちにとっては、それは簡単なことじゃない。彼らは略奪や泥棒に走り、治安は急激に悪化した。


 そして何よりも……最大の目的であるリリィは、今回の出来事のまったく無関心だった。


 もちろんこれは推測だ。事実として分かっているのは、連中は俺たちが地上を取り戻したにもかかわらず、地上には戻らなかったということだけ。

 

 もはや地上には戦略的価値を全く見出していないのかもしれない。


 だが、大きな変化が生まれた今、俺たちは安易に魔神界へ向かうわけにもいかない。


 暫くの期間は、様子を見るために地上にとどまるという決定をコガネが下した。








☆ 


 人類解放軍リーダー兼、西日本統括司令であるコガネイシグロの朝は早い。


 彼女は、愛用の抱きまくら、ゆるキャラの『ホタテーのギター君』をぐにゃぐにゃになるまで激しく抱きしめたまま、執務室の隅に作られた仮眠用のベッドで眠っていた。

 

 時刻は早朝四時、眠りについたのはたったの1時間前の深夜3時のことだった。


 目の下にはクマがあり、髪の毛はぐしゃぐしゃ。シャワーを浴びる時間もないのだった。


 しかし、眠ったと思ったのもつかの間。すぐに彼女の仮眠室に秘書の男が飛び込んできた。


「大変です! コガネ司令。

 グリスの元部下たちが、オオサカ城に押しかけてきています!」


 新しく彼女の秘書となったのは、山田哲人。元東日本統括司令だった男。


 性格には問題ありだが、自分より強いものには逆らわないし、事務作業の面では有能、何よりも東日本統括司令だった頃の経験値から非常に有用なサポートをしてくれることも多い。


「な……なんですか……もう少し眠らせてくれても……ミカさんや黒木さんは……?

 二人にやってもらえません?」


「彼らはトウキョウですよ。二人には特訓を命じたのを、忘れたんですか?」

 山田はうんざりしたような顔で、コガネが離そうとしない抱きまくらを奪い取った。

「さあ、早くしてくださいよ!」


「あ……そうか……」


 寝ぼけ(まなこ)で、彼女は立ち上がり、すぐに服を着替えた。


 黄金色の鎧、巨大な戦斧。およそその細い体には見合わない装備に。


 一騎当千の英雄、完全なる戦士。全ての攻撃を物ともせず、あらゆる物を破壊する圧倒的な、そして単純な力を持つ怪物。


 人々は彼女のことを【ジャイアントウォーリア】と呼んだ。


 その力と血のルーツはデーモンだが、彼女の性質は確かに巨人によく似ていた。


 1人で百人を蹴散らすのを最も得意とするが、同時に、仲間たちの存在が彼女の足を引っ張る。


 唯一、彼女の強さに問題があるとすれば、あまりに強すぎて、彼女の戦いについてこられる仲間が1人も居ないことだった。


 かつては彼女の妹が居たが……今や、それも昔のこと。


 今の彼女は孤独だった。

 

「敵の数は?」

 オオサカ城内のエレベーターに乗り込みながら、コガネが部下に聞いた。


「最上位種123体。上位種541体が確認されてます。

 連中は今、オオテ門の前に集結、今にも門を破ってきそうです!」


「わかりました、私一人で行くので。終わったら、仮眠しても?」


「……一応、朝の六時までなら。その後はオオサカ都庁で会合がありますからね」


(……さっさと終わらせて、眠りたい……本当は、丸一日寝たいけど……そうもいかない)


 コガネは疲れた顔を隠すように、二つの角がついた兜を被ると、城の外に足を一歩踏み出した。


「コガネだ!」

「気の狂った、人間びいきの女め」

 すると、黒い波となった魔物の群れが、自分に向かって一斉に罵声を飛ばしてきた。


 中にはナイフや魔法を飛ばしてくるものもあったが、コガネは揺るがなかった。


 ああやっぱり。と、コガネは思った。


 リリィという存在が、いつまでも自分を縛り続ける。


 しかし、その縄をほどくためには戦い続けなくてはいけない。


「今すぐにこの場から離れてください。そうですね……10秒以内に」

 コガネは周囲に警告を飛ばす。


 普段とは違い、今回は邪魔者(仲間)は居ない。全力で力を振るえる。


 彼女は内心ではこれから先、自分の行う破壊を想像して、高揚感を覚えた。


 だけど彼女はそんな魔物らしい破壊衝動が、何よりも嫌いで、すぐに首を横に振り、兜の中ではなるべく生真面目な表情を作った。


「10……9……」

 コガネはカウントダウンを始めた。


「馬鹿にするな! グリス様を殺しやがって!」

「トウキョウの田舎者がぁ! ナニワ魂を見せてやらぁ」


 周囲の魔物たちは、その隙にコガネのもとにたどり着いた。

 そして武器で、爪で、牙で彼女に攻撃を始めた。


 ガィン、ギィン、ギィイン!


「だ、駄目だ。硬すぎる!」


 激しい金属音が響き渡るが、コガネの鎧には傷一つつかず、そして彼女の体もまた、まるで巨大な根が地面に張り巡らされているかのように、何にも動じなかった。

 

「……3……2……1……0」


 そして、カウントダウンが終了すると、コガネは口を開き、詠唱を始めた。


「『重荷も、苦しみも、全てを分け合って生きよう。【重力分配(おすそ分け)】!』」


 詠唱を終えると、彼女は暗い闇のオーラをまとった。


 その黒いものは周囲に広がり、魔物たちの体を覆う。


 彼女が使った魔法は、重力魔法の一つ。その中でも最も弱い魔法だった。


 それは、自らが背負う重みを、自分の周囲に居る他人に与えるというもの。


 仲間にも無差別にその効果を与えるので、味方がいる状況では使えない技だった。


「な、何だ……体が重い……」


 一匹の魔物が、声をあげた。


 コガネが背負っている重みが、ゆっくりと全身に掛かる。


「……ガ……立ッテイラレナイ……」

 次第に、重みは増していく。


 コガネの周りを囲んでいた魔物たちの大半がその場に膝をつき始めた。


「グァッ」


 なにせ、コガネが着用している黄金色の重層鎧、【黄金剛石(おうごんごうせき)の鎧】の重みは5(トン)。常人なら瞬時にぺしゃんこに潰れる重さだった。

 

「さあ、わかったでしょう。戦いなんて馬鹿なことはやめてください」


 そしてコガネは、魔物たちが完全に潰れてしまう前に魔法を解除した。


「にげろ!」

「やべぇぞ!」


 途端に、魔物たちはオオサカ城から逃げ出して、その場に鳥のさえずりが響いた。


「やっぱりおっかねえ。リリィの姉貴ってのはやっぱり本当なんだな」

 その光景を大坂城内部から見ていた山田が呟くと、すぐに上司のもとに駆け寄った。

「さすがですね! リリィ様の姉上であらせられるだけのことは……」


「黙ってください!」

 コガネは反射的に山田を怒鳴りつけた。が、すぐにはっとなって頭を下げた。

「……その、妹の名前は出さないでください。なるべく……お願いします」


「ひ、ひゃい……」

 山田秘書は、コガネが見せた一瞬の怒りに驚き、小便を漏らしたが、そのことを気づかれないように、

彼女に背中を向けた。

「あの、新しい仕事が入りました。警視総監との会談です。

 魔物による犯罪行為の取締について、相談があるそうです」


「分かりました。すぐに向かいます」



 オオサカのミナミ。警視庁のビルの大会議場で会議が開かれていた。


「人間が魔物の支配から逃れたことによって、魔物たちは金を自分で稼ぐ必要が出来たわけです。しかし、知能の高い魔人種はともかく、普通の魔物たちには……労働はなかなか馴染みのないもの。単純な肉体労働を覚えさせるのも一苦労でして……職にあぶれた魔物たちによって治安が悪化しています」


「ぐーすかぴー……」


「あの、聞いてますか? コガネ様?」


 警視総監は会議机を軽くノックして、熟睡中の西日本統括司令を優しく起こした。


「あ……はい。もちろんです! 続きをお願いします」


「そして治安の悪化した状況で、魔物たちによる犯罪行為が増加しているわけでありますが、魔物たち相手に拳銃と警棒ではあまりに心もとない。せめてサブマシンガンと真剣の携帯を許可して頂きたいのですが、どうですか?」


「……うーん。そう、ですね……」


 コガネは、答えに窮した。


 はい、と言えば直ちに警察官は装備を強化し、治安は良くなるかもしれない。


 だが、警察官の大部分は人間によって構成されている。


 魔物たちが人間ばかりで構成された警察官に殺されるような事が増えれば、どうなるだろう?


 そう思って、彼女は首を横に振った。


「申し訳ありませんが、装備の強化は少し待ってください。

 それよりも、魔物たちを警察官として雇い入れる方向で進めてくださいませんか?

 魔物なら魔物を捕まえることも出来るでしょうから」


 途端に、会議室に笑いが生まれた。


「あんな連中を雇い入れろと?」

「はっはっは、冗談でしょう?」


 その笑いに、コガネは少し悲しい気持ちになった。


 しかし、彼女は自分の立場を知っていた。


 感情は別にして、やるべきことをしなくてはいけない。そう覚悟を決めて、力強く口を開く。


「……魔封結界が破られ、魔神界への道がこの世界に出現してから、魔物たちは賢くなりました。多くの魔物が人語を理解するようになりましたし、仕事だってこなせるはずです。

 それに、多くの魔物たちは自分より強い者には従順です。強力な魔物を警察組織に引き入れれば、それを恐れて犯罪行為を行う魔物は減るはずです」


「それはちょっと……捜査情報をリークされて、犯罪行為に利用されるだけでは?」

「うん、魔物が同僚になるってのは……なあ?」


 その場の皆は、コガネの事を恐れてか、はっきりした事を断言しないが、どうしても魔物を警察組織に受け入れるというアイデアは受け入れがたいようだった。


 その後もしらばく協議は続けられたが、互いの意見は平行線。何一つの決定もなく、会議は終わった。


 一つの会議が終わると、次は商工会議所で、その次は都議会で。


 オオサカ中を駆け巡り、人と魔物が共存しやすい社会づくりのための協議を重ねた。


 ただし、どの会議でも一つの結論にも至らず、疲労だけが彼女の体に蓄積していった。


 そして夜の1時になってようやく仕事は一度落ち着いて、ようやく仮眠の時間。


「ふぅ……」

 コガネは疲労困憊の体をベッドに沈めて、すぐに深い眠りに落ちた。


翌日の朝からは農林水産省で魔物の食糧問題についての話が決まっていた。



「ん……あれ? ここは……」


 コガネは、ずいぶん小さな二段ベッドの一階で目を覚ました。


 ベッドの上には、うさぎのぬいぐるみや、絵本、そしてロックシンガーである【ホタテー】のCDアルバム。

 

 彼女は、すぐにここがかつての自分の家だという事に気づいた。


 しかし、どうしてここに自分が居るのかということはわからなかった。


 懐かしい気持ちになりながらも、困惑している時。


 二段ベッドの二階から、幼くて、可愛らしい……しかし、冷たい顔をした少女がコガネの前に顔だけを出した。

 白い髪に白い肌。誰であるのか、すぐにわかった。


「リリィ……どうしてここに?」

 コガネは、幼いリリィの顔を見て、言った


「人間も魔物も、私達とは別の存在。

 そんな事をしてもなんにもならないよ」

 

「……どうしてその事を……ここは?」


「魔物も人間も、みんな馬鹿ばかり。

 今、コガネの言葉に従ってる連中なんて所詮、コガネの強さに逆らえないからそうしてるだけ。

 あんな奴ら、殺しちゃえば良いのに」


「なんて事を、リリィ……そんな事、絶対に言わないで」


「今の自分を見なよ。笑うことも出来ないくらい疲れて、生真面目な、表面的な自分を維持し続けなきゃいけない。心を緩められる瞬間はない。でも、何のために? そんな事をして、意味があるの? 私達が人間にされた事を忘れたの?」


 そして幼いリリィは、二段ベッドを降りて、無地のTシャツを脱いだ。


 彼女はそのままコガネに背中を向けて、その怪我の後をむざむざと見せつけた。


 そこには無数に、人間たちの残虐の印があった。


 幼い子どもの背中にはふさわしくない、まるで幾度も死線をくぐり抜けてきたような、歴戦の戦士のような背中。


 コガネは、その怪我の理由をほとんど知っていた。


 ほとんどが退屈しのぎの、一つの正当性すらない理由によってつけられた傷跡。コガネ自身もまた、それによく似た怪我を体に背負っていたが、彼女ほど怪我はひどくなかった。

 

 それはコガネは明るい性格で、半魔にも関わらず人間の友人がある程度居たから。


 しかし、妹のリリィは暗い性格で、攻撃的。それがなおさら人間からの攻撃を助長していたのだろう。

 

「お姉ちゃん。もうそんな馬鹿な事はやめて、私の事を手伝って?」

 リリィは半裸のままコガネに抱きついて、耳元で囁いた。


「離れて!」 

 しかし、コガネは彼女(いもうと)の声に耳を貸さなかった。

「可哀想なリリィ……でも、私はあなたを許さない。

 たとえどんなに正当な復讐であっても、世界を混乱させて、多くの人を殺した罪は消えない。

 その罪の責任は、唯一の家族である私が取る。何があっても、リリィの為にその責任を取るから」


「人間も魔物を殺してきた。

 今更、魔物と仲良くしようなんて偽善はやめて。

 人間も悪。魔物も悪。

 全部、悪人ばかり。誰かが壊さないと」

 妹は冷たく、悲しそうな声でそういった。

 

「そんな事、絶対にさせない!」


 大きな声を出すと同時に、コガネはベッドから転げ落ちた。


 そして仮眠室の小さな窓から差し込む光に、もう次の朝がやってきていた事を知った。


 あまり長い休憩時間が取れなかったが、

「私が頑張らないと」

 コガネは決意を新たに、立ち上がった。


「コガネさん、今朝はまず農林水産省で魔物の食糧問題についての会議です」


「はい、すぐに行きます!」

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