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第二十三話 オオサカ城の乱 後編

 四本の剣を躱し続けることに、俺は集中した。

 

「ぐっ、だっ」


 しかし、躱しきれない攻撃によって俺の血が畳の上に飛び散る。


「まるで童話の【赤い靴】だな。死ぬまでそうして踊り続けろ!」


 そしてグリスは俺の行動を笑う余裕すらあった。


 ……当然だろう。俺には反撃する武器がない。


 素手でもそれなりに戦えるだろうが……相手は准魔王だ。山田やらレッサーデーモンの時のように簡単にはいかないだろうし、そもそも相手もそれを警戒しているはずだ。


 懐に飛び込んだ途端に、斬り殺されるかもしれない。


(くぅ……一人きりじゃ、いくら俺が不死と言っても再生の隙に拘束されたら終わり。死ぬわけにはいかない)


 ……しかし、ミカの連絡が確かなら、増援は期待できない。オレ一人でコイツを倒さないと。


 そうだ、ここで俺は証明しなきゃだめだ。


(俺は、コイツを倒す。不死に頼らす、倒すんだ!)


 俺の中の何かが、そう叫んでいた。


 どうしてここまで熱くなるのか、自分でもわからない。


 ……でも、心の声は正しい、不死に頼り切りじゃいけない。


 これはピンチだけど、成長のためのチャンスでもある。


 そして、実を言うと反撃の手段は一つ思いついていた。


 ただ、その手段を実行するには、相手の油断を誘わなきゃいけない。


 だから俺は……一瞬、体の動きを止めた。


「隙ありッ!」


 ザンッ! ボトン……コロコロ。

 

 ……右足に激痛が走った。


 ちょうと太腿の中央辺りで、足が切断された。


 赤くて熱いものが吹き出し、当然、右足の支えを失って俺は畳に崩れた。


「ガァッ……!」

 俺は嘘をついた。演技をした。


 痛みはひどいが、俺はもうそんなモノに動揺しない。


 だが、隙だらけの哀れな敗北者を演じた。


「よおし! これでトドメだ!」


 予想通りだった。


 チャンスはピンチ、ピンチはチャンス。


 グリスはこの俺の生命を奪えると確信したのか、腕に持った四本の剣の内、日本刀らしき剣を俺の脳天目指して振り下ろしてきた。


 それは隙だらけの、大振りの一撃。

 人間は勝利を確信したときこそ、最も負けに近づく。魔物も同じようだ。


 俺は自分の頭上で手を叩いた。


「何ッ!」

 グリスが驚きの声をあげた。上手くいった。


 真剣白刃取りだ。


 俺はそのまま刀を強引にグリスの腕から奪い取り、驚いて硬直しているやつの体に向かって、左足一本で飛びかかり、懐に入った。


 そしてそのまま、奪った刀をやつの体の中心、心臓をめがけて突き刺した。


 深くブッ刺さる感触。口から漏れる血。やった、と、すぐにわかった。


「グゥ……ゆ、油断した……」


 グリスは大きな音を立てて、その場に倒れた。


 ……勝った。


 ふふ、一度も死なないで勝った!


 成長したなぁ、おれ。と、喜びに笑っていた時。


(勝ちを確信した時、人間は最も隙を見せる)


 小さく、グリスの声が聞こえたような気がした。


 ま、気のせいだろうと思って、やつの体から刀を引き抜いて、拝借しようとした瞬間だった。


 グリスの目がパチリと大きく見開かれて、俺は背筋が凍るのを感じた。


 ☆

 

 ザンッ! ゴロゴロ……


 グリスは起きがけに、自分の胸に差し込まれた刀【肉切り】を引き抜くと、そのまま人間(黒木)の首を切り落とした。


「ふう、危なかったな」

 まさか、素手の人間に一度殺されるとは、思わなかった。

 と、グリスは思った。


(もしもフル装備で挑まれたら、少し危なかったかもしれない。【心臓喰らい】で、命のストックを百個ほど増やしておいてよかった)


 グリスは強い魔物だが、何よりも彼の強さを決定づけているのは、彼が持つユニークスキルの【心臓喰らい】。


 同族の心臓を食らうことで、それを自分の命のストックにするというもの。


 彼はこの戦いを事前に予測していて、念のために自分の命の残数を100個ほど増やしておいたのだった。


「それにしても、このレベルの人間が複数居るとすると、厄介だな」


 グリスは頭と体が生き別れした哀れな肉体を見下ろして、呟いた。

 しかし、こんなに強い人間がそう何人も居るはずない。と、自分に言い聞かせたときだった。


「な、なんだッ!」


 黒木の遺体が、光を発した。


 そして光の塊となった頭部と胴体はそのまま一つにくっついたと思うと、次第に光は収まり、無傷の人間がそこに立っているのが見えた。


 その時、グリスは理解した。目の前の男は、自分と同じタイプのユニークスキル持ち。


 同時に、疑問も彼の頭に湧いて出た。


(となると、何回だ? 何回殺す必要がある?)


「はぁ……油断したなぁ」

 男は気の抜けた態度で呟いた。

「まさか、俺と同じタイプの能力を持ってたなんてね」


 そしてグリスと黒木の二人は、向かい合って奇妙な笑顔を浮かべた。


「クックック」

「あっはっは」


 奇妙な連帯感が二人の間に生まれた。

 そして、その勢いに任せて、グリスは「何回だ?」と質問した。


「何回? どういう意味だ?」

 黒木が聞き返す。


「言葉通りだよ、お前は何回死ねるか聞いておきたいんだよ」

 しかし、グリスが率直に質問しても、(黒木)は困惑したような顔をして、なかなか答えようとしない。

 

「なるほど確かに、お前に先に言わせるのは卑怯だな」

 グリスは頷いた。

「ちなみに、俺はあと105回死ねる。さあ、俺は言ったぞ。お前はどうだ?」

 さあ、これでやつも度肝を抜かれたはずだ。と、満足げに黒木の反応を見た。


(さすがに復活系のスキルの許容回数は1回か2回が限度だろうはずだからな。そして怯えきったところを捕らえて、拷問し、仲間の事を聞き出してやる)


「……えっと、俺は上限とかないケド……」


「は? え……?」

 

「何回でも死ねるし、今までに実際何万回も死んできてる。俺は何をされても死なないんだよ。リリィから聞いてないのか?」


「いや待て、おかしいだろう。それは……ずるいじゃないか。田舎(トウキョウ)者の癖に……」

 と、そこまで言った後にグリスは思い出した。

 魔神界に幽閉されている不死身の男が居ると、そういう話があった事を。

「……不死身の黒木か」


 途端に、グリスの背筋が凍った。


 自分の能力では、絶対に彼には勝てない。


 完全な上位互換にあるユニークスキル、そしておそらくは身体能力の方も向こうの方が僅かに上。


 彼は咄嗟に飛び上がって黒木から距離を取り、部屋の隅に立つと、

「お前たち、コイツを捕まえろ! 殺さない程度にぶちのめせ」

 部下たちに命じた。1対1で勝機がないとわかった今、自分が今優位に立っている数の力で倒す以外の方法はないと悟った。


 そして自分は高みの見物だ。大丈夫、身体能力は高いが、特殊な攻撃スキルは持ち合わせていない様子だし、油断さえしなければなんとかなるはず……

 

 ブォオオン。


 その時ふと、強い風が天空の間の中に吹き込んだ。

 先ほど、(ミカ)が逃げ出した際に壊されたふすまから強烈な風が入り込んできたのだった。


「ガッ……何……」

 

 そして風に紛れて一本の矢が運ばれてきた。

 矢はグリスの体の中央、先ほど黒木が突き刺した心臓に的中した。


(一体どこから?)

 グリスはまず、その事に驚いた。ここは日本で一番高い建物。その最上階。


 矢で狙いを付けるにはそれと同等の高さの場所からでないといけない。


 グリスは強烈な脱力感に逆らいながら、くるりと振り返って、ふすまの外の景色を見た。


 しかし、ヘリコプターや飛行機の姿はない。唯一うっすらと見えるのは、黒くて四角い建物(ビル)

(……いや、いくらなんでもあんな遠くから矢が届くはずは……)

 グリスの思考はそこで終わった。


 大きな音を立ててその場に倒れると、彼は光の粒となって霧散した。

 その後には、彼が持っていた4つの剣だけが残り、部下たちは動揺のあまり、黒木を放って天空の間から逃げ出した。


 ☆


 日本で二番目に高い建物が、同じオオサカにあった。


 オオサカ城の五キロ南、高さ999メートルを誇る日本最大のビル。アヘノルルカス。


 その屋上に、ミカは立っていた。


 弓という武器の本来の目的、遠距離攻撃のためだった。


 建物の高さで言えば、わずかにオオサカ城の方が上だが、天空の間と彼女の立つアヘノルルカスの屋上は全く同じ高さだった。

 


 五キロのスナイプショットは、いくら彼女の腕前でも本来は不可能。


 だが、魔法の手助けを借りれば話は別だった。

 

 彼女は炎の魔法を弓と同程度に得意としていたが、炎の魔法を訓練する過程で、風の魔法を習得していた。


 炎と風は相性が良い。風を受け炎は大きくなるから。


 そして実は、弓も風と相性が良いことに、彼女は後になって気づいた。


 風で大量の矢を操り、頭上から矢の雨を降らせるスキル、【死の雨(アローレイン)】のように、風と弓を組み合わせる方法を知った。


 だが、ダンジョンという狭い空間では、それを狙撃に活かすという方法を思いつかなかった。


 それが今日、オオサカ城の外から、その最も高い場所に居る魔物を殺さなくてはいけないという状況に追い込まれて始めて、彼女はその方法を思いついた。


 風を操れば、どれだけ遠くても、矢を放った後に相手が動いていたとしても、視界に入っていれば命中させる事が出来る。

 


「う~ん、始めてやってみたけど、結構簡単だったなぁ」

 ミカは【探知の目】の副作用による驚異的な視力によって、五キロ先で獲物(グリス)が死んだ事を確認すると、鼻歌交じりに呟いた。


 彼女がこの日、この場で思いついた技。


 彼女が持つユニークスキル【殺し矢】と、弱い風の魔法を用いた超遠距離狙撃の組み合わせ技、【死は風に吹かれて】が完成した。


 【殺し矢】によって、彼女の矢が敵の急所に当たれば、それで敵は死ぬ。


 どんな癒やしも、防御も、再生も、論理や物理法則すら無視して殺す。それが殺し矢の能力だった。


 ミカはグリスの【心臓喰らい】の能力を知らなかったが、見事に西日本統括司令の105個の命を同時に奪い、殺した。

これにて第2部終了です。


ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。


途中、誤字報告を何度か頂いたり、皆様に助けられてここまで何とか進められました。


ここからは少し更新速度が遅くなるかもしれませんが、気を長くしてお付き合いください。


よろしくおねがいします。m(_ _)m

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