第十九話 お金がほしい!
リッツとヒュムノールの二人をトウキョウに置いて、俺は人類解放軍の元に帰り、西日本奪還の失敗を知った。
コガネの執務室を尋ねると、彼女は自分の失敗ををひどく残念がっていて、「私には才能がないのかも……」なんて、さっそく暗い言葉を漏らした。
……なんでそんなに凹んでいるんだろ?
敵から奇襲されたにも関わらず仲間たちの多くを生かし、その上で敵将の首を取ったことを考えると、全然そんな気落ちするようなことでもないだろうに。と、不思議に思った。
「コガネ、昔よりも真面目になったな」
俺が率直に言うと、コガネは急にとぼけたような顔をして、
「そ、そんな事無いっすよ。ロックンロール!」
虚勢を張るようにコガネは大声を出した。
ロックモードの彼女を装っていたけど、顔つきは総務部モードのままだ。
その態度を見て、俺は確信した。
コガネは昔と違っている。
あの時の彼女はただ……もっと無心で、がむしゃらで、失敗を恐れない人間だったのに。今はどこか影のある雰囲気だった。
「もしかしてだけど……責任を感じてるのか?」
「せ、責任って何のことっすか?」
「沢山の部下達のことや……何より、リリィの事でさ」
「……それは……」
コガネはメガネを外して、急にレンズ掃除を始めた。
そして何も言わないで暫くそうしていたかと思うと、ふいに呟いた。
「だって、そうでしょう?
妹……リリィがやったことの大きさを考えたら……私は……」
消え入りそうな声で、ポツリとつぶやく。
……やっぱり、彼女はリリィの事を責任に感じていてからこそ、こんな組織を作っていたのか。
「でもさ、みんなその事を知っていて、コガネの元に集まってくれてるんだろ?
だったら気にするなよ。罪悪感なんて感じる必要ないし、笑ってりゃ良いじゃないか」
「そうはいかないんです! 私はリリィの唯一の肉親として、やらなきゃいけいない。
……私がしっかり者にならないと……」
その言葉を聞いて、悲しくなった。
……俺がもしも彼女の立場だったら、妹が人間の破滅を望んでいて、それを実行しているとしたら、責任を感じないわけがない。
だからきっと……俺が何を言おうと、彼女の両肩からその重りを取り払うことは不可能だろう。
「気にすんな」で、済む問題じゃないか……
……そして、彼女の気が楽になるときが来るとすれば……
「わかったよ。俺が絶対に西日本の奪還を成功させる。
その後はリリィを止める。絶対、『死んでも』やりとげるよ」
俺は彼女に約束した。それ以外に、事態を解決する方法はないだろうから。
「ありがとうございます。……それと、もう暗い話はやめにしましょうか。
ともかく今は西日本の奪還を最優先に……と、そういえば東日本は今どうなっているんですか?
リッツ君が東日本統括司令になったことは分かりましたけど」
「ああ、リッツなら問題ないよ。
口のうまいヒュムノールが補佐してくれてて、今は人間についての待遇改善の為に動いてくれてる。元通りとはいかないけど……魔物と人間の対等の関係を目指してるよ」
「……でも、そんな事したら魔物たちから反発されるんじゃないですか?」
「そりゃあそうだろうけど。ま、リッツは人気あるし、平気だろう。
ともかく、今は西日本についてだ。次の作戦は考えてるのか?」
「……いえ、実を言うと全然ないんです。
西日本の情報筋はスパイが紛れ込んでいるみたいなので信頼出来ませんし、
向こうも警戒のレベルをあげてきているでしょう。
暫くは様子を見て、敵が油断したところを再び奇襲する……くらいですね。
それに、前回の奇襲作戦で備品を沢山壊してしまったので、資金不足なんですよ」
「リッツから貰えば良いんじゃないか? あいつめっちゃ偉くなったし」
「ゲリラ組織を支援しているって事を誰かに知られたら、それこそリッツ君が殺されますよ?
少なくとも、西日本を制圧するまでは、なるべく彼らとの連絡は避けましょう」
「た、たしかにな……う~ん、金稼ぎかぁ……どうやってやるんだ?」
考えてみると、今の世界では人間は奴隷だ。
労働で金を稼ぐのはほとんど不可能だろうし、まともに取引をしてくれる相手も少ないだろう。
「闇の市でアイテムを売ることです。
人間が戦闘用のアイテムを売買出来るのはフェアリー達によって運営されている闇の市だけ。
安く買い叩かれて、高く売りつけられるので……なかなかお金稼ぎは大変ですけど」
「ふ~ん……なら、ダンジョンでアイテムを集めて、闇の市で売るのか」
「そうです。以前、ダンジョン系企業がやっていたのとおなじ事ですね。
ただ……以前よりはるかに効率が悪いですけど、仕方ありません」
コガネがため息混じりにつぶやく。
「あ、もしかしてアイテムが手に入ればダンジョンに行かなくても良いのか?」
「……? それはそうですけど、ダンジョンに行かずに他にどうやって?」
「いい方法が一つあるかも、手っ取り早いやつがさ」
俺がニヤリと笑いながら言うと、コガネは急に焦り始めた。
「も、もしかして盗みでもするつもりですか?
それは駄目ですよ! いくら私達がゲリラ組織だからってそんなことは……」
「いや、そんな事しないよ。それに、盗むよりももっと簡単だ。
ただ、栓のある空き瓶を用意してくれるだけでいい」
「空き瓶ですか……?」
☆
翌日の昼、人類解放軍アジト内にある大浴場に、俺とコガネ、あとは数人の仲間達が集まった。
用意されたのはコラ・コーラの空き瓶だった。
ちょっと予想していたのと違うけど……ま、いっか。
「はい、言われたとおり、100個ほど空き瓶を集めてきましたけど、大浴場で何をするつもりですか?」
コガネが首をかしげた。
「あー、コガネには俺のユニークスキル、【生命の血】の事は話してなかったか」
「【生命の血】? ああ、確か血液がポーションになるユニークスキルですよね。
あんまり効率の良いスキルじゃないですけど……あ」
「そうだ。不死のおれなら、無限にポーションが作れる。とりあえず、今日の目標は用意できた瓶の数と同じ百個ってことで」
えっと……ビン一つがだいたい200mlで、今の俺の血液が多分四リットルくらい……全部の血を体から絞り取るのは難しいだろうから、多分一回に取れる血液が2リットルとすると……
「……多分、10回くらい死ねば、百個のポーションが作れるかな?」
俺は手首を自分で切り落として、風呂桶の中にドバドバと血を貯めていった。
(グロい絵面でごめん)
それが一杯になったら、俺は次の風呂桶に血を貯めて、その間にコガネと部下達が瓶に血を移し替えていく。
聞こえは最悪だけど、俺の血は体から離れると同時に色を変えて、綺麗な翡翠色に変わるから、実際の見た目はそこまでひどくない。
<……よく平気で自分の手首を切り落とせるっすね。マスター……>
その光景を見ていたナビのディーが結構な勢いで引いていた。
しかし、この程度で引かれちゃ困るな。
5年間の拷問時代を見せたらどんな感想を貰えるのかちょっと気になる。
アレを切り落とされた挙げ句、口の中に突っ込まれた経験があると、もうこの程度なんとも感じない。
ともかく、予想していた通り、10回の死を経て、【最上級汎用回復薬】相当のポーションを百個つくり終えた。本当ならもっと沢山作りたいところだけど、一旦商品の値段を確認するためにも、今はこの程度で良いだろう。




