第十六話 新しい二人の仲間
「私はな、人間が大嫌いなんだ。
お前たちは自然を破壊し、大地から調和を奪った」
エルフのヒュムノールは、俺を見下したままそう言った。
なぁーるほど。初対面で俺が嫌われた理由は、俺が人間だからかぁ、納得納得……
??????
いや、意味不明だ。
「どうして人間嫌いのエルフが人類解放軍に参加するんだ?」
「……フン、私だってこんな事に力は貸したくない」
「いや、だからどうして……」
「遅れてスミマセンッ! リッツ・リンバーラ、只今到着しました!」
と、その時。また別の魔物がコガネの執務室に飛び込んできた。
背はかなり低い。150センチくらいの少年で、背中の羽と露出の多い服なんかから判断するに、淫魔のようだ。
男の淫魔、つまりインキュバスか。
インキュバスも【最上位種】の魔物。戦力としては申し訳ないけど……また、魔物じゃないか。
「り、リッツ♡」
すると、途端にエルフのヒュムノールの顔つきが変わった。
ニヤニヤと笑いだしたと思うと、心なしか、頬は紅潮してるような……
「来てくれたんだな?」
「うん。ヒュムノールさんも今回の作戦に参加するの?」
「もちろん。愛すべき人類の為に戦う覚悟だ!」
ヒュムノールはグッっと握り拳を作って、笑った。
さっきまでと全然感じがちがう。
何だコイツ……リッツにはデレデレじゃないか。
「ともかく、二人は彼の部下として、東京に向かってください。
そこで山田哲人東日本統合司令を倒し、東日本の支配を人間の手に取り戻すんです」
そしてコガネは俺を指さして、そう言った。
「……え、私がこの男の部下に?」
ヒュムノールの顔つきが、一瞬こわばった。
明らかに不服そうだ。
「わかりました! あの『不死の黒木』さんとご一緒出来るなんて、光栄です。
ヒュムノールさんもそう思いますよね?」
リッツがヒュムノールに同意を求めると、
「もっ……もちろん! いやぁ、大感動だよ。
私も昔からあなたの大ファンでぇ」
と言って、彼女は俺に握手の手を差し出してきた。
……何にせよ、握手はしておこう。
そう思って手を差し出すと、彼女は俺の手の骨を折ろうとしてるんじゃないかってくらいの力で、思いっきり握ってきた。
「いやぁ、大感動ですよぉ、ホントウニ……こんな人間の下で働けてえ……」
この人、ホントにエルフだよね? あのおしとやかな、自然と調和を愛する種族なんだよね?
何にせよ……この二人が俺の部下に加わった。
一人はエルフのヒュムノール。年齢は四百歳だそうだ。
六属性全ての魔法に精通する、魔法のスペシャリストだとか。
性格とか、思想とかは別にして、かなりの実力者であるのは間違いない。
そしてインキュバスのリッツは、まだ未成年。
基礎ステータスも、平均でE程度らしく、以前の俺よりはいくらかマシって程度だ。
どうしてそんな彼が重要な作戦に参加するのかというと、
彼の持つユニークスキル『魔の魅了』の存在が大きいだろう。
魅了とは、言葉どおり相手を魅了するユニークスキル。
ただし、その効果対象は異性の人間に限られている。
だが、リッツの持つ『魔の魅了』は違う。人間に効果がない代わりに、異性の魔物を魅了するんだ。
幸い、コガネみたいな半魔人には効果がないらしいが……ヒュムノールを見ての通り、魔物には効果バツグンだ。
リッツが部屋に入ってきてから、視線は常に彼の方を向いてるし、何か距離が近いし、何かにつけて彼に触ろうとしてる。
普通の魅了だと、その効果はせいぜい一晩だけしか持たないんだが、魔の魅了はそんなのお構いなしだそうだ。半永久的に効果が継続して、彼に対する好意が薄まることはない。
……なんか怖いな。その能力。
ただ、当の本人は人間の女の子が好みだそうだから、
「淫魔って種族は、『魅了』という種族ユニークスキルを基本的に誰でも持ってるんです。
でも、僕にはそれがなくて……代わりに、『魔の魅了』を授かったんです」
残念そうにぼやいていた。
「なるほどな……でも、どうしてリッツは人間を助けてくれるんだ?」
そして、そうだ。
この点が疑問だった。彼はどうして人間を助けるのか。
それがわからなかった。
今、世界は魔物たちのもの。インキュバスのリッツがそのために戦う理由はないはずだ。
望めば、人間の女の子の奴隷を買うことも出来るはず。
「僕たち淫魔は、みんな人間好きで、
人間が他の魔物たちに奴隷にされてるのは、我慢できないんです」
と、リッツ。
なるほど、そう言われてみると……淫魔は人間と関係を持ちたがる。
淫魔からすれば、人間は居なくてはならない絶対的な共存対象。
たぶん淫魔連中は元の人間と魔物の関係が好きなんだろう。
よく考えてみると、俺が魔神界から帰ろうとした時に手助けをしてくれたのもサキュバスだったし、淫魔は基本的に人間側に立っているのかもしれない。
「なるほど。そうか」
とりあえず、これで新しい仲間に対する小さな不信感を払拭できた。
……ま、ヒュムノールについてはまだ不安だけど、リッツが人間の味方でいてくれている限り、彼女も人間の味方でいてくれるだろう。
☆
日本奪還作戦はすぐに決行される運びとなった。
コガネをトップに据えた本隊は西に、俺達三人は東へ進んだ。
幸い、リッツもヒュムノールも魔物。堂々と新幹線に乗って東京まで移動出来た。
俺はそういうわけにも行かないから、大きめのキャリーバッグの中に入って、荷物として移動。
そのまま電車を乗り継いでトウキョウのカスミガセキまで移動して、山田ぶちょ……いや、『山田哲人東日本統括司令』が暮らしている官邸に向かった。
「流石に、厳重な警備だな」
建物の外、道路を挟んだ向かいから官邸の様子を眺める。
すると、何人もの警備員が建物の周囲を常に監視していた。
人間にも見えるが、それにしては肌が青白すぎる。
……多分、あれはデーモンだろう。
レッサーデーモンではなく、最上位種であり、魔人であるデーモン。
うーん、どうしたものだろうか? と、俺が頭を悩ませていると、
「さて、あの建物に隕石の雨を放てば万事解決だな」
そう言って、ヒュムノールが早速ムニャムニャと詠唱を始めた。
なんですか、そのあからさまにヤバイ魔法は……
「……いや、ちょっと待った。皆殺しにする気か?」
「そうだが? まあ、多少街に被害が出るかもしれないが、相手がよほどの強者でない限り、この方法なら確実に殺せる」
「官邸の中には人間も居るかもしれないし、
何より、そんな無差別テロみたいな真似は良くないだろ……
できるだけ殺したくない」
「甘いことを言うな、馬鹿者。これは戦いだ。
手を抜いて勝てるなどと思うな。こちらはたったの三人。まともにやりあって勝てる確証はない」
「でも……」と、言い澱んだ。
相手は四百歳で、はるかな年上だ。
何か有無を言わせない威圧感があって、それに気圧されてしまった。
……俺が隊長なんだけどな。
「待ってください!」
しかし、リッツがヒュムノールの手を掴んで、首を横に振った。
「ヒュムノールさん。甘いのは分かりますけど、できるだけ誰も殺さずに作戦を終えたいんです」
「そ、そうかぁ……なら、やめよう。うん、私も実を言うとやりすぎかもなと思っていたんだ」
はい、これでとりあえず大量虐殺は免れた。
ただ、監視網をくぐって中に入るのはかなり難しそうだな。
門の前と、その中にある建物の前にそれぞれ二人ずつ、計四人、警備の魔物が立っている。
最上位種の魔物四匹を相手に、音もなく勝とうなんて、いくらなんでも虫が良すぎるだろう。
うーん、どうしよう。と、頭を悩ませたが、すぐにとある事に気づいた。
監視員達は全員の女のデーモンだった。
……もしかして、山田の趣味かな?
なんにせよ、これなら話は簡単かもしれない。
「なあリッツ。君の勇気を見込んで頼みたいんだが……彼女達を説得して、警備員を仲間につけてくれないか?」と、頼んだ。
「え……はい。わかりました。任せてください!」
リッツは少しだけ表情をこわばらせたが、すぐに了承してくれた。
「ちょっとまて! それはリッツの身に万が一の事があったらどうするつもりだ?」
ヒュムノールが声を荒げる。
「それは……大丈夫だ、向こうも子供の淫魔に手を出すようなことはしないだろ」
「駄目だ。絶対にだめ、私は許さないからな」
「ヒュムノールさん。僕のことを信頼してくれないんですか?」
涙目で、リッツがヒュムノールを見上げる。
頬はほんのり赤く、髪の毛は黒くて艶がある。
その外見は純朴な少年のようだったし、同時に、やっぱり淫魔らしい魅力を持っていた。
「そ、それは……しかしだな……もしもということがある。
大河原なら死んでもいいわけだし、彼一人に任せるというのはどうだ?」
「駄目ですよ。それじゃあ大きな騒動になっちゃいます」
「なあヒュムノール。リッツもこう言ってるんだしさ、任せてみよう……」
「オイッ! そこの三人! さっきからそこで一体何をしている」
マズイッ! 最悪だ……気づかれた。




