第十五話 久々にステータスチェック
長い監禁生活の後、俺は明らかに強くなっていた。
魔神界で、レッサーデーモンを相手に素手で勝ててることから、それは明らかだ。
だから俺はこの五年間の間に俺の身に起きた変化を知りたくなった。
俺はコガネに頼み込んで、ナビ、リュックとはなんとか支給してもらえた。
(武器防具は魔神界で拾った物をそのまま使ってる)
もちろん、井川鉄鋼の頃とは違って、物資に余裕はない。
異次元リュックの方はまあ良いとして、ナビは型落ちの古いやつだった。
ナビ名前は 『DTR-3000』 、一応、通常の機能については特に問題ないらしい。
ただし……
<俺のことは、ディーって呼んでいいっすよ、マスター>
唯一の問題は、このナビには人格が有るってことだ。
……しかも、やけになれなれしい。
<何か仕事は? マスター>
なんでも長い期間使われたナビは、自然に人格が発生してしまうそうだ。
最新機種ではそんな『問題』が起こらないように、人格形成についてのバグが取り除かれているそうだが、まあ、別に機能上の問題はないと説明は受けてるし、気にしないでおこう。
「精密ステータスチェックを頼むよ」
<うぃっす、結構時間掛かるけど、大丈夫っすか?>
「もちろん、別に仕事の予定も無いしな」
長い時間、俺はディーに体の隅々まで調べ尽くされた。
視力やら、筋力やら、反射神経やら、肉体の回復力やら……心音、脳波、脊髄反射機能……様々な検査項目を、まるまる三時間ほど掛けて行った。
<結果をプリントアウトするっすね>
「ああ、頼む」
ガーピーと音を立てながら、部屋のプリンターが動いた。
本当にちゃんとステータスを調べられたのかな? と、不安になりながら紙を手に取ると、そこにはきちんとステータスが印字されていた。
==========================
大河原 康隆
基礎値 ※括弧内は前回の測定値からの変化量。
攻撃力 15100 (+15038) <S>
防御力 15500 (+15482) <S>
素早さ 15045 (+14990) <S>
魔力 9230 (+9291) <A>
武器熟練度
剣 5
ステータス評価:A+
スキル
【二段切り】【致命カウンター】【投擲】……その他15種
ユニークスキル
【攻撃力力微増】
攻撃力に1.1倍の補正がかかる。
【不死】
あなたは死なない。
死んだ場合は、肉体のダメージを全て取り払った上で、肉体年齢15歳相当の状態で復活する。
【生命の血】
あなたの血液がポーションになる。
ポーション性能は本人の魔力に依存する。
現在のポーション性能は【最上級汎用回復薬】相当。
【死中に活】
肉体ダメージの大きさに比例して、全てのステータスが一時的に上昇する
【全ては経験】
肉体にダメージを受けるたびに、全ての基礎ステータス値に経験値が入る。
【XXXX】
詳細不明。精神に影響を与えている可能性が高い。
==========================
「え……これは……」
強くなってるのは実感していたけど、これほどとは……
魔力以外のステータスはSランク。ユニークスキルも2つ増えてるし……スキルは表示欄の限界を超えたせいで、省略されてるな。
多分、この【全ては経験】という新しいユニークスキルと、長く続いた拷問生活の組み合わせで信じられないくらい成長したんだろう。
ダメージが経験値に変換されるなら、五年間で俺ほどダメージを受け続けた存在は他にないだろうしな。
ただ、俺の注意を引いたのは凄まじいステータスよりも……『大河原』という名字だった。
<道真っちの息子なんっしょ? 聞いてますよ。
俺、元々あの人のナビだったんすから>
ディーが俺の驚きを見透かしたかのように言った。
こいつ……本当に機械なのか疑わしいな。実はコガネが遠隔操作してるんじゃないか?
そう思いながら、同時にちょっと心遣いが嬉しかった。
「……いまさら名前を変えると、みんなに説明するのが面倒だし、名前は黒木のままでいいよ」
<そうっすか。了解っす>
「あと、ユニークスキルのXXXXってどういうことだ?
まったく新しいスキルでも、命名規則に従ってちゃんとスキル名がつけられるはずだろ?」
<このスキルが与えている影響が測定不能で、名前をつけらんないんスよ。
暫くマスターのステータスをサンプリングしてみれば、何か分かるかもしれないっすけどね>
「そんなこと有るのか?」
<かなり特殊な効果を持つスキルなら、ありえるっす。
いずれ正式な名前がつくと思うんで、あんまり気にしないでくださいよ。
ま、今言えるのはこのスキルがマスターの精神に何かしらの影響を与えているということと、【レジェンダリースキル】だって事だけっすね>
「ふぅん……そういうこともあるのか」
精神に影響……檻から脱出するための気力が突然湧いてきたのは、このスキルの影響なのかな?
成長は五年間でゆっくりと進んだはずだろうし、
だとすると、バッドスキルって可能性は低いだろうが、正体が何なのかは気になるところだ。
何にせよ。うん。
成長は素晴らしい。
これで俺も、ミカやコガネに引け目を感じずに戦えるだろう。
そう思うと、足取りが軽くなる。
次の目的をどこに定めるか、コガネがリーダーなわけだし、彼女に相談してみるか。
そう思って、俺は彼女の執務室に向かった。
☆
「コガネ、居るか?」
俺が声を掛けると、コガネは書類の山の間からヒョイと顔を出した。
髪の毛はボサボサ。人類解放軍の長として、仕事に追われてるらしい。
そしてどうやら、顔つきから判断するに、ダンジョン攻略時に見せる『ロックモード』ではなくて、総務部で仕事をしている時の生真面目な彼女だった。
「黒木さん。どうしたんですか?」
「実はさ、ステータスチェックをナビに頼んで、それが今終わったところなんだけど……」
「そうですか。ちょっと見せてもらっても?」
「……そう、だな。ほら、これだ」
俺は少しだけ躊躇してから、彼女に自分のステータスの表を見せた。
一昔前だったら、たとえ上司が相手でも、自分のステータスを見せるような事はプラバシー的な問題から、ほとんどありえない事だった。
けど、状況が状況。くだらない事を恥ずかしがっている場合じゃない。
「え~っと……ふむふむ……え……すごいですね」と、ひと言。
そしてコガネは突然立ち上がると、
「これなら、もう、作戦を決行する事も出来るかもしれません」
「作戦? リリィ達と戦う気か?」
「いえ、それは後です。
たしかに私達の最終目的は、リリィ・イシグロ及び、彼女の腹心、四天魔王の討伐ですが……」
「なら、戦おうじゃないか」
俺が言うと、彼女は目を丸くした後、首を振った。
「でも、それがそうもいかないんですよ。
リリィとその腹心達は魔神界深部で『古き者』達との戦いを続けています。
詳細は不明ですが、内通者によると90層付近の攻略をしているとか。
反対に、我々は第30層、つまり黒木さんが監禁されていた場所までしか到達したことがありません。
つまり……言わなくてもわかりますね? 私達は、リリィ達に顔を合わせることすら出来ないんです」
「……でも、魔神界に乗り込んで連中を倒す。それ以外に方法はないだろ?」
「いえ、あります。
リリィは地上の支配を部下に任せている。
もしもそれが揺らぐようなことがあれば?」
「……様子を見るために、地上に戻ってくるかもな」
「そういうわけです」
コガネは頷いた。
「なら、そのための作戦を決行するってことか」
「その通りです。
黒木さん。現在、日本を取り仕切っているのが何者なのか、聞いてます?」
「知らないな」
「西日本を仕切っているのは4つ腕デーモンのグリス。そして東日本を仕切っているのは……山田哲人です」
「は?」
急に、懐かしい名前が出てきた。
俺の元上司と同姓同名……まあでも、あの山田部長なわけないよな。偶然の一致って奴だろう。
「元井川鉄鋼書類整備部部長の山田哲人……つまり、黒木君さんの元上司です」
が、コガネが改めて、俺に分かるように言い直してくれた。
つまり、偶然の一致じゃない。
今、東日本を牛耳っているのは、かつての俺の上司……
「あの人、人間だろ?
なんでまたそんな重要なポジションに座ってるんだよ」
「それが、あの人は私やリリィと同じく、デーモンと人間の半魔人らしいんですよ」
「ええッ? そんなの聞いたこと無いけど……本当かな?」
「さあ、実体は不明です。半魔である事を調べるのは簡単じゃないですから。
でもあの人が東日本のトップだということには間違いありません」
「『あんな奴』がトップなんて、本当に魔神教会も人手不足なんだな」
うんうん。人のステータス表を他人に見せびらかして喜ぶような小物だ。
……それに、ダンジョン攻略部から左遷されたことを考えれば、大した実力もないだろう。
「さきほども言いましたが、この地上に残ってる連中は二軍。
本当に人類に戦う覚悟があるのなら、決して負けはしないでしょう」
「それが分かっているなら、どうしてこの惨状が放置されてるんだ?」
「立て続けに起きた【最悪】は、戦う力を持つ人達から、その希望の芽を摘み取った。
世界最高の戦力が無残に敗れた後、もう多くの人の心には……ロックな心は残らなかったんです」
至極真面目な調子で、コガネが呟いた。
しかし同時に、彼女の目には炎に近い何かがあった。
「でも、私達だってこの五年間に何もしてこなかったわけじゃありません。
日々戦い、情報を集め、そして仲間を探し続けてきた」
次第に、コガネの言葉に力がこもり始めた。
事務的な感じは消えて、指導者としての気風と呼ぶべきものが宿っている。
「そして、『最悪の裏切り』の犠牲者であり、同時に『不死身の黒木』であるあなたが帰ってきた今、人類解放軍の士気はかつて無いほど高まっています。それに、心強い新戦力も加わったばかり。今が最高の好機です」
「心強い新戦力?」
「ええ。ナビ、あの二人を呼んで」
コガネがナビに声を掛けて、少しすると執務室の扉が開いた。
「……え」
入ってきたのは、背の高い女性。
耳は尖っていて、髪色は薄緑色のショートカット。背は高くて……この人は……
「もしかして……エルフじゃないか! 実在してたのか!?」
エルフ。魔物の中でも魔人に分類される種族だ。
だが、この人が本当にエルフなのかどうか、確信はない。なぜなら、エルフは伝説的な存在だから。
エルフはダンジョンに生息することはなく、現実世界の未開の森にのみ生息する種族。
だが、その姿を見た人間は居ないとされている。
ウェンディゴやツチノコといった『実在が疑われている魔物』の一種。
つまり、【幻存種】の魔物だ。
「いや……でも、エルフは人間の前には決して姿を表さないはず……」
「間違いなくその人はエルフですよ。名前はえっと……」
「ヒュムノール・グブリテーラ・モンチョモンチョ・ミツレーンだ。ちゃんと覚えろよ、人間」
冷たい顔をしたエルフが、一息に言った。
……な、長い。
「あの、ヒュムノール……で、いいかな?」
「……フン、汚らわしい人間が。私をジロジロ見るな」
目つきはめっちゃ悪い。切れ長で、黒目が小さい。三白眼ってやつかな。
エルフって言うよりは髪を染めた不良娘って感じ。
にしても俺、早くも嫌われてる?
なんで? どうして?




