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007 トリカラ攻略戦3

 ディアーネたちが城門前にたどり着いた時、すでに30人ほどの守備兵がたむろしていた。見張りの声を聞いて集まってきたものだろう。この時点で、守備兵を即座に倒し城門を確保するのは難しくなっていた。


 しかも、人数は時がたつにつれて確実に増えていくのだ。戦いに勝つためには、そして彼らが生き残るためには、すぐにでも行動に移さなければならない。


「行くぞっ!」

 ディアーネ、マリウスは覚悟を決めて守備兵に打ちかかった。レウクトラの騎士たちがその後に続く。


 トリカラの城門前はすぐに敵味方入り乱れた状態になっていた。各所から騒ぎを聞きつけ、城兵たちが集まってくるのが見える。ディアーネたちはなんとか城門のすぐ前までは辿り着いたが、どうしても門を開けるための装置には届かない。


「ちっ」


 事態が刻一刻と悪化していくのが分かり、マリウスは珍しく焦っていた。どんな時でも皮肉を絶やさない男が、心のなかで冷や汗をかいていたのだ。

 彼らが任務に失敗すればこの戦いは負けることになる。レオンは皇帝の信用を失い、計画は後退することになるだろう。


 だがそれだけではない。彼らがここで死ねば、レオンはその両腕を失うことになる。客観的にいって、マリウスとディアーネ無しに、レオンが帝国を手に入れることが出来るとは思えなかった。

 自分たちが替えの効かない存在である、それぐらいの自負は持っていた。


 そして、その気持ちはディアーネも同じだった。剣を振るい敵の命を奪いつつ、彼女は新たな敵が次々と現れるのを目にする。わたしはここで死ぬ、その予感が刻一刻と強まっていった。


 すでにレウクトラの騎士は半分ほどに減っていた。このままでは全員が倒されることは確実である。普通の戦場であればどこかに逃げ道があるものだが、この場合は城門を開けなければどこにも退路はないのだ。


「ディアーネっ!」

 いつの間にかマリウスがディアーネの背後まで来て、ピタリと互いの背を合わせた。


「降伏しても受け入れてもらえないだろうな?」

「ええ、残念ながらね! わたしたちはテッサリアに勝ち過ぎた。いまさら許してくれないでしょうね」


 ディアーネはそう言いながら苦笑いを浮かべた。テッサリアの奥深くまで進攻する過程で、彼女たちは多くの人間を殺してきた。敵に彼女たちを生かしておく理由があるとは思えなかった。


「ここが最後だとすれば、お前に言っておきたいことがあるんだが……」

「なに!? 早く言って!」

 この非常時にマリウスは何を言おうとしているのか。ただでさえディアーネは敵を押しとどめるだけで精一杯だった。


「俺はお前の」

 マリウスがそう言いかけた時のことである。


 バサァっ、と鳥が羽ばたくような音が辺りに響き渡った。


 いや、音の大きさが尋常ではなかった。どれだけ巨大な鳥であろうか。ディアーネは音が聞こえた夜空を見上げた。そこには巨大な、とてつもなく巨大なドラゴンが夜空を舞っていた。


「まさか!? レオン?」

 背にはレオンが乗っていた。もとより、現在ドラゴンを操れる者など彼以外にいないのだ。レオンはドラゴンの首筋に騎乗し、長めの槍を持っていた。


 ドラゴンを見慣れたレウクトラ側が歓声をあげるとともに、テッサリア軍は恐慌をきたしていた。伝説的な最強の魔獣を前にして、平常心ではいられないのだ。


「アウルヴァング、炎で敵を斬り裂け!」

 レオンがドラゴンに指示すると、我が意得たりと魔獣が強烈な炎を吐く。「ドラゴンブレス」と呼ばれるドラゴン最強の武器である。その温度は1000度に達すると言われ、ブレスに晒されれば一瞬で灰になる。


「斬り裂け」とは妙な表現に聞こえるかもしれないが、マリウスたちにはよく分かっていた。ブレスが吐かれた直線上は、文字通り斬り裂かれたように敵が灰となるのだ。


 形勢は完全に逆転した。テッサリア兵はドラゴンに気を取られ、もはやディアーネたちを妨げることが出来なくなっていた。


「いまだ! 城門を開けろ!」

 この隙をついて、ディアーネたちはついに城門に取り付いた。この手の城門はハンドル式になっていて、門を上げるためには回さなければならない。レオンが時間をかせいでいる間に、彼らはついに城門を開けることに成功した。


 そして外で待機していたブラウヴァイスリッター(青白騎士団)が、怒涛のように城内に殺到した。


 城内はテッサリア軍と帝国軍とが入り乱れ、激戦が繰り広げられていた。もとより数で言えば帝国軍の方が二倍以上あり有利である。

 さらにドラゴンの牽制によって、テッサリア軍は侵入する帝国軍に集中することが出来なくなっていた。


「敵を掃蕩しろ! ここを制圧した後は、城将を探して捕らえるのだ!」

 マリウスたちは、味方の突入によってようやく一息つくことができた。一時は生きた心地がしなかったため、生き返った感すらあった。


 ディアーネは少し休むと、マリウスを放置して自らも城の奥へと進んだ。

 勝利を確実にするためには、敵の大将の身柄か首が必要になる。今後のことを考えれば生きたまま捕らえるのがベストだが、味方にまかせておけば混乱の中で殺してしまう可能性が高かった。


「敵将ガレスを探せ! 逃すなよっ!」


 ディアーネは奥へと走りながら、部下や兵士に声をかける。途中ダミアンを見つけ、ついてくるように指示する。

 帝国軍はいまだ抵抗するテッサリア兵の息の根を止めつつ、次第に城の奥へと進んでいた。


 だが、ガレスはまだ見つかっていなかった。なにしろこれまでトリカラを他国が占領したことはないのだ。内部の構造を知る者は誰もいない。


 ディアーネはやがて中庭のような場所にたどりついた。両側が通路になっていて、2、30人が集まれるぐらいのちょっとした広場になっているのだ。味方はまだここまでは来ていないようだ。


 中庭には三人の敵の騎士がいた。そのうちの一人は、施された装飾から、明らかに上等な鎧を身につけていた。


「テッサリアのガレスだな!?」

 ディアーネの誰何すいかに対し、ガレスは口元をゆがめた。何とか誤魔化す方法がないかと思ったが、騎士として、そして将としての誇りがそれを許さなかった。


 部下の二人は、ガレスを守るように前に進み出た。


「抵抗は無駄だ。投降しろ!」


 降伏を呼びかけたが、ガレスの反応は薄い。寝返りならばともかく、降伏した将に寛大な処置がなされるとは思えなかったのだ。

 だが、この状況で城から逃亡するのは絶望的であったし、たとえ逃げおおせたとしても、本国が彼をどのように遇するか想像に難くない。ガレスは死を覚悟した。


 ディアーネは、意を決してガレスに歩み寄る。護衛の騎士がそれを阻もうとするが、一人はディアーネがすれ違い様に斬り殺し、もう一人はダミアンが相手をしている。


 ここまで追い詰められて、ガレスはようやく自死することを決意し、剣を首に押し当てようとした。

 だが、遅かった。もし将として無様な様子を晒すつもりがなければ、彼はディアーネたちが来る前にそうすべきだった。しかし名門貴族の出であり激戦を経験していないことから、彼には覚悟が足らなかったのだ。


 ガレスが死のうとする瞬間、ディアーネは素早く懐に踏み込むとガレスの剣を弾き飛ばす。そしてそのまま、剣の峰で延髄に重い一撃を与え、ガレスは一瞬で意識を失った。


 こうして難攻不落のトリカラは、レオンたちブラウヴァイスリッター(青白騎士団)によって占領されたのである。


 トリカラは歴史上初めて他国の支配下となったのである。


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