宇宙都市
宇宙都市ははるか上空、無重力空間に幾つか存在している。宇宙船を改良、巨大化し、
人々が不自由なく生活出来るように都市開発されている。
それぞれ役割分担があり小型都市、中型都市、大型都市に分かれている。
まだまだ重力発生装置には改良の余地があり、大人になれば慣れて感じがしないのだが、
ごくわずか、本当にごくわずか、たまに重力の乱れが生じる。
子供は敏感なのか、かなが何だか落ち着かない感じも・・・と言ったのはこの事だろう。
一応は宇宙船であるので、緊急時には遠く離れた場所に移動する事は可能だが
ほとんど行われていない。宇宙都市間の移動は小型シャトルを使う。
ただ地上から宇宙都市までは時間も費用も掛かるので、富裕層以外気軽には行けないようだ。
物体転送装置の開発で急激に進展をしているが、宇宙都市での人口はまだまだ少ない。
従って生命体転送装置の開発が待ち望まれているのだ。
ひとみの母親が運転する車がレジャー施設へと向かっているその頃、宇宙都市の研究室で
会話が繰り広がれていた。かな達の母親とその助手達だ。
「まみ博士っ!いよいよ、人体での転送が可能になりますね?」
「あぁ、もう少しだ。」
まみ博士とはかな達の母親の事で、周りからもかなり信頼されている。
「こちらでも人体以外の生命体確認は出来ているからな。」
「そっ、そうですね。こちらでも早く行いたいのですが・・・」
助手の一人がそう答える。まみ博士の生命体転送装置はかな達の設計を基に
かなりアレンジされている。発表も量産化準備も出来ているのだ。
「人体で行う場合、今は許可を取るのにかなり時間が掛かるからな!」
「そっ、そうですね。保険金もかなり高額ですし・・・」
別の助手が付け加えて答える。
「身内だと許可も早いし、保険金もいらないですね。」
「あぁ、そうだな。被験者の気持ちが変わらなければなっ!」
まみ博士は顔色変えずに返事をする。ある程度期間を空けたのは、
ななや翔の気持ちの変化が表れないように、バカンスを与えたのだ。
いきなり始めても臆する場合もある。気分転換が必要なのだと・・・
物体転送装置が発明された頃、許可を取る必要もなく人体での転送実験を
あらゆる組織で行っていた。
その事により、魂の抜けたもぬけの殻の状態の人々が増えてしまい、
生きているのだが全く動かなくなってしまっていた。
従って人体実験は許可制になり厳しくなっていくのだった。
ひとみの母親が運転する車がレジャー施設のホテルに到着した。
夕方頃になり、辺りは暗くなり始めている。ホテルのロビーにて、
「今日は移動で皆疲れているから、明日一日レジャー施設を巡りましょうね。」
とひとみの母親が子供達に話しかけると、
「は~いっ!」
と子供達は元気に返事をした。こう見えて、ひとみの母親を怒らすと怖い事を
皆は知っている。大衆の面前では行儀良くしているのだ。
だが子供達皆は・・・
(疲れているのは、ひとみのお母さんだけでしょ!)
と思ったが口には出さないでいた。
受付にてチェックインしようとするひとみの母親。その横で、
「料金は予め全て(全員分、ホテル、レジャー代)払い終えているから・・・」
「もし足らなければ後で勝手に引き落とされるし・・・」
「私のお母さんの名前を言ってキーを受け取るだけで大丈夫だよ!」
とさなは話し掛けた。ひとみの母親は分かったと言う顔で受付と話をしていた。
受付でキーを受け取ったひとみの母親。
「悪いわねっ!」
とさなの方に振り向き、返事をした。
「いえ、いえ、こちらこそ、お世話になります。」
と笑顔で答えるさなであった。
さな達の家庭はひとみの家庭より、ずっとずっと裕福だ。何しろ物体転送装置を
発明した家族である。お金には困っておらず幾らでも使えるのだ。
かなやさな達は贅沢する時は思いっ切り贅沢をし、引き締める時はちゃんと引き締めて
生活をするように心掛けていた。
泊まる部屋に辿り着いた一同。部屋の中に入ると全員が驚いていた。
ホテル最上階。かなり広く眺めが良い。部屋数も多くあり、十分過ぎる位だ。
寝室の部屋割りをし、大浴場に入ってから夕食をする事に決めた。
部屋割りは、ひとみの母親、翔、ひとみとなな、かなとさなになった。
「じゃあ、お風呂入ったら、食堂に集合ねぇ!」
とひとみの母親は子供達に声を掛けた。
部屋割りの寝室で、なながひとみに話し掛ける。
「ひとみ、早く行こう、行こう!」
と荷物の整理もろくにせず催促するのであった。
結局、ひとみに注意され渋々顔になるなな達が一番最後に寝室を出るのであった。
寝室から出てきたさなとかなはすでに準備を終えた翔の近くに立ち寄り、
さなが声を掛けた。
「翔くんも女湯?」
と意地悪そうに言うと、流石の翔も顔を真っ赤にして照れていた。
「えっ、えっ、男湯だよ。」
と答えると、残念そうなかなの顔がそこにはあった。
「まぁ、そうだよね。」
とさなは笑っていた。そして話を付け加えるように部屋から出てきたななとひとみを見て
ななを指差し、翔の方に振り向いた。
「ななの水着、私達が選んだから明日期待してねっ!」
とニヤニヤ顔のさなであった。
皆揃った所で、大浴場へと足を向けた。
宇宙都市のとある自室。一人の女性がワインを片手に何やら微笑んでいた。
かな達の母親、まみ博士だ。
「あともう少し、あともう少しで野望が現実に・・・」
「アッハッハッハーっ!」
ともう片手には翔の両親の若い頃の姿が写る端末モニターを握っていた。
翔の両親はもうこの世にはいない。翔の幼い頃に実験の事故死と見せかけて殺されていた。
身寄りのなくなった翔はまみ博士が身元引受人になったのだ。
翔はまだこの事を知らない・・・