決心!
実験成功の数週間後、地下研究所兼住宅のリビングルームにて4人での会話が繰り広がれていた。
かなとななはお菓子を食べながら、さなは端末を覗きながらお茶を飲む。
側にいる翔はベスに餌を上げていた。
「うーん、ほぼ動物や昆虫とかの生き物、植物での実験は成功したわね。」
さながお茶をテーブルの上に置いた。それを見たかなはちょっと不安そうな顔をしている。
「そう、そうね。特に問題はなかったし、ベスもこの通り元気だし・・・」
かなはそう答えるとさなもちょっと不安気な様子になったが、研究者として覚悟を決めているのか
淡々と喋りだした。
「後は人での結果次第ね。初めて成功して完成と言えるわね!」
「お母さんからも催促されているし、これが実用化されれば何処へでも簡単に移動できるわよ。」
「お母さんの住んでいる宇宙都市にだって、この転送装置が設置されればすぐに会えるわ!」
さな達の母親はその実力を買われてか今は宇宙都市者として実権を握り、
研究者として日々様々な実験を繰り広げている。
「そうなんだけど、連絡はこまめに出来るし、やっぱりねぇ・・・いざ人となると・・・」
「はなちゃんの事もあったし・・・」
かなは悩んでいた。分かってはいるけどまだ余り覚悟は決め兼ねていたようだった。
はなとは一体誰の事だろうか。
「事故だったでしょう。実験でとは聞いてないし・・・」
「でも・・・」
さなも分かってはいたが詳しくは知らない。母親から聞いた話だけのようだった。
その会話を聞いていたななも少し悲しげな表情に変わっていた。
「はなも生きていれば今も一緒に学園に通えたのになぁ・・・」
ベスの餌を上げ終えた翔もなな達が座っているソファーに腰を下ろした。
同様に悲しげな表情をしていた。
「ななちゃんとはなちゃんって仲良かったからね。本当に見分けが付かなかったよ・・・」
「かなちゃん達と違って・・・」
さなとかなの様子が少し変わった。そして二人同時に・・・
「えっ!見分けが付くの・・・?」
「翔っ!」
慌てた表情の翔がそこにはいた。
「いや、いや、違うって!かなちゃん達もだよっ!」
睨んだ様子で翔の表情を見ていた瓜二つの金髪少女。今は服装は同じだが髪型はいつも通り
見分けが付くようにかなはポニーテールに、さなはツインテールに髪を結んでいる。
「本当に本当なの?」
やっぱり疑問に思っているかなはさなの手を掴みソファーから立ち上がった。
「今日はまだやってなかったよねっ?いつものどっち?」
「うん、まだだよ・・・えっやるの?」
翔がそう言うとかなはさなの手を引いてキッチンの方に行ってしまった。
その様子を見ていたななは翔の方に振り向き、疑問を投げかけた。
「翔ってお姉ちゃん達の見分けが出来るの?私は無理だけど・・・」
「う、うーん。何となくかな・・・どうだろう・・・」
あやふやな返事をした翔に対してどうでもいいかなって感じのななであった。
数分後、瓜二つの金髪少女達が翔達の前に現れた。本当に見分けが付かない同じ格好で・・・
「さぁ、翔!どっちがどっち?」
少しの間眺めていた翔は意を決したかのように答えるのだった。
「僕から見て左がかなちゃんで右がさなちゃんでしょ?」
「ちっちっ!違うーっ!!!」
と二人同時に叫びながら翔に近づき、二人同時に本気のダブルデコピンを翔に叩きのめすのだった。
ななも呆気にとらえながら、その光景を見て驚いていた。
「翔っ!凄い!百発百中だよっ!!」
不正解の事を言っているのか、おでこに見事に決まった事を言っているのか分からなかったが、
翔は腰を落としておでこを押さえて痛がっていた。
「やっぱり、翔、分かっているよ!かなっ!」
さなは興奮気味でかなに話しかけるとかなも間違いないっと言った感じの顔をしていた。
「翔くん、私達に気を使っているのかなぁ?」
「ほら、私達にデコピンしたくないから・・・」
ななに手を引かれて起ちあがった翔はおでこを押さえながら瓜二つの金髪少女達を眺めた。
「あいたたたたぁーっ、ごっごめん。何となく、何となく・・・(誤魔化しながら)」
それを聞いた瓜二つの金髪少女達はお互い顔を合わせ、翔の方に振り向いた。
「私達だってお互いに鏡を見たら分からないくらいなのにどうして・・・」
かな、さな、ななの不思議がっていた雰囲気に翔は少し笑いながら、その場を誤魔化す為に
御手洗の方に体の向きを変えるのだった。やっぱり秘密は持ちたいものだと思った。
「おでこ、気になるから鏡見てくる。」
「秘密だよ、秘密・・・(小さい声で)」
翔が御手洗の方に消えるとかな、さな、ななの三人はお互い顔を合わせ、何でだと検討会議をした。
暫くして翔が三人の側に戻ってくると、三人ともソファーに座っていつも通りの行動をしていた。
かなとななはお菓子を食べながら、さなは端末を覗きながらお茶を飲んでいた。
髪型は見分けが付くように元通りに戻していた。
それを見てほっとしたのか翔もソファーに腰を落とした。
暫く沈黙した後、さながかなを見つめてから深刻な面持ちで口を開いた・・・
「あなた達、お母さんから話は聞いていると思うけど・・・」
ななも翔も深刻な面持ちになり、さなの話を聞いている。
「次の実験段階では人で行う事になるの。お母さんから許可も出ているわ・・・」
「それで・・・、決心は・・・」
さなも本当は辛いようだ。でも研究者として心は決めている。顔を見ても分かるようだ。
かなは渋々と言った感じだったが・・・
「男女2名。ここでの実験は極秘になっているから身内の協力が必要なの。」
「私達二人がどっちかやってもいいんだけど、トラブったら対応しないといけないから・・・」
「翔くんは血がつながっていないけど・・・、お母さんが家族同然だからと・・・」
話を聞いていたななと翔は既に決心はしていたのか、力強い顔付きになり、見つめ合い、
二人供同時にうんと頷いたかのように、さな達二人の方に見つめ直した。
「翔っ!」
「うん!」
「私達二人は大丈夫だよ!実験に協力させて!」
ななのその言葉を聞いた翔も力強く答えた。
「勿論っ!協力させて!僕も家族同然と思っているから!」
二人の言葉に安心したのか、さなとかなの二人は顔が少し緩みほっとした表情になっていくのだった。
実のところ最初から二人は実験動物的な役割として、母親はここに暮らさせていたのだ。
二人の意思とは関係なく、断った場合には強引にでもと・・・
血のつながっていない翔は兎も角、血のつながっているななまでもそうだった。